第八百四十二話
通常の人間であれば『疲労』というものが蓄積するはずである。
人間の体は確かに激しく動かすことは可能だが、激しい動きを繰り返していると、体が悲鳴を上げ始めるものだ。
脳のリミッターを意図的に解除するだとか、痛覚をなくすような処置のようなものは魔法関係の技術が発達してくると『ある程度安全に使えるもの』が出てくるものだが、だからと言ってそれを使いすぎるとよくないことばかりだろう。
秀星と基樹は、相対した瞬間から戦い続けている。
もちろん、周囲の建物はぶっ壊れるし、塗装された道路はマグマに変わって基樹の射出材料になったのでもっと下の地面が曝け出されており、足の踏み場もない。
……基樹は『援軍来ねえかな』とか何とか言っていたが、ここまで会場がボロボロになると正直援軍だって戦いにくいに決まっている。
三十分ごとに再構築されるのでそのあたりは問題ないのだが、この二人の戦闘の規模を考えれば焼け石に水である。
「……あいつら。マジでいつまで戦ってんだろうな」
「ああ。正直人間じゃねえ」
そのため、こんな言葉がスタジアムのどこかから聞こえてきたとしても、不思議なことはなにもない。
……のだが、これを言っているのが高志と来夏なので、『寝言は寝て言え』となるだろう。
そもそも圧倒的な行動力を持ち、そしてそれを実行してしまえる『ギャグ補正』を持っているのだ。今更動き続けることができる程度の物理現象を突破する程度のことは軽々と踏み越えるに決まっている。
「基樹はあの状態だとギャグ補正を持ってないんだよな。いったいどうやってあそこまで動き続けてるんだろ」
「俺たちとはそこは大きく違うもんな。うーん。そこは俺にもわからんな」
自覚はあるのか。
人は戦うことはできても戦い続けることはできない。
正直『キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ!』とか、明らかに茶番だろう。素人活劇は他所でやれという話だ。
ただ、秀星も基樹もお互いに一発も相手の攻撃を食らっていないので、ちょっと規模がおかしくなっている上に攻撃も多種多様だが人のことは言えない。斬撃を主軸としていることにも変わりはないので、ぶっちゃけ戦闘そのものは『キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ!』とそんなに変わらないのだ。
これが現実である。
ただ、剣道であれば敵をしっかり見て隙を伺って一撃を叩き込むと思われるが、秀星たちはとにかく『攻撃は最大の攻撃』とばかりにただ斬ったり撃ったりの繰り返しなので、派手ではあるがクオリティに影響はあるだろう。
……まあ、クオリティ云々の話をするとしても、それでもあまりかかわりたいレベルの戦いではないのだが。
「さて、どうする?」
「別に秀星を相手にすることそのものに興味があるわけじゃねえんだよなぁ。だって見りゃわかんだろ。大体」
「だな。オレもスキルを使えば大体わかるし。ギャグ補正が鍛えられてからは秀星のレベル……っていうのか?そこの『一端』が何となくわかるようになったから、戦っても意味がないのは分かるんだよな。あと……」
「zzz……」
来夏の腕に抱かれて、沙耶が寝ている。
「沙耶を預けておけるシステムがないんだよなぁ……」
「確かにな。まあそれなら参戦は保留か」
安全管理を担当したのは秀星であり、きっと沙耶が一人でいたとしても問題はない。
そこは来夏と高志もわかっているが、まあこればかりは、来夏が『母親』なので思うことだ。けっしてよそ者が持論をごちゃごちゃ抜かすような場所ではない。
「つーわけで、俺たちは見てるとするか。きっと椿あたりが挑みだすだろうし」
「そうだな」
「む~……うーん……zzz……」
どうやら観戦に決めた高志と、沙耶の面倒を見ることにした来夏。
どうやら、一番意味不明なことになりそうな対戦カードは今のところなさそうだ。アトムの胃薬の消費量がきっと減るだろう。




