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第八百三十九話

 マンネリ化している。


 報酬がしょぼいという何をどう考えても覆しようのないことになっていると、一部の『そもそもネガティブ思考が存在しない阿呆な人間』を除く――基本的に高志と来夏と椿――と、熱意などなくなってくるのだ。


 もちろん、『アトムが呼んでいない』人たちに関しては、塔にこそ入らないが、それぞれの規模と行動範囲に合わせて台本のないドラマを生み出しているが、アトムが呼んだ『ちょっと出力のブレーキがぶっ壊れている連中』の熱量が明らかに下がってきている。


 ぶつかり合ってもどちらもなんとなくで済ませて決着までいかない。


「……ふーむ。このマンネリ化。どう改善するべきかな」

「なんでそれを運営本部じゃなくて『安全管理委員会室』で呟くんだ?」

「君は暇だろう」

「可能な限り権限を渡したくないくせによく言うよ」


 無駄に権限を渡したら、結果的にセフィコットたちが勝手に変なポイントチケットのようなものを作ってしまうかもしれない。

 というか実際にやってしまって前例があるのだ。

 基本的にセフィコットを相手にしか使えないポイントチケットたちだが、問題なのは、『日本銀行券』よりも偽造難易度が高く、そしてセフィコットという通常の人間のレベルでは用意できないサービスを利用できる唯一の通貨ということで、日本国内に存在していながら、日本円よりも価値を持ち始めているのだ。

 ちなみに現在、セフィコットはポイントチケットにおいて『預かり』はするが『融資』も『投資』もしないので、ポイントチケットに関して頑丈な金庫は存在するが銀行は存在しない。

 以前、イベントの最中に銀行口座のようなものが作られたが、あれは単なる金庫の接続と把握だけである。

 ただし……金というのは債務と債権の記録でしかない。誰かが100ポイントを他の人から借りれば、その際に作った契約書には100ポイントの価値を持ち始める。銀行が公式に存在しないので小切手や借用証書という単語はあえて使わない。

 セフィコットのサービスには『偽造不可能な契約書』が存在するので、『金の総量は借金したときに増える』という本質が分かっている人間は勝手に増やすだろう。

 ……ちなみにセフィコットはチケット現物にしか反応しないので、価値のある契約書を持ってきてサービスを注文するといわれてもガンスルー確定だが、それでもポイントチケットを軸にした経済が別で構築されることに変わりはない。

 その原因となりそうなシステムをこの場で作られたらアトムのような天才と呼ばれる人間であっても嫌である。


 というわけで解決策を出すしかないが。別に難しいわけではない。

 クエストやミッションというものは、『報酬』のために行われるものだが、『デメリット回避』のためにも行われるのだ。

 制限時間を黒スーツの速い人から逃げ回る番組で、『100人解放!』とかいってたけどもしも解放されなかったらこの集まった人たちはどうなるんだろう。というメタなことを考えていた時代が秀星にもあった。

 ……というのは単なる脱線なので話を戻そう。


「アトムもどういったクエストやミッションを投入するべきかわかってるよな」

「ああ。君が言いたいのは、デメリットを回避するためのクエストだろう」


 これまでは報酬のための鍵を開けに行くようなクエストだった。

 これからは、デメリットを回避するために鍵を閉めに行くようなクエストも投入すべきだ。

 発生するデメリットの種類にもよるが。


「ただ問題なのは、盛大に動かしたい私が呼んだ魔戦士たちが反応するデメリットとなると、影響が大きすぎて周りの魔戦士が絶望する可能性があるということか……」

「報酬を吊り上げようという選択肢がないなら確かにそうなるわな……」


 風香や基樹をはじめとして、どうやら相当の『手練れ』といえる魔戦士をアトムはたくさん連れてきた。

 イベントとしては盛り上がりそうだが、わざわざ自分の時間を削られてまで大した報酬もなく興味もわかないマイペースで生きている連中の気分が乗るわけがない。


「……どうするべきかな」

「何か考えはあるのか?」

「そうだねぇ……『破壊神秀星の討伐クエスト』とかはどうかな」

「喧嘩売ってるのなら買いたたくぞ」

「遠慮しよう」

「ていうか破壊神って……別に俺のフルネームでいいだろ」

「ビルを普通に破壊するんだ。『朝森』とかいて『はかいしん』と呼んでも不思議なことはないもないよ」

「……」


 納得してしまった秀星である。

 朝森(はかいしん)か……。


「……まあネタは放置するとして、逆効果だろ。だって俺、魔法省のどんなページでも『最強は誰?』って検索したら出てくるんだぞ。まだ『腹黒アトムの攻略クエスト』の方がマシじゃないか?」

「私の才能の関係上、君を投入しようと私を投入しようと結果は多分変わらないよ」

「……さいですか」


 ネタが放置されたことはともかく、秀星は『めーーーーーーーーーーっちゃ』強い。

 だが、アトムだって『めーーーーーーーーっちゃ』強いのだ。

 まあ実際にはこの程度の差では済まないが、確かに投入したところで変わらないだろう。


「……権藤重蔵原子分解クエストは?」

「多分、出てきたとして『誰っ?』ってなるだろうな。俺やアトムはメディアによく乗るし、魔法省のページを開けば時々見えるけど……さすがにわからんだろ」

「だよねぇ……まあでも、私か君が出るのがちょうどいいのかもしれないけどね。そもそも、『世界最強』と散々銘打っている秀星を参加者としてださないイベント』っていうのも珍しいし」

「確かに」


 今まで学校で行われるイベントとしては参加しているが、魔法省が主催となるとそれは初めてだ。

 大手のメディアも多数入ってきているし、『世界最強の登場』をうっすら考えているものも多いだろう。


「朝森秀星封印ミッションはどうかな。扉みたいなものを用意しておいて、制限時間内に鍵を掛けられなかったら出てくる。みたいな感じで」

「全員が一丸となって挑むだろうな。俺の登場のデメリットにもよるが」


 これが世界最強の実力である。


「そして、秀星君がイベントに参加することで、安全管理に対してセキュリティが弱くなったと判断した一部のテロ組織が動きやすくなり、イベントを囮にして一網打尽にしやすいというメリットもある」

「……アトムって、犠牲は好まないけど囮は好きだよな」

「君は嫌いかい?」

「いや……囮なんて使う必要もなく敵を叩き潰すからな」

「そうだった……」


 これが、世界最強の実力である。

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