第八百三十八話
風香の援護を受けた椿の戦闘だが、基本的に欠点らしい欠点はない。
確かに素直な剣だが、無駄が省かれているのでその攻撃を完全に無視することはできない。
しかし、次に何をすればいいのか。という点に関しては駆け引きというものがわかりやすいのでとても分かるのだ。
魔戦士の本来の仕事らしい『モンスターを倒すための剣』ということになるのだろう。
風香の援護によって戦闘用にやや改造された風属性魔法が混じっているが、椿の剣術の性質上の限界を超えることはない。
確かに風属性魔法なので、言い換えれば単なる空気の流れである。
そういう点では確かに圧倒的だが、あまり風香が外しすぎると椿が混乱する。
(まあ……こっちも『混ぜて』いくか)
問題があるとすれば、椿のそもそもの完成度が高い故に、多少のからめ手はそのスペックだけで対応してしまうところだろうか。
とりあえず限界を探らないといけないのだが、その先に待っているのは『それ以上に椿の実力を把握している風香の外した攻撃に対応してくる援護』である。
難易度だけが高い。
(まあ、対応できないわけじゃないか……)
椿に限定するならば、すでに今戦えている。
前に戦ったときの『無刀神風刃』は『未来の秀星が仕込んだ緊急手段』だと考えれば、必要以上に不安になっても意味はない。
「!」
攻勢に出る千秋。
重力が歪むような圧力を刃の周囲に展開して、椿と鍔迫り合いになる。
そしてそのまま、全体の重力の方向を変更する。
具体的には、千秋の後ろから前に『ものが落ちるくらい』だ。
「うっ、うわわわっ!っととと!」
断崖絶壁の壁面に突然立ったかのような感覚にバランスを崩す椿。
だが、後ろから風香が風魔法で椿の体を押し上げて、体勢を整えた。
(あの状態から他人の体勢を整えられるってどんな感覚してんの?)
自分が元凶でありながらそんなことを思う千秋。
だが、鍔迫り合いは確実に優位になった。
そのまま突撃……というより落ちるようにして、椿に刀を振るう。
だが、椿も刀を使ってそれに対抗する。
「……そんな姿勢でよく戦えるな。椿ちゃん」
「ムフフ♪上下逆さまでも戦えますからね!何故かお相手さんの動きが悪くなるんですけど」
そりゃ上下逆さまになったらスカートがめくれてパンモロだからね。仕方ないさ。
「変な鍛え方してんな……」
まさか重力をいじるようなやつから『変な鍛え方』と言われるとは。さすが朝森家。
「この環境でも負けませんよ!」
「勘弁してくれ」
言い合いながらも刀で斬撃を繰り出す二人。
お互いに隙を狙った一撃だが、お互いの反応速度が速すぎて全然当たらないのだ。
「むううう!全然当たらないです!」
「こちらのセリフでもある」
千秋は戦っておいてアレだが、そろそろ嫌になってきた。
彼も目標程度のスコアを稼ぎ終わっているので、気分が乗らない。
「……はぁ。手段の開発はしっかりやっとくか」
「む?」
千秋は更に重力をいじる。
椿にとっては自分が前から落ちるようにしたままで変わらないが、自分にかかる重力を同じにした。
そしてそのまま、落ちる方向に身を委ねる。
「正直、君が相手で後ろに風香がいると埒が明かん。耐久勝負をするつもりもないし。退散するぜ」
「むうう……わかりました」
椿はだいたい何も考えていないが、何もわからないわけではない。
ここで自分の切り札を使ったところで、千秋に通用しないことは感覚としてわかる。
「重力操作対策……難しいですね」
うーんうーんと呻る椿。
「フフッ。これから考えていけばいいよ」
「それもそうですね!……お母さんならどうしますか?」
「先手必勝で叩き潰すよ」
「慈悲がないですううううううう!」
魔戦士社会でこの表現を使うのもあれだが、なかなかバイオレンスな風香の意見に椿は絶叫するのだった。
……ダラダラやるよりは短期決戦のほうがいいというのは認めないわけではないが、どこかモヤモヤする椿であった。




