第八百三十三話
「海道さんの頑丈さは頭がおかしいですよ!なんですかあれは!ぷうううううう!」
椿がはしゃいでいる。
基樹を追いかけていた風香だが、途中で見失った。
ただ、「お母さんのにおいを追ってきました!」と主張する椿が追い付いてきて、海道に対して文句を言っている。
……ちなみに、風香は自分の袖を鼻に当ててにおってみるが、イベント中ゆえに汗臭い。
そして、汗というものは分泌液である。
その匂いをたどってきたのだろうか。
……嗅覚のブレーキが壊れてませんかね?
「確かにすごかったね。でも……多分秀星君なら一秒で終わるんだろうなぁ……」
「お父さんは様々な鑑定スキルを持ってますから、多分コンマ一秒で解析してコンマ一秒でぶち破ってますね」
「一秒ももたないね」
最終的に『誰が一番反則なのか』という議論で秀星にたどり着いてしまう。
まあこれが『世界一位』の実力だといわれればそれまでであり、風香と椿はそれを受け入れているのだからどうしようもない。
「それにしても、ちょっと汗臭くなってきたかな」
さすがに自分の娘から『お母さんのにおいを追ってきました!』といわれると思うところがある風香。
「むー。どこかにシャワールームがあるんですかね?表ではお風呂屋さんがありましたよ!」
「あったの?」
「はい!ちょうどいい湯加減で気持ちよかったですよ!」
椿には羞恥心というものが存在しないわけではない。
ただし、生放送でお風呂に入る程度のことではそれが刺激されないのだ。
もちろん生放送なので椿がお風呂に入り始めたらセフィコットの撮影は一時的に風呂場の一歩手前で止まって『音声でお楽しみください』状態になる。
……椿はこういう場であってもお風呂に入るときにバスタオルを体に巻かないので。
「……」
「多分こういう場でも最低限シャワーくらいはあると思いますよ!一緒に探しましょう!」
「……」
マジで入るの?という顔になる風香。
すると、二人の視界の端でセフィコットが出現した。
『銭湯行き』という旗を振っている。
ただそれ以上に気になるのは……『操縦者。未来の朝森風香』と書かれたプレートが張り付いていることだろうか。
(未来の私は一体何を考えているんだろう……)
それは不明である。
「おおっ!お風呂ですよ!行きましょう!」
「……」
行きづらい。
が……風香自身、よく抱き着いてくる椿がとても汗臭いと思っているのも事実だ。
というか、汗臭い時と汗臭くない時があってちょっと不思議といった感じだが、それはともかく、それが改善されるのであればそれに越したことはない。
「……」
結局、椿の綺麗な目に耐えきれなくなってついていくことにした。
そして数分で銭湯に到着する。
「おお!本格的ですね!ええと、男湯と女湯と混浴に分かれてますね」
「……」
風香は『この状況で混浴に入るやついるの?』とおもったが、とりあえず銭湯に書いてある注意書きを見る。
そこには、セフィコットは基本的に脱衣が開始した段階からは『音声でお楽しみください』状態になるそうだ。
「なるほど」
「ここもいい湯加減なんですかね?」
「セフィコットが担当してるのなら多分そうだと思うけど……」
部屋の隅には『アイロン室』と書かれていた。
おそらく『ご注文があればセフィコットがアイロンがけをします』ということなのだろう。
「む?あれってセフィコットさんたちがアイロンにかけられるんですかね?」
(新手の拷問だね……)
恐ろしいことを考える子である。
視界の端の方でセフィコットが『ヒイイイイイ!』と言いたそうな雰囲気であたふたしている。
……なお、セフィコットは使われている素材がすべて特別製なので、そもそも汚れることがない。
未来でどのようなことになっているのかは不明だが、そもそも『椿はセフィコットにアイロンをかける』という発想がないはずなのだ。
「椿ちゃん。やったことあるの?」
「うーん……十年位前にやったことがあるような?」
椿が五歳の時か。
……確かにやりそう。
……ついでに言うと、そのままアイロンを当てたまま放置してどこかに行くまでありえる。
「でもその時はセフィアさんに怒られました」
「なるほど」
秀星でも風香でもなくセフィアに怒られた。
なんだかすごく納得できる状況である。
「まあそもそもセフィコットさんには熱を感知する機能がないということが後々分かったんですけどね」
それは機能がないのではなくあえて消去されたのではなかろうか。免罪符にはならないよ椿ちゃん。
「まあそれはともかく……お母さん!お風呂に入りましょう!」
「……はいはい」
なんだか雑になってきているのが自分でもわかる風香。
まあ、デカいスーツケースにいろいろ詰め込んで秀星の家に突撃した結果今も同棲しているし、その結果椿とは何度も入っているのだ。別にそれそのものは問題ない。
「この時代のお母さんの体はとても瑞々しくて若いですからね!イダダダダダダッ!」
ただこういう時に余計なことを言うのが椿という生き物である。
ちなみに……どちらも体はとても綺麗でした。(セフィコット談)




