第八百三十話
イベントの参加者は一定の基準や項目に沿って選ばれている。
……まあ、それらの項目というものは表記の都合上、表に出せないものも多いため、『まあ、守らなくてもぶっちゃけバレないよね!』と開き直ることは普通に可能である。
かなりアトムが『コイツは出しておくべきか』と判断したものが出てくるのだ。
そして当然のことだが、魔戦士でいくら強いからと言って、アトムとつながりがあるからと言って、その力を表に積極的に出す人間かと言われればそういうわけではないものも多い。
今まで秀星とその周囲にかかわっていなかっただけで、恐ろしいほどの『強さ』を持つものはいるのだ。
「……いったいどうなってんだ」
基樹はそうつぶやいた。
彼は現在、塔の最下層で戦っている。
要するにフロアの中を歩いていればいずれ風香や椿に会えるというわけだ。
もちろん、このフロアも、このフロアに存在する光源以外から放たれている光に対する遮光性と、そもそも高い遮音性を誇るため、どれだけ暴れても、近くにいる魔戦士にその戦闘音が聞こえない場合がある。
このフロアで正確に『把握』するためには、来夏の『悪魔の瞳』のような『直接把握するスキル』を使うこと、そして質の高い直感の性能を持つものを連れていることだ。
椿は直感の質が高いので風香は連れているという、一応損得で考えて得になる行動をとっているのだ。
そしてそんな、狭い空間の中で区切られた場所の中で、基樹もまた戦っている。
「まあ、驚くのも無理はないさ。見ての通り、僕は機動力は低いから、君を倒せないかもしれないが……逆に、君が僕にダメージを与えることはほぼ不可能だと思ってくれていいよ」
そう基樹に言うのは、一人の青年。
黒い髪をやや長髪といえる程度に伸ばしており、黄金の剣と白い外套を身にまとっている。
年齢は二十代半ばといったところだが、年齢よりもやや落ち着いた雰囲気だ。
「……その剣と白い外套、一体なんだ?」
先ほどから何度も基樹はこの青年に対して攻撃している。
だが、全く効果がないのだ。
白い外套にあたった瞬間、それらの攻撃がすべて霧散して、青年本人にあたらない。
似たようなことは一度あった。
基樹がまだ魔王であり、城に乗り込んできた秀星と戦ったとき、秀星が持つ『デコヒーレンスの漆黒外套』にあたった攻撃はほぼすべて霧散していたのである。
あの時は神器を『あえて』使っていなかった。
神器とそれ以外の要素が衝突した場合、『神器』は圧倒的な優先順位を持つ。
そのため、神器を使っていなかった基樹は『属性』の問題で仕方がないと考えていた。
神器を使わない判断をしたことに後悔はなかったからということもあるが……それはともかく、目の前にいる青年は、確かに特殊な剣と外套を身にまとっているものの、それらは確実に『神器』ではない。
基樹が持っている神器『魔宝剣ダーク・オリハルコン』と打ち合えば、簡単に倒せると思っていたのだが……。
「……!」
基樹は再び剣を振りかぶると、そのまま横に一閃する。
そこにある空間を全て根こそぎ破壊するかのような一撃が剣から放たれる。
だが……青年が剣を構えるのではなく白い外套に包まれた腕を前に出すと、その一撃は、青年にあたった部分だけ完全に霧散して消えていく。
「……本当に一体どうなっているんだ……」
「別にそう驚くようなものでもないだろう。第一、君は僕を倒せないということを不思議がっているが、そもそも君はこの建物の壁を壊せないじゃないか。この建物はあくまでも朝森秀星が作った『建造物』であって、神器ではないよ」
「……それもそうだな」
もちろん、『じゃあお前は秀星が用意するほどの強度のある物を身にまとっていることになるのか?』という疑問が出てくるのだが……。
「それに君、今『自分らしくないこと』をしているんじゃないかな。負けないからと言って勝てない相手に挑み続けるようなタイプかい?君は」
「……」
そういわれれば、と基樹も思う。
秀星を相手に戦えば、もちろん『勝つ』ということは基樹にもできないだろう。
勝てない相手に対して、必要でもないのに時間を使うような、そんなタイプだったか?
「とはいえ、君が僕と戦いたがるのも無理はない。この剣を使っている僕ならなおさらだ」
「……剣?」
「ああ。この剣だけど……実は『聖剣』なんだよ」
「……お前、元『勇者』なのか」
「ああ。君のチームメイトである天理君と同じでね。君がいた『グリモア』という世界とは違う世界の勇者だったんだけど、まあ、とりあえずそこで戦っていたのさ」
「……グリモアとは別の世界の勇者か」
要するに、元勇者と元魔王という関係だ。
活動した世界は違えど、何か思うところはあるのだろう。
青年が基樹に対して口にした言葉は、そのままそっくり、青年に返したとしても何の違和感のない話だからだ。
「とはいえ、君の知り合いの中で僕の関係者がいないわけではないけどね。それは置いておくとして、この聖剣は、僕が着ている外套の『無条件の使用許可』を持つ。ちなみに、アイテムっぽく見えるけど単なる概念だから、秀星君の『アイテムマスター』の力でも使えないよ。正式名称は……『拒絶外套』と書いて『レガリア』と読むのさ」
「拒絶……さっきから攻撃が無力化されているのは、その外套の『基本性能』ってわけか」
「ああ。そしてこの外套は、神の力とは別のコンセプトで出来ている。そのため、『優先順位』に関係ないんだよ」
神器を構成粒子でもある『神力』は、グリモアや地球で使われている『魔力』と呼ばれるものの『分解元』である。
神は自分が頂点に立つために、『自分たちよりも絶対に優先順位が低くなる力』を作って、それを人間に与えたのだ。
その結果として、神という存在は世界に対して圧倒的な力を振るうことができる。
だが、そんな神器すら制限を突破して使える『アイテムマスター』のように、神器の力が『関係ない』力もまた存在する。
現在の地球ではそれらを『オリジナル・エッセンス・スキル』……略称で『OES』と呼んでいるが、そのような概念が他の世界にあったとしても不思議なことは何もない。
「……そこまで強い外套があるなんてな」
「ただし、これは僕が持つ聖剣によって使用許可が出ている状態だ。実はデメリットが相当きつくてね。僕自身、この聖剣が手元にない場合は強制的に解除するように設定している」
「……それ、言っていいのか?」
「もちろんだ。他者の攻撃を防ぐ『拒絶外套』の力は、聖剣にも適用できるからね」
「あっそ……」
クソ面倒な設計である。
「とはいえ、元魔王としては元勇者が相手とは言え、モタモタしてられないからな……本気で行くぞ」
「ああ、そうするといい。せっかく君の格上である僕が相手をしてるんだ。ダラダラやっていたらアトム君に呼ばれた意味がないからね」
この会話だけでも、相当な『高次元』の情報にかかわっている様子の青年。
イベントに乗り気ではなかったし、あまり手の内を見せるつもりもなかったが、こういう相手はいつ戦えるかわからないものだ。
ここまで『防がれる』というのも秀星以来である。
不足はない。不満もない。
基樹は剣を構えた。




