第八百二十九話
風香が塔の中を歩いていく。
そしてその後ろから、椿がひょこひょこついていく。
……とまあ、雰囲気だけを言えばそのような感じになっているのが今の風香と椿の状態である。
お母さんとして良いところを見せたくなったのか。それともポイント的には余裕があるから血眼になって他の参加者を探す意味がないのか、詳しい理由を語るつもりは風香自身にもないようだが、とりあえず一緒に行動することにしたようだ。
「お母さん……とても強いですね!」
そして良いところはしっかり見せることができているようだ。
椿が感激した様子で風香を見ている。
ちなみに、現在いるのは塔の最下層である。
塔の中で最も広く、天井が高く、そして頑丈な部屋だ。
純粋な『攻撃力』で突破するのはほぼ不可能なほどの場所であり、多くの猛者が集う場所であっても遠慮なく戦えるようにできている。
そんな場所であり、風香はかなりの出力を開放して戦っている。
もちろん、ただ純粋に『勝つ』というのであれば、派手さなどいらない。
敵の隙を伺って奇襲し、確殺の一撃を叩き込む。
それだけでいいのだが、もちろんそんなことをみんながやれば周囲がドン引きするので、『とりあえず派手な攻撃で盛り上げてね』と裏で散々言われているのだ。
そして『派手に見える攻撃』というものは、観客席だけでなく、近くにいるもの達にも影響を及ぼす。
もちろん、派手というのは見栄え重視であり、攻撃において余計なコストを使う必要があるので、達人と言われるような練度がある人間からすれば『素人活劇かよ……』と思うわけだが、素直な子からすればそれは『すごいこと』に見えるのだ。
熟練度というより叩き込まれている技術の質が高い椿も、別に自分に施された訓練がどのような意味を持つのかを一々理解しているわけではないので、『無駄のない派手さ』というものに関しては自分の質が高くとも他者の判断をする際はすごいと感じるのだ。
「もちろん。椿ちゃんのお母さんだからね」
ふふんっ!と胸を張る風香。
……かなり緊張感が高くなっていた時間が長く、その状態から椿に会ったことで、ほぐれ『過ぎた』のか、普段やらないようなしぐさになっている。
まあ、風香は芯が通っている可愛らしい顔立ちであり、しかも胸はFはあるのでその仕草は似合ってはいるのだが、ばっちりセフィコットが記録中である。
……生放送だからいろいろ気を付けないといけない部分はあるのだが、セフィコットはその手の調整は大体やってくれるので問題はない。
問題はないのだが、それが参加者の黒歴史になるか否かは別の話である。
……まあ多分なるというのがセフィコットの予想ではあるが、ここでそれを指摘できるほどセフィコットは優しくない。
なのでここからも黒歴史を量産してください。ということである。
「あ、自動販売機がありますね」
ところどころで見かける自動販売機。
スポーツドリンクや弁当なども売られているのだ。
「お!ハンバーグ丼がありますよ!」
「弁当じゃないの?」
もはや何でもありだが、それは最初からそんな感じだ。
そもそも技術分野に秀星がかかわっている時点で、現代日本で出来る程度のことなら制約がないのと同じである。
「むふふ~♪おおっ!本当にどんぶりが出てきました!」
アツアツのハンバーグが乗ったどんぶりが出てきた。
しかも特盛である。まあ、その設定にしたのは椿なのだが……。
ちなみに割りばしも一緒に出てくるので一応問題はない。
「いただきまーす!」
ハンバーグ丼を持ちあげてバクバクと食べていく椿。
本当に幸せそうな表情でハンバーグを食べる姿が生中継されている。
……ちなみに、椿は『おいしいおいしい』といいながら食べるのだが、どんな味がしてどうおいしいのかは全く述べない。食レポの経験は少ないのだ。
ただ、椿は笑顔で行動するブレーキが壊れているので、見ているだけでとてもいいのである。
「……」
風香はそんなおいしそうに食べている椿を見てほほ笑んでいる。
「おいしいですね!おかわり五杯はいけますよ!」
「……(汗)」
訂正、あまりにもアレな発言に冷汗が流れるのだった。
未来の朝森家。
秀星と風香がいるので食費に問題はないだろうが、倫理観という問題が浮上しそうだ。親戚の中に高志がいるという時点でお先真っ暗だが、まあ根本的には問題はない。
……嫁と姑が手を組んでるからね。




