第八百二十五話
沙耶ちゃんはものすごくチートなスペックを持っている。
まず絵面的に狙われないという部分。
さすがにまだ二歳児で言葉もうまくしゃべれない子を剣で斬ったりグーで殴ったり魔法で焼いたり銃弾でぶち抜いたりすると、見栄えが悪すぎるのだ。沙耶の懸賞スコアは『84000』と椿よりちょっと高い程度の数値になっているのだが、それでも狙われない。
正直、こういったポイントを稼いでいく環境でそういうカテゴリに属するということはとても大きく、悠々自適に動いていても問題はない。
……まあ、中には『生放送でも他人の視線など気にしない人』にとっては普通に狙えるのだが、沙耶本体のスペックがすごく高いのでどのみち上手くいかないのである。
まず、来夏の遺伝子で獲得している『悪魔の瞳』
もちろん来夏ほど扱えるわけではないのだが、来夏よりも視野が狭い分、その領域に関しては感知『感度』がとても高い。
このスキルは『熟練者が使うと強制的に広く見てしまう』ため、言い換えれば『灯台下暗し』となることもある。
しかし、来夏が広く見て、沙耶が近くを見て、そして高志があくびをしながらフラフラしていることで、ほぼ完璧に見えるのだ。いったい高志は何をしに来たのだろうか。
「うー!」
「ん?どうしたんだ?沙耶」
「うー!うー!」
「ん~……あっ!なるほど、おりゃ!」
来夏が小石を投げる。
傍からは特に何かにあたった様子はなくビルに着弾。
来夏はスマホを確認。
「おっ!五百万入ってるぜ!」
「さすがだな!よくわかったな沙耶ちゃん」
「俺と同じスキルを持ってるからな」
「『ギャグ補正』だろ?」
「まあそれもだけどな」
偏差値八十とは言うが、一歳や二歳で確かに沙耶の思考レベルを超えるとなると相当なレベルが必要だろう。もう一つの条件っぽい母親がいるというのは来夏が該当するので、おそらく持っている。
まあ、そっちの話をされてしまうと話が終わってしまうので……。
「オレが持ってる『悪魔の瞳』を使えるからな。範囲は広くねえけど、その分近くがしっかり見えてるんだよ。オレの場合は広範囲を上から見るような視点になっちまうからな」
「なるほど……で、さっきから小石をぶん投げたところあたりでオロオロしてるアイツは企業から情報を貰ってたってことだな」
高志が言う通り、二人の視線の先では爆弾のようなものを持った男がオロオロしている。
スマホを見ているので、何かしらの特典で『センサー』のようなものを手に入れたのだろうか。『おかしいな……どうなってんだ?』みたいな顔をしてオロオロしている。
「まあ放置しておくか!」
「だな!酸素くんなんてものは早い者勝ちだし!」
「うー!」
元気そうな様子の三人。
ただ、オロオロしていた男は、来夏の『酸素くん』という単語を聞いてピクンと反応する。
「お、おい!おめえら!さっき酸素って言わなかったか!?」
「ああ、言ったぜ!さっき五百万ポイントを貰ったばかりだからな!」
「ふざけんな!それは俺の酸素だ!」
やっぱりちょっと字面が凄いな。『俺の酸素だ!』なんて、地球上から植物が消え去って光合成ができなくなった時代の人間くらいしか主張しないだろう。まあその場合でも水を電気分解したら酸素は獲得できるので生きることをあきらめるほど問題ではないわけだが。
「言っただろ?こういうのは早い者勝ちなのさ!」
そこは間違いではない。
ちなみに、椿のセリフを考慮するとラストアタックボーナスなどがあるようだが、この酸素くんに関してはそれらを付けると面倒なことになるのできっちり『倒した人に五百万!』というものになっている。
途中で割り込むことにすら意味がないので、センサーまで持っている男が遅いのが悪いのだ。
……そもそも、という言葉を使えば、同じ戦場に来夏と高志がいるという時点でかなり運が悪い方だろう。
「ぐうう……こうなったら、てめえらの懸賞スコアをぶんどってやる!」
どうやらこの男は高志と来夏の懸賞スコアを確認していない様だが、実際のところ、この二人の懸賞スコアを合わせると六千万という莫大なものになる。
おそらく何でもできるだろう。いろいろなところに懸賞スコアで質が高いものが買える自動販売機が置かれているのし、表に見える範囲のレストランなどで得点を手に入れて、『裏の店』のようなもののマップデータを手に入れることができればもっとすごいものが手に入るだろう。
もともと、企業とつながっている魔戦士は『マジックバッグ』のようなものを持っているはずなのでなおさらだ。
「ハッハッハ!俺たちに勝つなんざ百年早いわ!」
百年で高志と来夏に勝てるのなら世の中苦労しない。
「というわけで、俺の必殺技。右ストレートおおおおおおお!」
「ぶほああああああああ!」
顔面に叩き込まれる右ストレート。
思いっきり『入って』いるが、もともとギャグ補正というものはダメージ判定が大きい割に外傷が少ない(ただし演出として一瞬顔が変形する)し、そもそも秀星が作った安全装置があるので、ギャグ補正においてトップレベルである高志のパンチであっても命の危険はない。あったら呼ばれない。
そのまま地面に倒れる前に転移していく男。
「ふーむ。ギャグ漫画とかだと体が十メートルくらい吹っ飛ぶようなパンチは日常茶飯事だから外傷はそこまでないと思うが、一発でも『即死判定』が発生するんだな」
日常茶飯事だから外傷はそこまでない。と言っている高志だが、理論の飛躍が十段階を超えるレベルで発生しているような気がしなくもない。今更ですね。
「まあいいじゃねえか!いろんな特典がもらえて、『裏のレストラン』の場所もわかったぞ!ここにいってまた食べようぜ!」
「おう!……そういや、沙耶ちゃんってパフェばっかり食ってるけど、他に好きなものってあるのか?」
「大体何でも食べるぜ。特に和也が自分用に買っておいたものは大体好き勝手に食べてるな」
一家の柱なのに不憫すぎる。
しかも沙耶は『悪魔の瞳』があるから家の中だったらどこに隠しても全部バレるのだ。これは相手が悪すぎますね。しかもまだ赤ん坊だから怒るに怒れない。
「……だんだん和也が不憫に思えてきたな」
「うー?」
よくわかっていない沙耶。
ちなみに、沙耶は来夏が自分用に買っておいたものも平気で食べるのだが、そもそも来夏は『気にしない』のである。
要するに和也だけがなんとなく諸星家の中で『違う感性』の中で生きているのだ。
まあ来夏の夫というだけで勇者である。魔王を倒せる人だって来夏は嫁には欲しくない。
(うーん……俺も沙羅に迷惑かけてんのかな……まっ、ここで考えたところで明日の俺は忘れてるだろうし、まあいっか!)
明日の俺は忘れているというのは世の中の真理だと思うが、自覚してやるのは性質が悪い。
とまぁこんなふうに、激闘イベントが本来予測される中、こんなアホみたいなことになっているところもあるわけだ。
……視聴率大丈夫かな。




