第八百二十四話
すごく今更な話だが、沙耶のような幼児は当然だが他には出場していません。
とはいえ、招待状を書いたのはアトムである。
いずれにせよ秀星が安全管理を行っているので、幼児である沙耶が入ってきたとしても安全面では何も問題はない。
一点だけ問題があるとすれば、沙耶は幼児なので、倒そうとするとすごく絵面が悪いということだ。
もちろん、沙耶は年齢に合わずかなり好き勝手やるタイプなので、それ相応に来夏も甘く育てているがやや放任するところもあり、別に倒されたからと言って倒したやつを恨んだりするようなことは何もない。
可愛い時期ではあるが、だからと言って過干渉もアレなので。
「しかし、沙耶はすごい食いっぷりだなぁ」
「でも注文に使うスコアは自分が出してるな。来夏の教育のたまものか?」
来夏の夫の和也の教育と言わない辺り、どうやら常識的な教育に意味はないと高志は考えているようだ。
和也がかなり不憫だが、これからも変わることはないので頑張ってほしい。かわいそうに。
「思ったより自由にさせてるけど、来夏がそれを手伝うわけじゃないんだな」
「沙耶に対して『過保護』ってのはオレも無理だしな……」
「『過干渉』はもっと無理だろうけどな」
「確かに」
「う?」
よく言葉の意味が分からない沙耶。
ただ、確かに沙耶に対しては過保護も過干渉も困難だ。
過保護というのは言い換えれば『子供のいうことを何でも聞く』ということであり、過干渉というのは言い換えれば『子供の時間を必要以上に奪う行為』である。
時々『子供の面倒や勉強に対して必要以上にかかわるお受験ママ』を『過保護』と評したりすることもあるが、それは過保護ではなく『過干渉』である。
過保護というのはもう一度言うが『子供のいうことを何でも聞く』ことであり、相当難しいことなのだ。たまに言葉の使い方を間違えている人がいるけど。
それを前提にすると、そもそもやりたいことの意見を正確に伝えることができない沙耶に対して『過保護』というものは不可能だし、来夏の遺伝子で完全に覚醒している『ギャグ補正』を持つ沙耶に対して『拘束』というのは不可能である。
「まあでも、元気いっぱいに育つんならそれでいいさ」
「うー……」
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッ!とイチゴパフェを掃除機のように吸い食べる沙耶。
どうやら人の話を聞く気はない様だ。赤ん坊だし、まだそれでいいけどね。
……ただ、あまり甘いものを食べすぎると体に良くないよ?
「本当に食べるなぁ……」
「離乳食を何にするかなって考えてたころだったかな。和也が沙耶を連れて友人の家に遊びに行ってた時に、その友人の家の冷蔵庫の中に入っていたはずのパフェがなくなってたんだよ」
「あとで調べたら沙耶だったのか」
「ああ。さすがに千二百グラムのパフェが十分で消滅して、その原因が沙耶だとは思わないだろ?」
「その友人の冷蔵庫の中にそんなデカいパフェが入っていたこと方が驚きだけどな」
高志の言い分は理解できなくもないが、少なくとも高志よりはまだ常識的な話である。
「……あっ。ちょっと待っててくれ」
来夏はポケットから小石を取り出すと、レストランの窓に立って全力で投げた。
そして、スマホを確認。
「……お、五百万ゲット!」
「はっはっは!マジでちょろいな!」
他の参加者がかわいそうになってくるからそういう会話はやめていただきたい。
「さてと、とりあえずこの店で腹ごしらえが終わったら俺たちも戦いに行くか。この店で有料メニューを頼むと『特典』がもらえるみたいだし、それを使えば優位になれるだろ」
まあ、正直な話をすれば来夏の『悪魔の瞳』があれば大体の『場所』や『形』の情報は分かってしまうので、よほど特殊な特典を手に入れないと使えないわけだが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるということで、有料メニューを食べまくればいいのだ。
……ちなみに、魔戦士は動く都合上、女子でもたまに『特盛』などを頼んだりするものだが、この店の有料メニューはかなりボリューミーに作られているため、食べることができて二品といったところなのだが、胃が普通ではない三人はモリモリ食べられるのだ。
「ゲフッ!……さて、そろそろ行くか!」
「おう!」
「うー!」
腹いっぱいになって充電完了した高志がそういうと、来夏と沙耶も『やったるぞおらあああ!』とばかりに頷いた。
きっと……良くないことが起こるのだろう。そんな気がする。




