第八百二十三話
「あ~。あたまがガンガンする~」
「来夏飲みすぎだろ」
「高志も飲んでたじゃねえか」
「俺はこう見えてペース配分を考えてるからな!」
三十分ごとに訪れる『建物再生システム』が発動すると、イベントスコアに関係する要素は全て復活する。
リンゴがイベントスコアにかかわる場合、リンゴの木に『再生魔法』が発動してリンゴが実る。
ただし、高志や来夏がいた『宴会場』はイベントスコアにつながる物が一つもない場所である。
そのため、三十分が経過しても冷蔵庫の中身が復活することはない。
二人はめぼしいものがなくなったことで外に出てきたのだ。
「ゲフッ。しかし、小細工を考えているやつはいくらでもいるもんだな」
「ああ。酸素なんて普通なら倒せないような奴を設定してるなんてな。まあ、それは『常識的に倒せない』ってだけで、一部の者からすれば普通に倒せるわけだけどよ」
「オレが実際に倒したからな」
「だな。つーわけで来夏。五百万ポイントが入ったんだろ?レストランをはしごしに行こうぜ!」
「おう!あ、なんか激戦区になってるエリアの地下レストランがめちゃくちゃうまいって電話があったぞ」
「誰からだ?」
「沙耶からだ」
沙耶ちゃん参加してるの!?まだ一歳か二歳くらいですよねぇ!?
「沙耶ってどうやってポイント稼いでるんだ?」
「基本的にスコアがたまる物を食べたり、後は『納品』もやってるみたいだな」
何かを見つけることが得意な者……特に高志が率いるユニハーズ所属の『林道草太』がそうなのだが、こういった魔戦士が追加で報酬を得るために『納品クエスト』のようなものが存在する。
イベントスコアがたまる食べ物もあるにはあるが、それでは胃袋に限界があるので、納品クエストなども用意されている。
沙耶が誰かを倒した可能性は……あるようなないような……まあとにかくそう多くはなさそうなので、納品で稼いでいる可能性は高い。
「激戦区かぁ……あそこって、元から『戦いやすい場所』として作られてるよな」
「ああ。しかも、招待した人間しか呼ばないシステムだからなのか知らねえけど、全員に合わせた設計になってる。オレと高志を除いてな」
だって君たち、戦いやすいとか戦いにくいとかそういう感性がないでしょうに……。
「それじゃあ行ってみるか。沙耶も待ってるだろうし」
というわけで、激戦区へ向かう。
二人そろって激戦区に向かうわけだが、近づくにつれて、強者がうようよいる特有の『空気』でピリピリしてきた。
「ほー、なかなか楽しそうなことになってそうだな」
「ま、オレたちの目的はそこじゃねえけどな。よっ!」
小石を遠くにぶん投げる来夏。
その目は金色に光っており、どうやら『悪魔の瞳』を使っているようだ。
「またいたのか?」
「ああ。お、五百万追加だ」
「やったな!てか、とんでもない効率だな。懸賞スコア最大って誰だっけ?」
「基樹が六百万くらいじゃねえか?」
「確かそんな感じだったな」
ちなみに、高志の懸賞スコアは三千二百万。来夏の懸賞スコアは二千八百万である。
桁を一つ間違えているような気がしなくもないが、思ったほど的を得ているのかもしれない気がしなくもない。
まあ要するに、普段のバトルロイヤルにおける秀星のように、『倒されないことを前提に設定しているキャラ』なのである。
「ん?」
誰かがビルの裏から出てきた。
全身をすっぽり覆うことができるマントを被っており、闇夜に紛れることができそうな風貌である。
腰に剣をつっており、彼の主武装なのだろう。
「貴様か!俺が狙っていた酸素を倒したやつは!」
「すげえ字面だな……」
「だな。正直頭のネジが外れてるようにしか思えねぇ」
「お前らに言われたくないわ!」
正論である。
「クソッ、クソッ!俺が狙っていた金を倒しやがって……ここでぶっ倒して、貴様らの懸賞スコアを根こそぎぶんどってやる!」
そういって剣を構えて高志に突撃する男。
白い特攻服を着て、しかも武器を持っていない。来夏よりも楽だと思ったのだろうか。
「ふああ……甘いわ!」
あくびをした後、高志は正面から右ストレートを男の顔面に叩き込む。
「ぶへえああああああああ!」
無様な声を出して飛んでいき、そして地面に激突する前に転移して消えていった。
高志のスマホに所有スコアが増えたメッセージが出現する。
「んー……あ、さっきのやつは四万だったな」
アホみたいな外れ値を除いた平均よりはちょっと高いといったところである。
「んー。まあそうでもないな。さて、沙耶のところに行くぜ!」
「おう!」
不憫なものだ。
確かに先ほどの男はルール違反をしている。
あらかじめ企業側とつながり、そして特別なアイテムを手に入れることを前提に情報を受け取っていたのだ。これは明らかに反則だ。
しかし、ルール違反というのは『誰にもバレず、邪魔されずに得することができる』からこそやる意味があるのだ。
来夏のような反則級の認識力を持つスキルを持つものが同じ戦場に立っているときに設定するようなものではない。
「んーと……ここだな!沙耶あああああ!ママが来たぞおおおおおお!」
「ううううううーーーーーーー!」
元気な様子でぐびぐびとジョッキで牛乳を飲みながら待っていた沙耶が嬉しそうにはしゃぎだした。
「おー。なんか牛乳ばっかり飲んでねえか?」
ジョッキが並んでおり、そしてそのすべてに牛乳らしき水滴が付いているのだ。
おそらく牛乳ばかり飲んでいるのだろう。
……ただ、大型のジョッキがいくつもならび、明らかに沙耶の体積よりも多くなっているのだが……これに関しては『余分なものを魔力に変換している』という椿と同じ理屈だろうか。とりあえずそれで納得しておくしかない。
「いや……多分セフィコットには沙耶が何を注文したいのかわからなかったんだろ」
「あははははははは!」
来夏が爆笑。
まあ事実としてその通りであり、沙耶は『うー!』としか発音できない。
そして、対応しているセフィコットにも発声器官がないのでタブレットを使うしかないのだが、沙耶はタブレットの使い方などわからない。
ただ、一番最初に反応を示したのが『特濃・特選・特大の欲張りミルク』というものだったので、そればっかり飲ませているのだ。
……そのネーミングセンスはどこから湧いてきたのだろう。
「沙耶は何を食べたいんだ?」
「うー!」
「ん?ああ、イチゴパフェか。この店ってある?」
二秒で出てきた。
「うー!」
嬉しそうにしている沙耶。
セフィコットはどこか納得がいかない表情になったが、沙耶と来夏なのでまあこんなものかと諦める。
「そんじゃあ、俺はステーキかな」
二秒で出てきた。
「オレは激辛麻婆豆腐だ!」
二秒で出てきた。追加のスパイス付きで。
「「いただきます!」」
「うー!」
まるで家族なのではないかと思うほど同じくらいのテンションで頬張り始める高志と来夏と沙耶。
ただ、セフィコットはその意見を捨てた。
来夏の娘というだけで沙耶がこんなことになっているのに、高志のDNAまで混ざったらてがつけられないからである。
とはいえ、作ったものをおいしそうに食べているのは良いことだ。
「「おかわり!」」
「うー!」
良いことなのだが、『味わって食べろやゴルア!』と思ってしまったとしても、セフィコットの器が狭いわけではないはずである。




