第八百十話
爆炎が巻き起こったり、ビルが倒壊したり、急に地面に大穴が開いたり、世界最強の男が未来で産んだ娘が特に何の意味もなく塔を破壊したりといろいろなことが起こっているが、基本的に派手なことがたくさんあってみる方がお腹いっぱいになっている。
とはいえ、派手なことをし続けるというものもしんどいので、休憩スポットのようなものが存在するのだ。
……いや、休憩ができそうな場所があるというだけで、別に攻撃不能な場所は存在しないのだが、それはそれとしよう。
「むっはーーー!……あれ?なんだかおもしろそうなところがありますね」
おそらく今回のバトルロイヤルを一番楽しんでいるであろう椿は、とあるスポットを発見した。
釣り竿のようなマークがある建物である。
そしてそういった場所があるとホイホイ入っていくのが椿スタイルである。
建物に入ると、そこには五本並んだ釣り竿と、外部とは切り離されたプールが存在する。
そして、このスポットには先客がいた。
「あ!アステルさん!お久しぶりです!」
高志が率いるユニハーズのサブリーダーで『魔眼』持ちの投槍者であるアステルが釣り竿を握っていた。
「お、椿か。いらっしゃい」
「アステルさんもここで釣りをしてるんですか?」
「ああ。なんか缶詰が釣れる」
「お魚さんはいないんですか!?」
「一匹も連れないな。しかも缶詰もやたらマグロの缶詰が多い」
「へえ……不思議ですね」
まあ不思議なものはこのスタジアムにはたくさんある。
「私もやってみます!」
椿はアステルの隣の釣り竿を握った。
そして、エサが全くついていない釣り糸を水中に垂らす。
「……そういえば、プールの水、すごくきれいですよね。魚が一匹もいないですけど」
「プールに魚がいるんじゃなくて、釣り竿がマジックアイテムで『なんか釣れるだけ』だからな」
「いろいろなところに喧嘩売ってませんか?それ」
「別に私が作ったわけではない」
そういうと、アステルの釣り糸の先の『浮き』がぷかぷかと震えている。
「何か引っかかったんですかね?」
「という設定だろうな。水がものすごくきれいだが、なにも引っかかっていないぞ」
ちなみにプールなので波一つ存在しない。
絵面だけを見れば、釣りに来たというよりは水槽に何も入っていない金魚すくいに来たようなものである。ものすごく切ないことだが事実なので仕方がない。
アステルが釣り竿を上げると、釣り糸の先端には綺麗に包装されたハンバーガーがあった。
「なあ。アレを私に食えと主催者は言ってるのか?」
「ブフフッ!」
明らかに水の中にいてはならない物体の登場に吹き出す椿。
だが、とりあえず手に入れたものなので手元に引き寄せるアステル。
実際に手に取ってみると……。
「あ、全く濡れてないし、出来立てみたいにホカホカだ」
「いくら設定と言っても都合がよすぎませんか?」
「私が知るか……というか、この包装、このスタジアム近くの屋台で見たような気がするのは気のせいか?」
「ハンバーガーが寄付されたんですかね?」
「わからん」
とりあえず開封。
よくみるとチーズバーガーだった。
シャキシャキしている野菜もしっかり挟まっているため、味も噛み応えもありそうな逸品である。
実際に食べてみるとかなりおいしい。
「お、結構うまいな」
「おお!私も何か釣れるといいですね~。お!私の浮きが点滅してますよ!」
「……」
ランプがあったようには見えないので、おそらく浮きそのものがマジックアイテムなのだろう。
もうこの際それは良いのだが、なぜ浮きが点滅する必要があるのだろうか。
あきれてものを言えないアステルの隣で、椿はとてもうれしそうである。
そして釣り竿をしっかり握って引き上げると……アフリカゾウが出てきた。
「ブフッ!ゲホッ!ゲホッ!」
何かが気管に詰まったようでむせているアステル。
「お、おお、すごいですね」
ちなみにしっかり暴れまわっているアフリカゾウ君だが、釣り竿に先端という劣悪な環境でも生命的には問題なさそうなので、釣り竿そのものがとんでもないアイテムのようだ。
そうでなければ椿の細腕で耐えきれるわけがない。
「これってどうすればいいんですかね?」
「……自由にすればいいだろう」
というわけで、近くの床まで釣竿をひねって移動させて、そしておろす椿。
アフリカゾウ君が足を地面につけると、ゾウの上に『レンタルタイマー 30:00』と表示され、次の瞬間に『29:59』→『29:58』と変わった。
「あ、三十分だけか」
「もしかして本当にアフリカから連れてきたんですかね?」
「そんなことはないな。多分創造系統の魔法で生み出されたものだ」
魔眼持ちのアステルが言うのならそうなのだろう。
「むうう……なら私はゾウさんと遊んできます!おーいおーい!こっちですよ~!」
釣り竿を置いてゾウを呼ぶ椿。
アフリカゾウ君はノシノシと椿に向かって歩いていった。
「よしよし、良い子ですね。このまま外に出ますよ!」
(……出入口通れるの?)
明らかにサイズが人間用なのだが……。
「パオオオオオオオオ!」
アフリカゾウ君はそのままミシミシ言わせながら出入り口をぶち破って、釣り場の外に出ていった。
「ふむ、通れないなら広げればいい。頭脳プレーですね!」
頭脳とは名ばかりの力技だが、椿は満足のようだ。
「あ、待ってくださーい!」
椿はアフリカゾウを追いかけていった。
……なかなかカオスな現場に残されたアステルだが、震える浮きを見て溜息を吐く。
「……まあいいか。ドラゴンとかはアフリカゾウよりももっとデカいし、多分問題ないだろ」
元気いっぱいなホオジロザメが出てきたので槍を出して投げて瞬殺し、アステルは釣りを再開することにした。




