第八百九話
「むふふ~♪とても楽しいですね!」
スタジアムというものは何もなければ当事者にとっては解放感がある空間だが、そこに様々なオブジェクトが存在すると、急に雑多な感じがする。
当然のことだが、スタジアムと、そのスタジアムと同じ面積の都会の写真を見ればその差は一目瞭然であり、さらには地下空間まで用意されているとなれば話は全然違う。
セフィコットがカメラを片手にそれぞれの参加者に追走し、参加者全員の探知能力を上回る隠蔽能力でリアルの映像をお届けしているのだ。
……まあそうでなくとも、ビルがぶっ壊れたり、公園が爆破されたり、屋敷が炎上したりとなかなかフィーバー!な感じになっているので、正直『何かを注視する』ということに対して意味はない。
アトムに呼ばれた参加者たちも、ある程度『派手に動いて』と言われてできるような精神構造の持ち主だということもある。
当然だが、元々魔法というものは裏社会だったため、表社会に痕跡が残りにくいように行動する必要があった。
ただし、こうして表に出てきた以上、下手に抑え込んでも仕方がないので、派手にやる手段というものは必要になる。
なお、魔戦士として戦う場合は人を相手にするエンターテインメントの面もあるため、そちらの動画も多数上がっている。
『派手さ』というものを学ぶのに適したツールはすでに数多く存在するのだ。
「む?あれはお母さんが出した嵐ですね……ビルが丸ごとバラバラになってますうううう!」
嵐に巻き込まれたビルが倒壊し、そのままバラバラになりながら舞い上がっている。
風香はどうやら容赦という言葉が頭にないようだ。今更である。
ちなみに、普段のバトルロイヤルでは『ボスキャラ扱い』となる風香だが、学生だけでなく大人も参加するこのイベントでは、風香は確かに強者の一人であっても最強格とはいえないのだ。
『久しぶりに参加できるね』ということで盛大にやっちゃっているのである。
……いったいなぜこうなってしまったのやら。親の育て方の問題とはいまいち言えないのが現代魔戦士である。
「私も派手なことをした方がいいですかね?」
モニターで確認出来る限りで君以外に清涼剤になりそうな子がいないからおとなしくしておいてくれ。観客はすでにお腹いっぱいだ。周りが油でギトギトのようなものだから君くらいは薄味でも構わないよ。
「こうなったら……あの一番大きな塔をぶっ壊してやります!」
怪獣映画だと大体一年に一回ペースで東京タワーがぶっ壊れるのだが、そのノリの原点はこういうところにあったりするのだろうか。かなり迷惑である。
「神風刃・鳴動爆破!」
風の太刀をいくつも作りだして飛ばす椿。
その風の太刀は、塔の根本に直撃してそのまま一階部分を全壊させた。
あと……どうやら重要な柱の部分を多数破壊したようで、塔が『手前』に傾いている。
「むっふふーん!建物というものは下を壊せば上も壊れますからね!……む?ひゃあああああああ!」
手前に倒れてくる塔を回避するために全速力で走る椿。
そのまま椿がいたところに塔が倒れてきて、その衝撃でバラバラになった。
「ふう、あ、危なかったです」
さっきからこの子は一人で何をやっているのだろう。
「むう。建物を壊すのは計画的にやらないとだめですね」
さっきからその言葉に対して疑問を持っているようには思えないのだが、未来のバトルロイヤルにおける建築事情はどうなっているのだろうか。
今回のスタジアムは秀星が作った自動生成システムがあるからこそ暴れまわっているわけだが、さすがにこんなものを普通に用意できるような予算がそこら中にあるわけではない。
未来では秀星がアプリとしてばらまいている可能性はあるが、そもそもアプリがあったとしてもできるのは設計だけで、魔力が足りない可能性が十分にある。
未来では魔力の方もかなり安く取引されているのだろうか。
謎である。
「お、あっちでも誰かが戦ってるみたいですね!私も混ざりますよ!」
突撃する椿。
バトルロイヤルというものは遭遇戦ではあるが、確かに何かが起こっているところに乱入するのは重要なことだ。そうしないと見どころがなくなる。
まあ、代わりに世間話をする必要がないほど忙しいので、こればかりは各々が頑張るしかない。
表社会に出てきて最初の『バトルロイヤルの地上波生放送』
果たして正解なのかどうかはまだ判別不可能である。




