第八百八話
アトムがスタジアムで盛大に『イベントの開催と説明』を発表している。
大雑把に言えば『招待状を送った者同士で盛大にバトルロイヤルを行う』というまあ『よくあるもの』なわけだが、アトムの言葉の節々に『安全面』を強調するところがあった。
必要なことではあるがややくどい。
「……まあ、俺がここでグダグダ言っても仕方ないけどさ」
秀星は安全管理委員会本部……まあ実質、秀星の個室のような状態だが、そこに届くメールの処理をやっていた。
安全性を保障する装置を作ったのは秀星である。
そして、アトムに見せてもいい程度とは言ったが、それは言い換えれば発表したところで何も秀星に不都合はないということになる。
そもそも各国からVIPが来るというのに、その安全面の説明をしないわけにはいかないからだ。
……ちなみにいちゃもんをつけようとしてきた『VIPが呼んだ専門家』が泡を吹いて気絶した挙句、ビクンビクンと痙攣したらしい。しっかりトドメをさしておいた。
どういう原理で、どういう構造になっていて、そしてその結果どう対応できるのか。
それら全てをわかりやすく簡潔に伝えるのはハイパー面倒なのだが、そもそも『突破できるもんならやってみろやゴルア!』というのが秀星の言い分である。
ちなみに『テロを考えているという情報を持つ団体』に関してはリストを見せてもらったので頭に入れてある。さすがに漏れるとやばいのでデータとして所有はしていないが、そういった団体からのメールは『とにかく秀星の安全装置の不備を何としてでも手に入れたい』という執念が感じられる。
おそらくそれを突き詰めないとテロができないからだ。
ちなみに、秀星は転移魔法を使えるので、こうして本部でずっとメール対応をしていても何も文句を言われない。何かが危険なことを故意にやっているやつを発見したら、他人が発見するよりも早くそれを見つけて、現行犯逮捕で警察に突き出すからだ。
もちろん、マッチポンプで秀星に関係ない人間が現行犯で捕まえようとしたとしても、それよりも早く逮捕できます。秀星が仕事をしているときにマッチポンプは通用しません。同時多発テロもどんとこいです。
「……AIを作って定型文をそのまま返信させるようにしようか。面倒になってきた」
何度も同じ質問に答えるだけなのだ。生産性がない。
それに、メールを一瞬で一々打ち込んでいるのだが、そのたびに相手からの返信にタイムラグがあるのだ。
内容をしっかり読んで、どこかに穴がないか確認して、やっとメール文を作って送信し、一秒に満たない速度で論破され続ける。
正直、屁理屈を使わないと攻める側もやってられないのだが、一の屁理屈に対して千くらいの理論で撃墜するため、真正面から心を折る気である。
「やあ、なかなか充実しているようだね」
「安全管理委員会の仕事が充実してたらそれはそれで問題があるだろ」
アトムが入ってきた。
いろいろとVIPルームを通ってきたのだろうか。他人が悔しがる顔を見てきたような良い表情である。
「で、アトムの方は説明は終わったのか?」
「ああ。まあ……真剣にちゃんと聞いていたのは椿ちゃんだけだがね」
「でしょうね」
おそらく目を爛々と輝かせながらアトムの説明を聞いていたはずだ。
だが、他の人間にはそれは無理だろう。そもそも精神年齢が周りと大きく異なる。
精神年齢が低いから騒ぎまくるというわけではなく、きちんと躾けられながらも周りにあることそれぞれの興味と熱意をしっかり持って取り組むことができる人間だ。
……いったい誰の遺伝子なのだろう。
「まあ、別にやることが普段と変わるわけではない。目の前に人がいたら、障壁をぶっ壊して場外に転送させればいいというだけのことだ。そこは全員がわかっているわけだからね」
「ぶっちゃけそれだけのことか……椿は最初から最後まで聞かないと分からなかったかもしれないけど」
「そんな表情だったよ」
「だよね」
公式な野球ができる大型のスタジアムで、いったい何人が入るのかはわからない。
だが、きっと戦うとなればこれまでにない戦いになるはずだ。
今まではダンジョンの中だったり、結界の中に作った特殊な空間だったりしたが、今日はスタジアムという初環境である。
まあ戦うときには様々なオブジェクトが配置され、都市になったり森になったりするようだが。
「どうなるんだろうなぁ……」
「さあ?まあ、どうもならなくとも関係はない。現在視聴率は高いからね。多くの者がこの戦いを認識した。その事実があればいい。魔法事業への参入者が増えれば、特別会計が多い魔法省の予算はかなり増えるからね」
「逆に財務省頑張れよ……」
アトムは『社会』で本気を出してもいいが、『政治』で本気を出すと回りがロクなことにならない。
国家の金庫番の皆さんには頑張っていただきたい。
一つの省庁が暴れまわるのが政治ではないのだから。
(……まあ、今はそれは良いか)
秀星がすべきなのは安全管理委員会としての仕事である。
まずはここを何とかしなければ、後も先もない。
……その上司がアトムというのは嫌な話だが。




