第八百七話
「ふむ……あまり君は容赦をしないタイプだね」
結界というと緻密にくみ上げると同時に、『一度張って、それを維持する』という手段を取ることが多いのだが、秀星が作った結界に関しては、かなり低コストでも絶大な効果を発揮し、さらにオンオフを切り替えられるように作っている。
そのため、現在は張っていなかったとしても、後で装置を起動するだけでいい。
かなりスタッフがスタジアム内を動き回って準備している。
別にそれらの動きを阻害するように作っていないのだが、『結界を張るよ』といって動きが止まらない人間はほぼいない。
アトムの部下とはいえ、そこまで常識が吹っ飛んでいるわけではない。
現在は装置を待機状態にして部屋に置いているため、他の誰かが起動することはできないようになっている。
で、とりあえずその状態を資料にしてアトムに見せたところ、『容赦がない』と言われた秀星である。
「別に容赦する必要ないだろ」
「確かに。安全管理として君を使っているわけだからね。ここで君が手加減をして、その結果イベントの最中に問題が発生しては身もふたもない」
そういいながらパラパラと紙の資料をめくるアトム。
秀星としては量が多くなったので電子媒体の方がいいのではないかと思ったが、アトムから紙の資料にしてほしいといわれたのでそうしている。
「それとアトム」
「何かな?」
「俺、装置を作り終わった後、なんでアトムが俺一人を安全管理委員会にしたのか、その理由の一つが何となくわかった気がした」
「言ってみてくれ」
「敵が多すぎて、安全管理チームを魔法省の官僚たちで組んだらそれだけでリソースが吹き飛ぶからだろ」
「……」
アトムは苦笑した。
どうやら図星のようである。
アトムは文字通り『敵が多い』のだ。そのほとんどは政治的、経済的なものだが、とにかく敵が多い。
そのため、誰かどう狙って来るのか想定し、そのすべてに対応できるだけ予測力、情報力があって、リソースは割けたとしても、その先の展開が恐ろしく暗いものになるのだ。
秀星一人に丸投げすれば、最も金がかかる安全管理という部分が、事前に契約した報酬を支払うだけでよくなる。
アトムと秀星は個人的にも知り合いだし、そもそも秀星は新しく必要とするほど金に困っていないので、結構安くても乗ってくれる。
というわけでアトムは秀星に頼んだのだろう。
それだけではないにしても、かなり大きな割合を占めるはずだ。
「……まあ、そんなところだ。君は『運営』というものに興味を持つタイプではないし、安全管理というカテゴリなら引き受けると思っていたからね」
「まあ、そのとおりだろうな」
「あと、この資料だが、実際にテロを考えている情報がある大きな組織に見せてみたんだよ」
「え、実際にいるの?」
「いなかったら君に頼むようなことにはならないさ」
そりゃそうだ。
だが、VIPと呼ばれる人たちの中には『アトム死ねこのクソ野郎!』と考えているものが多いのである。秀星の場合はもっと多いけどね。
「その反応だが……文字通り、泡を吹いて倒れたよ」
「だよね」
「あと、その資料を見せるときは伏せておいたが、君が作ったものだと教えたら行動隊長がビクンビクンと痙攣し始めたよ」
「トドメさすなよ」
かなり地獄絵図である。
「まあ、私が暴れる以前に君もいろいろやらかしているということだね」
「そうだな。ていうかユグドラシルストアの時点でかなりウザいだろうし」
魔法関係のまだ研究が進んでいない素材が多く並ぶユグドラシルストア。
現在は世界樹が存在する浮遊島そのものが異世界にあるので、取りに行く手段を持っているものは限られている。そのためほぼ利権を独占しているのと同じだ。
同業他社が存在しないのでものすごく稼げるのだが、異世界に渡って帰ってくるコストは大きく、だからといって秀星を相手に弱みなど握れるものはほぼいない。
ネット環境においてはマシニクルを利用したセフィアが監視しているのだ。
「加えて、君は人体実験に対する嗅覚がすごいだろう。それを考えれば邪魔だと思うものは多いはずだが、まあ君も私も、殺された程度では死なないからね」
「保険をかけてるからね」
「ああ」
なんていやな二人なんだろう。
方や、魔戦士社会の世界一位。経済においても一位と遜色ない。
方や、そんな世界一位を抱える国の魔戦士社会の若き重鎮。
何でもできそうではある。そして調節はするがそこまで遠慮しないタイプだ。
日本の未来はどうなっているのやら……不安というより謎である。




