第八百一話
「重蔵さーん!遊びに来ましたよー!……あれっ?どちら様ですか?」
椿は重蔵の家に遊びに行くことがちょっと多くなった。
魔法学校である沖野宮高校の生徒である以上、ダンジョンに潜って一定量の素材を持ち帰る必要があるのだが、もちろんそのノルマをこなした上で来ている。
ただ、先客……というか、大量の大豆が入った箱を運んでいる女性がいたのだ。
明らかに十キロや二十キロという重さではないのだが、軽く持ち上げて運んでいる。
「君が朝森椿だね。はじめまして、私はアルセイという。こう見えて、神祖の一人だ」
「アルセイさんですね。むー……どこかで聞いたことがあるような……あっ!未来でよく納豆を作ってる人ですね!」
「!?」
驚いているが、別にアルセイに納豆を馬鹿にする意図はない。
普通に美味しいし……まあ、納豆というものを初めて食べた人間はあのネバネバになった豆をどういう気持ちで食べたのかという疑問はあるが、そこが気になる程度である。
アルセイが驚いたのは、『作っている』という点だ。
椿が未来から来たという情報は持っている。
未来の情報を握っており、そして、『アルセイが未来では何かを作ることを達成している』ということなのだ。
(膨大な年月を何かを生み出すことに費やしてきたが……まさか十年や二十年で達成するとはな)
内心で苦笑する。
モンスターがいる世の中なので、破壊することは確かに仕事になるが、人間の社会に限れば、何かを生み出して、それを買ってもらうことで報酬を得るというのは満足感のあることだ。
それを達成しているというのだから、アルセイが内心で楽しくなるのは決して間違っていることではない。
(しかし……本当に可愛いな)
アルセイは椿を見てそう思う。
笑ったら可愛いと表現できそうな顔立ちで、ニコニコしているのだ。
素直さと無邪気さを感じながら、ウザくないレベルで元気一杯。
しかも、秀星と風香を両親として、セフィアが教育係なため『鍛えられている』のか、多少のことではブレることなく自分を維持している。
みんなに愛されて育ったから、みんな大好き。
それを体現する椿は、見ていてとても可愛いのである。
「む?むふふ〜♪」
「!」
いつの間にか椿の頭を撫でていたアルセイ。
正直、いままでこのようなことは一度もなかった。
(何か、不思議なものを感じるな)
そりゃこの笑顔でパーソナルスペースがクソ狭いからね。不思議なものくらい持ってるさ。
「おお、椿ちゃん。いらっしゃい」
「あ、重蔵さん!こんにちは!」
重蔵が奥からやってきて椿に手を振る。
椿はすぐに笑顔になって挨拶した。
……椿の表情筋ってどうなってるんだろう。
「今日も手伝いに来ましたよ!」
「そうかそうか。それじゃあ。今日はこっちの部屋じゃな」
重蔵が歩いていくのを見てついていく椿。
部屋の奥に消えていった。
「……で、全然似ていない父親がそこで何をしている」
「その言い方はひどくないか?」
苦笑しながら秀星を見るアルセイ。
椿も重蔵も気がついていなかったが、気配を消してずっと部屋の中にいたのである。
「ま、とりあえず娘が通ってるからな。アルセイも昨日から来てるってセンサーに感知したから、どうなるんだろうなって思っただけだ」
別に秀星個人としてはアルセイになんの恨みもない。
現状で苦労しているのは、神器に依存しきって自分の本質的な部分のスキルアップをしなかった最高神たちであり、そしてそんな者たちが保身に走った結果割を食う下位神や上位神たちだ。
しかし、散々黒いことをやっていた上の連中はともかく、下の方はラターグがなんとかするだろう。
現時点では全知神レルクスからはなんの依頼もない上に、そもそも強硬派がその活動をやめるとともに報酬が手渡された。手渡してきたのはレルクスの神兵のユキだが。
懸賞金云々も調べてみたら強硬派とは無関係だったので、別に何も恨みはないのである。
だから、知り合いと娘があってるけどどうなのかな?と思った程度の話なのである。
「そうか。だが、私は今は動くつもりはない」
「だろうな。他の強硬派メンバーも、重蔵の伝手でこっちで働いてるみたいだし」
他の四人も作るということは達成していない。
だが、そもそも社会の中で自分の有用性を示す場合、作るのは当然だが、それを運ぶのも立派な仕事である。
シャイガがどんなアホなことをやらかすのかという不安要素はあるが……強いて言えばその程度だ。
どのタイミングからなのかは不明だが、腐敗神祖シカラチも関わってくるはずなので、そのうちクオリティは高くなってくるだろう。
「秀星はこれからどうするんだ?」
「まあ……まずは直近の話だな」
「直近の話?」
「ああ、今年は、魔法っていう概念が表に出てきて、いろいろ調節も済んだタイミングだ。で、そろそろクリスマスだから、魔法省主催でなにかでかいことをやりたいらしい」
「イベントか……」
「流石に神属性の皆さんはスタッフになれないと思うぞ」
「移植手術をやればいい」
「遊○王か。そんなうまくいくわけ無いだろ」
「ああ。そこまでうまくはいかんな」
フフッと微笑むアルセイ。
「楽しみにするとしよう。私は私なりに努力するだけだが……まあ、たまには私を頼るといい、ある程度のことなら聞いてやろう」
そう言って、アルセイは大豆が入った箱を持ち上げて歩いていった。
「……さすがに神々が出しゃばるようなクリスマスにはしたくないなぁ……」
精神的に限度がある秀星である。




