第八百話
秀星としては空気のような三人組を倒しただけなのだが、神祖たちの中では大きなことがあったようで、神祖が天界や地球を攻めるといったことはなくなった。
それそのものは良いのだが、もちろん回収された神器が戻って来たわけではないので、天界の方はかなりガタガタである。
ラターグが悲鳴を上げながらゆりかごセンターを運営するということに変わりはない。
ラターグとしては、神祖が手に入れた神器を持ち主に返してもらうか、それとも自分のところで管理したいと思っているはずだ。
だが、神祖としても『行動の証』として持っておきたいので、手放すことはないだろう。
収束、といえるほど後始末が楽ではないのだが、だからといって世界のことを全く考えないのも不味いので、どうやら一部、地球に残っている神はそのままにしておくようだ。
神という力を持っているのは間違いないので、どうやらうまくその力で地球で動いてもらって、影響を与えてもらいたいということなのだろう。
実際にドーラーと戦ったアトムは、何かしら思うところがあるようだ。
で、重蔵が帰ってきて大豆の世話をしているが、椿が再び訪れても別に何の問題もなかった。
器が広いというより、何故そんな対応ができるのか意味不明である。
それは彼の背中を蹴飛ばしたミーシェに対しても同様で、訪れた際には普通に対応していた。
意味不明である。大事なことなので二回言わせてもらった。
「丸く収まったな」
「……秀星君。ドヤ顔しながら僕の方を見てそんなことを言うってことは、確信犯ということかな?」
「もちろんだ」
「ふざけるなああああ!僕は堕落神であって社畜神ではなあああああい!」
「……社畜神っているの?」
「いるよ、誕生したときからずっと単純作業系の仕事を続けている。よく僕と比較されて『足して割ったらちょうどいい』って言われるね」
「なるほど」
「まあそんなことはいいさ。これっていつまで続くんだろう……」
ラターグがつぶやくように言う。
神器のルール上、同じ制限で二つ以上作ることはできないので、強硬派が持っている神器を開放しない限り、『元に戻る』ということはありえない。
結果的に、有用そうな概念を司る神を引き込んで、神器を作らせて、それをもとに運用することができるようになるまで、『神器に慣れきった天界』の軌道が戻らないのだ。
多くの神々が『事業の維持』を困難としていく中で、責任をふっかけられて落ちていく罪のない下位神や上位神もいるだろう。
そして、武力くらいしか神祖を相手に交渉できないのが現状だが、第一世代型ではない神々ではそもそも戦おうとすら思わないだろう。
格差が広がりそうな話だ。
「天界の経済はガタガタだよ。神祖の皆さんには手加減してほしかった」
「してると思うぞ」
「だよね……」
熱意がないのだ。
最初からダラダラやるに決まっている。
そしてダラダラやった結果、今のような状態になっているのだ。
「ここから誰が台頭するのかわからないんだよなぁ……」
「ラターグはいいのか?」
「別に地位がほしいわけじゃないしね。ていうか、学校で使われてる僕が作ったアイテムの利用代金を今は下げてるし……でも出費は多くなっていく一方だ」
「ていうか、なんで民間であるラターグが金を出してるんだ?天界にも政府はあるだろ」
そもそも貨幣というものが信用を持っている以上、金というものは存在すると思われる。
「天界にも政府もどきはあるんだけど、彼らは金についてわかってないからなぁ……」
「……未だに頭の中が金本位制なのか?」
「そういうこと。実際は万年筆マネーであることを知らないのさ。とにかく金を刷りまくってばらまいて、インフレ率が高くなったら税率と金利を上げて調節すればいいってことがわからないんだよ。ここ十数年あたりで死んで天界に来たおっさん連中はひどいぞ。国が借金を発行するって言っただけで財政破綻論を出してくるからね」
「ラターグ、政治家になればいいのに……」
「間違った貨幣感を持っている人が日本の数百万倍いるって言ったら?」
「ごめんむり」
降参した秀星。
「はぁ……面倒だ。ほんっとうに面倒だ。さっさと事態が収束しないかなぁ。僕のお金が減っていくうううう……」
「まあ頑張れ」
「他人事でいいよね」
「地球で何かが起こってたら流石に最終的には俺が出るさ。でも、天界にまで手を出してほしくないだろ」
「事実だね」
十秒に一度はため息をつくラターグ。
……おそらく、彼にとってはこれからが本番である。




