第七百九十七話
強硬派の面々が一日のうちに必ず行っていることがある。
それは、『手に入れた最高神の神器の数の報告』だ。
強硬派の面々にとって、別に神器を入手したからと言って何かが変わるわけではない。
何度も言っているが、『神器というものは制限が設けられており、使える数には制限がある』というのが神器の『ルール』である。
『アイテムマスター』である朝森秀星や、『解放神祖』であるリリスといった例外は存在するものの、一部の例外があることを許容するのが『ルール』の存在意義であり、その『ルール』を作った創造神ゼツヤは秀星やリリスに対して何らかの制限を設けるつもりは毛頭ない。
いずれにせよ、強硬派の面々が集めた神器を使えるわけではない。
それでも手に入れている理由は、純粋に『奪った数というスコアがわかる』『神祖を除けば最高神の神器が最も入手困難である』という二点に尽きる。
神祖はゼツヤが作ったルールに対して嫌悪感があり、『神祖の神器』を作成することは可能であっても作ることはないので、必然的に数で判断することになる。
本日 累計
アルセイ 12 1788
クロギア 7 419
ドーラー 5 265
アリオス 4 261
シャイガ 0 1
という内容だ。一人ほど落第生が混じっている気がしなくもない。
ポンコツもここまでくると強烈な個性である。
まあ、朝森家に行って秀星を狙ったときの事実を考慮すれば、おそらく神祖としてのスペックを発揮できていないことは明白だが……負けないだけで全然勝利ができていない。
「にゅおおおおおお!今日も入手できなかったあああああ!」
シャイガが奇声を発しながら頭を抱えて嘆いている。
「……なあシャイガ」
「なんだ?クロギア」
「お前、真面目にやってるよな」
「俺がいつも真面目に真剣にやってるのはお前も知ってるだろ!」
「……確かに」
クロギアははぁ、と溜息を吐いた。
確かにシャイガは真面目だし、いつでも真剣にやっている。
本質がポンコツすぎるのだ。
技術は優れているが使いどころを間違えることが多々あり、『隠密神祖』という『裏で暗躍してそうな要素』ゆえに奇策を好むが、狭いというよりはバグのような視野の欠乏が存在するゆえに途中で必ずつまずくのだ。
ただ、隠密というものはやるとなれば訓練を積み上げて押さえるべき要素を全て習得し、数多くのセオリーに加えて精神的な適正が求められるもの。
「正直……隠密に向いてないよな……」
「チクショオオオオオオオ!」
叫ぶシャイガ。
だが、ここでアルセイが口を開いた。
「安心しろ。シャイガ。お前にも評価するべき点がある」
「え……俺にそんなものが……」
「お前以外の男三人と比べてキャラが濃い」
「どういう評価なのそれ!?」
『もっと他にないの!?』という顔をするシャイガだが、確かにシャイガに比べると他三人はキャラが薄い。
正直、椿はよく三人の未来の活動を覚えていたものだと思う。
あるいは未来ではキャラを濃くしようと頑張っているのか……それはともかく、秀星は男三人に関しては椿経由、アトムからの報告、自分も遭遇という形で情報を仕入れている。
ライズが念写スキルを持っており、三人とも顔と名前を憶えているので実際の顔写真と共に秀星に報告している。
アルテマセンスによって記憶力は抜群なので覚えているとは思うが、『どんな奴?』と聞かれても説明できないだろう。
「まあ、必要なことだろ……しかし、大量の神器が集まったな」
ドーラーが呟く。
確かに、五人が手に入れた神器の総数は2734となる。
最高神の神器なのに、なんだかありがたみのない話だ。
「聞いた話だが、天界に普及する技術では『破壊』はできても『分解』はできないそうだ。緻密な設計をしなければそもそも作れないようで、途中で分解して壊れることもあるそうだ」
「言い換えれば、一度作ろうとしたら最後まで完成させるしかなく、作ったらもう分解できないと……」
「最高神は天界の中で資産家が多いからな。コアは買えても神器を作る練度はそう簡単には上がらないだろうな」
創造神ゼツヤがそういうルールになるようにコアを作っているともいえる。
「……落ち着いてる系三人が話してると似たり寄ったりだな」
アルセイが頷く。
「たまにこの三人とグループチャットでやり取りするけど、名前伏せて主語をぼかした話題にした時は三人のうちだれがしゃべってるのかわからない時が多々あるな!」
シャイガが納得したようにうなずく。
「……俺もシャイガのチャットは分かるが、他二人のうちどっちがしゃべってるのかわからない時がある」
「「俺も」」
なんてチームだ……。
五人の内、三人が空気で一人がポンコツ。肝心のリーダーはジジイの言葉を真に受けるほど人生に熱意を持っていない。
そしてそんな意味不明な連中に負ける天界の最高神たち。
アルセイがコホンと咳をする。
「……そろそろただ集めるのも飽きてきたな。ここらで一回。何かやっておくか」
「具体的には?」
「せっかく神器を集めたんだ。アイテムマスターを持つ朝森秀星か、解放神祖リリスを狙う」
アルセイはそう宣言した。
他の四人はそれを頭の中で反芻する。
「なるほど……要するに、俺のリベンジタイムってわけだな!」
「「「「……」」」」
「突っ込むんならそうしてくれよ!なんなんだこの空気!」
別にムードメーカーというわけではないが、純粋にまだ『人生が楽しそう』なシャイガを見て四人は静かになった。
……実は外見年齢に関してもシャイガがこの中で一番低いのである。
ただ、できればこれからも頑張ってほしい。




