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第七百八十八話

「しっかし……ラターグが補助組織を作ることになったとはなぁ」

「そうだよ。補助組織の名前は『ゆりかごセンター』っていうんだ。僕が運営の最高責任者なんだけど、僕はベッドとか、そういう寝具開発が得意だから、そこが反映されてこの名前になったんだよね」

「いいネーミングセンスだな。で、誰が考えたんだ?」

「僕です」


 秀星の家のリビングで、ラターグがソファに座って、ノートPCのキーボードをすさまじい勢いでタイピングしていた。

 涼しい顔でずっとやっている。


「ラターグさんってタイピングすごいですね。疲れないんですか?」


 ちなみにラターグが働いていると聞いて椿が気になったのか時々質問している。


「フフフ……このタイピング速度を要求するクソゲーにハマったことがあるのさ」

「ゲームから学んだんですね」

「そういうこと」


 会話しながらもラターグのタイピングは止まらない。

 ……秀星も同じことができるが。


「ラターグ様。ここの『特殊接待費』というのは一体何の予算ですか?」

「え……」


 タブレットを流し読みして確認中のリビアに指摘されてうろたえているラターグ。


「山のように正式な書類を作っていますが、たまに変なものが混じってますよね。で、これって何の予算なんですか?」

「……」


 良い顔をしないラターグ。


「……あの、それ、消しておくからさ。『センター建設費用』の倉庫の設備の方に当てておくよ。だからそんな目をしないでくれない?」

「その建設予算と見取り図も確認しましたが、巧妙に隠された区画が存在しますよね。ここの中には何が入っているんですか?倉庫のすぐ隣の空間ですけど」

「……その空間、重要な書類の保管庫にするからさ。で、余った分の予算は神々を見つけるための派遣用の予算に当てるよ」

「その派遣予算ですけど、世界の名前に『グリモア』ってありますよね。この世界ってあまり神々が入ってこられないように協定で決められているじゃないですか。それなら『アムネシア』という世界にするべきでしょう」

「……」


 ラターグの顔が苦渋に満ちていく。


「リビアさん目ざといですけど、ラターグさんも往生際が悪いですね!」

「ぐ、ぐうううんにゅうううういいいい……!」


 変な声がラターグの口から漏れ始める。

 椿に状況を正確に突かれたからだろう。


「ぐうう……予算の九割は僕の自腹なのに……なんでこんなことに……」

「そもそも補助組織の運営そのものが上手くいくと思ってないんだろ。言い換えればボランティア組織なんだろ?資本主義で自由主義な天界の社会で、そんなものが維持できるとは誰も思ってないんじゃないか?」

「まあ秀星君の言う通りなんだけどね……誰も金なんて貸してくれなかったさ」

「で、残りの一割はどこから出てるんだ?」

「数少ない銀行が出してくれた。まあ調べたら裏に全知神レルクスがいたんだけどね。どうせなら全額出してくれてもいいじゃん。アイツ僕よりも金持ってて、僕よりも稼ぐ額が大きいんだよ!?なんで僕の方が九割出さなきゃいけないのさ!」

「全知神レルクス様があまり動きすぎると、そこに大きな弊害が生まれますよ。全知神の名の通り、過去も今も未来もすべて知っているのですから」

「まあ、そうなんだけどね」


 ガチのアカシックレコードである。

 時々、『過去や未来がわかる』とか言っているキャラが主人公に攻略されるフィクションが散見されるが、あれは大体、そのキャラが『情報にアクセスできる存在であって情報そのものではない』か、『そもそも情報そのものが完璧ではない』かのどちらかである。

 しかし、全知神レルクスは『情報そのものであり、その情報は完璧』というレベルだ。

 未来には多くの分岐点があるが、その中で何が選ばれるのかをすべて知っているのである。

 さすがにこんな存在が大きく動いてしまうと影響がありすぎるだろう。

 『ゆりかごセンターへの大規模な出資を全知神レルクスが行っている!』という情報が流れたら一気にニュースの速報に流れる上に号外が発行されること間違いないなしだ。


「ただ……俺はそもそも、センターの設立そのものを邪魔してくると思ってたけどな」

「ん?どういうことかな?」

「状況を考えると、大体下位神や上位神の金の問題だろ?ゆりかごセンターの通常業務はその金の問題を法律面から見て援助する組織になるはずだ。借金に関する法律を知らずに多額のままで返済計画を立てているやつがいるのはいつの時代も変わらないからな」

「確かに」


 セーフティラインともいえる設定が存在するとしても、それが完全な限度額となることはまずない。もっと上のラインがあるはずなのだ。そのため、そのセーフティラインを知らない者を狙ってカモにする。という手法は別に珍しいモノでも何でもないだろう。

 特に金に関する教育が遅れている日本人、および異世界の住民が神となった場合、おそらくアメリカ人から神になった者が接触してきたら敗北必須である。


「そうなると、おそらく下位神や上位神が抱えている債務の減額交渉が主な仕事になるだろ。そうなると、他の神々が抱えてる銀行の収入に悪影響だ。センターの設立そのものを妨害してくると思うんだが……そこのところどうなんだ?」

「まあ……僕が運営のトップになってるから『(けん)』に回るって考えてるのが三割、そもそもうまくいくと思ってないのが四割ってところかな」

「残りの三割は?」

「銀行業務をやってない神々にとっては、現在は顧客が減っている一方だから、センターの設立を妨害されたら不味いんだよね。多分彼らは味方さ」

「そういうもんか?」

「社会で発生する問題なんて九割九分は金が原因だしね。天界ならなおさらさ」

「シビアだな……」


 神になった方が損すること多そうである。

 ただでさえ今の秀星は神よりも戦闘力が高いのだ。大体死んだ人間は天界に行くのだから、神の名を持たない方がなんだか融通利きそう。


「で、何とかなりそうなのか?」

「……するしかないんだよね」


 ご愁傷さまです。


「はぁ、ていうか毎回思うんだけど、僕って神だよね。人が動くって書いて働くって書くんだからさ。神である僕は働かなくてもいいと思わないかい?」

「神もほぼ人間だろ」

「……」


 ラターグは黙った。

 どうやら自覚はあるようだ。


「ぐ……ぬううう……あんまりだああああああああああああ!」


 どこぞの柱の男のような叫び声を漏らすラターグ。

 普段のツケが回ってきただけだ。自業自得だよ。多分ね。

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