第七百八十九話
(うわー……ものすごく逃げたくなってきた)
ラターグをトップとする『ゆりかごセンター』
基本的には下位神や上位神……特に新人が抱えている金の問題を解決する。ということで設立された。
あくまでも救済システムであり、基本的には減額交渉だ。
だが、『金の問題を解決する』と聞くと、『え!お金貰えるの!』となる人がものすごく多い。
(ていうか、減額交渉ってサイトに明記してるのに、お金がもらえないと嫌な顔をする人が多いんだよなぁ……)
別にいつでもどこでもお金を渡しているわけではない。
もちろん必要とあらば出すのだが、基本は減額交渉だ。
基本的には借金、そして普段かかっている法外といえる維持費に対する交渉を行う。
だが、実際に運営してみると、あまり予想通りにはいかないものだ。
「……最高責任者が俺んちにいていいのか?」
「いいんだよ秀星君。どうせノートパソコン一台で分かることだからね……はあ、お金が欲しいっていう人がたくさんやってきて僕はつらいです」
「減額交渉に金を使うって考えてるんだろうな」
「僕は法律で勝負するんじゃゴルア!」
ラターグは叫ぶと、そのままソファにぐったりと横になった。
「……一応聞いておくが、金銭的な余裕はあるのか?」
「あるよ。天界は貨幣が黎明期から作られていて、僕はそのころから不労所得で稼ぎまくってたからね。基本的に余裕っていうのは『実力-必要経費』×『時間』で決まるから、昔から稼ぐコツを身に着けていた僕は余裕がかなりあるのさ。ただ……人材がねぇ……」
「なるほど」
製造や営業など、純粋に何かを作るとなれば力を発揮するとしても、法律関係になると育成も時間がかかる。
もちろんマニュアルは作られているのだが、それだけですべてがどうにかなるわけではない。
「……で、一番腹立つパターンは?」
「『金を貰えると勘違いした全然困ってない馬鹿が金の催促に来る』ってことかな」
「あ、やっぱり勘違いしてる人が多いわけか」
「そういうことです。これがもう本当に……対応することすら面倒です。正直そんな奴らに時間を掛けたくないんだよね……」
法律関係は育成に時間がかかる。
対応しても何の発展もしないのでクソ面倒なのだ。
「……で、これからどうするんだ?」
「どうするとは?」
「これからも対応していくっていうのは良いけど、いずれ解決してきたらどうするのかってことだよ」
「それはそれでいいんじゃない?救済システムなんだし、利用されないに越したことはないよ」
「そういうものか?」
病院が暇とか、警察が暇とか、消防署が暇とか、そういったところが暇なのは大変うれしいことだが、ゆりかごセンターは法律関係であり、来ないことが解決につながっているとは言えない気がする。
「そんなもんです……まあ、金に関する教育は天界でも行われてないんだよなぁ……」
「アメリカに行った神々がめっちゃ強くなって帰ってくるんじゃないか?」
「いや。天界でしゃべってるのってみんな日本語だし、異世界で使われてる言語も全部日本語だから、英語喋れないんだよね」
「あっはっはっはっは!」
一番最初の神は日本人である。
そんな神が仲間を集めて世界の監視や管理をしようとした場合、それは必然的に日本語で行うことになる。
その結果、『異世界なのになんで日本語が通じるの?』という疑問が解決する反面、異世界人は誰も英語が喋れないのだ。
日本人の英語取得率も高くはないので、基本的に日本語訳されたものしか読めないのだ。
「まあいろいろあるだろうけど……基本的に解決には近づいてるのか?」
「まあ、基本的には……」
パソコンのディスプレイを見ながら苦しい顔をするラターグ。
「……秀星君。こういう施設あるあるって何かわかる?」
「……本当に必要な人が来ない」
「そうです。その通りです。プライド捨ててさっさと来いやゴルア!」
あまりこういう施設に頼りたくない人もいるのである。
そしてどんどん苦労していくのである。
中にはゆりかごセンターに来ないように脅されている人もいるだろう。だって減額交渉しに行く施設だからね。
「……はぁ、しかたがないか。何とかなることを祈るよ。派遣する人も増やさないとなぁ……」
「まあ頑張れ」
「……秀星君。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……」
「この家に置いてるだろ?それで十分だ」
「……」
「って書かれた手紙がレルクスから届いた」
「ぐ……んんんんにゅううううういいいいいい!」
口から変な声が漏れるラターグ。
気持ちはわかる。が、まあこればかりはラターグが頑張ることである。




