第七百八十五話
「天界がドエライことになってます」
「……」
秀星は『リオ先生ってこんな口調だったかな』と思いながら屋上に来ていた。
柵があるだけの場所だったはずだが、現在ではベンチや傘付きのテーブルに加えて、なぜか自販機が用意されているので利用者が多いのかもしれない。
ちなみに、『屋上が危険だから』という理由で封鎖されている学校もあるそうだが、沖野宮高校の場合は木琴を放り投げたとしても(一般人はできないけど)セフィコットが回収くらい非常識なところなので屋上が普通に解放されている。
秀星はそんなところでギラードルと話していた。
「強硬派の神祖が本当に最高神から神器を奪いまくったせいで、天界がガタガタになってますよ……」
「酷く言いなおしても結果は変わらんぞ」
「わかっていますが、かなりボロボロになっているのがねぇ……」
「具体的には?まあ、最高神の神器を引っこ抜かれまくってるから、それによって悪いことをたくさん考えてるやつの戦力が落ちてるとかなんとか……」
「秀星君は調べていないかもしれませんが、最近世界中で発生している神の出現はどれもこれも下位神や上位神ですよ」
「あれ。最高神じゃないのか?」
「はい。そして、そんな下位神と上位神はあまり強くないのでね……最高神に奪われてますから。まあ、一部の最高神は『回収』と称して正当化してますがね」
『強奪』というと実際に奪っているので悪いことだが、『回収』というのはもともと自分の物である何かを発見したのでそれを手に入れるということである。
その下位神や上位神の神器がもともと最高神の物であるはずはないのだが、そこの論理をぶっ飛ばして集めるのなら確かに『回収』というだろう。
理不尽な話だが、天界の最高神社会というのは『偽造』とか『捏造』とか、そういったあくどいことがたくさんできそうな神々をたくさん抱えている魑魅魍魎の巣窟なので日常茶飯事である。
そもそも、人間レベルのやり取りで制限されて存在するのなら神である意味はない。
多くの場合、神になった後でも弱者であることに変わりはないのだ。
「なるほど、ゼツヤのところで新しいコアを買ってもまた神祖に奪われるだけだから、上位神や下位神から奪ってるってわけか」
「そうなります。その結果として、新しいコアを買えずに生きていけなくなった神々がこちらに入ってきているのですよ」
「……一つ疑問っていうか……俺が確認し忘れただけなんだが、天界に貧困街ってないの?」
「ありません。多くの魂を抱える施設は存在しますが、神を抱える施設は存在しません。ちなみに、この施設は最高神の神器を多数配置して運営されていますが、神祖に襲われる気配そのものがありませんね。神祖としても筋違いだと思っているのでしょう」
だからこそ、天界で敗北した場合、死亡という時間による解決がない神々は地上に降りてくるしかないということなのだろう。
「ていうか……強硬派って何人いるんだ?」
「五人ですね」
崩壊神祖クロギア。破城神祖ドーラー。無双神祖アリオス。隠密神祖シャイガ。
……あと一人誰だろう。確かギャグ補正の九十二歳である権藤重蔵が、封印神祖を殴り飛ばしたとかそんな話を聞いたことがあるような気が……そっちは関係あるのだろうか。
というかシャイガがポンコツなのは覚えているが、後ろ三人が似たり寄ったりの感情の起伏が乏しい男性なんだよなぁ……。
「ていうか、たったの五人で天界をボロボロにしてんの?」
「それだけ最高神の神器に対する依存度が高く。そして、依存していることがわかり切っているゆえにガチガチに防壁を作っていても、その防壁を易々と突破する神祖が頭おかしかった。ということですよ」
「上位の存在に依存しているものを狙われたらそりゃガタガタになるよね……」
「はい。そういうわけで、大変ピンチなことになっています」
「で、ギラードルはこれからどうなると思う?」
「大量の神々が地上に流れてくるようになるでしょう。ただ、このままでは何も解決しません。誰かが新しくリーダーとなって引っ張り上げて、そうしてできた組織が地上に逃げる神々を保護するシステムを構築するしかないでしょう」
「みーんな不老不死だもんね……」
抱えていけるシステムがなくなったのなら新しく作るしかない。
「……ていうか。神器を奪われても神としての名はあるんだよな。なんで天界を追放されてるの?自分なりに稼げばいいじゃん」
「神器のコアを買うために莫大な借金をしているものが多いのですよ。ローンを組んでいるパターンが多いですね。ただ、神器があれば返していけるような返済計画ですと、奪われるともう返せませんからね。そして、そのローンすら組めないような経済状況の神々に、資本主義経済が構築されている天界では生きていく人権などないようなものですよ」
「……世知辛いな」
「金というのは人類の最高の発明でしょうね。単なる債務と債権の記録なのに」
秀星は溜息を吐いた。
「……で、ちょっと多分話戻るけど、神器を奪うって言ってたが、そもそもどうやって使うんだ?基本的に自分にしか使えないような制限の設定にしてるやつが多いはずだし、神器を奪ってもそれを使えなかったら意味がないぞ」
「……まあ簡単に言いますと、秀星君ほど無制限ではありませんが、制限を突破して神器を使う手段はあるのですよ」
「そういうことか……それで下位神や上位神から奪った神器を使っていると……ていうか、こんだけひどい目にあっていて、まだ神器に依存するのか」
「当然ですよ」
「当然なの?」
「それ以外の方法を知らない。ただ、神器というものを使えば何とかなると思っている。それだけのことです」
正直、溜息しか出てこない。
「……現状は何となくわかった。これからどうするかだな。とりあえず、神々を抱えていけるシステムを作ろうとしてる神を支援する方針で行こうか」
「それを最高神が邪魔してきたらどうするのですか?」
「まあその時は……頭のネジが外れてるっていうのがどういうことなのか教えてやるさ」
そういって黒い笑みを浮かべる秀星。
……まあ、あれだ。
誰がどう悪かろうと、真理に近いものが悪いことを考えた時の方が一番性質がわるいのである。
というかあれだ。
みつかるの?システム考えてるやつ。




