第七百五十四話
高志と来夏にギャグ補正を極めるために話を聞きに行こう。ということで、椿と風香がまず来夏に話を聞きに行った。
一応拠点といえるものを建設している『剣の精鋭』だが、結局『なんかキャンピングカーって落ち着くよな』ということで、拠点がキャンピングカーのままである。
別に秀星として建物を建てる程度のことならば何も苦労することはないので文句はない。
そもそも、剣の精鋭におけるありとあらゆる決定は『来夏賛成、他が棄権』で成り立つ疑似独裁制である。
今更だ。
というわけで、キャンピングカーにやってきた椿と風香である。
そこでは……。
「おい沙耶!ペペロンチーノの麺をゆでるときは塩水でゆでるんだぞ!」
「砂糖を入れたらものすごく甘くなってお子様風になるからな!」
「うー!」
「うおおお!砂糖瓶がひっくり返った!」
「あー……これ激甘コース確定だな」
どうやら高志と来夏が、来夏の娘である沙耶に料理を教えているようだ。
……沙耶はまだ二歳くらいだったと思うのだが、お子様風ではダメなのだろうか。少しわからない領域だが来夏流の子育てでは違うようだ。
「……ん?おっ、椿と風香じゃねえか。どうしたんだ一体」
「むふふ!今日は神祖と戦うときのために、ギャグ補正を極めようと思ってお話に来ました!」
「なるほどなぁ。まあ上がれよ」
「うー!」
「沙耶も喜んでるな」
というわけで、椿と風香で中に入った。
「オレはちょっと沙耶とペペロンチーノ作ってくるから、高志と話してろよ。高志の方がギャグ補正に関していろいろ知ってるからな」
「任せとけ!」
そう言って胸を張る高志。
……キャンピングカーの中でも相変わらずの白い特攻服であり、上半身のムキムキの肌を見せつけてくる。
本来なら暑苦しい性格だが、椿と同様の天真爛漫なので近寄りやすい雰囲気がかなりある。
不思議なものだが、これが朝森高志という人間だ。
「うー!」
沙耶が来夏に連行されて行った。
……二歳であることを考えるとちょっと言語発達が甘い気がしなくもないが、ギャグ補正の影響だろうか。
セフィアから聞いた話だが、椿も言語発達が周りと比べて遅かったらしい。
……まあ、中学三年で今の話し方なので、言語能力は中三の水準に達していないような気がする。
(……あれ、ひょっとして、本気で可能性があるの?ギャグ補正と言語能力)
確信犯である高志と来夏はギャグ補正の取得が後天的なものである。
ただし、椿と沙耶に関していえば先天的なものだろう。
どこか思うところを感じずにはいられない。
「で、神祖を相手にするって?」
「はい!最高神の神器を狙っているという話ですが、いつそれらの事情が変わるかわかりませんからね。状況に対応するために、ギャグ補正について勉強しておこうと思いました!」
「……ギャグ漫画読めばいいんじゃね?」
「!?」
椿が満面に驚愕を浮かべた。
なんだかとてもわかりやすい反応である。
「なるほど。それは盲点でした!」
「ギャグ補性の教科書としてギャグ漫画を読まないパターンってあるのか?」
「ギャグっぽい人が現実にいるから仕方がないんですよ!」
「うー!うー!」
椿の主張に沙耶が反応した。
椿と沙耶の視線があって、そのまま『うむっ!』と頷いている。
……精神年齢があまり変わらないのだろうか。
沙耶は正直二歳児といえるレベルの言語理解力ではないので現在の年齢よりも高いと思われるが、椿もまた中学三年生と言う感じではない。
実年齢差は十三歳なので、沙耶が本来より六・五歳高く、椿が本来より六・五歳低いとなれば精神年齢はかわらないことになる。
……なるのだが、まだ二歳や十五歳の人間にとって、六・五歳も違いはそもそもエグい。
「ほらっ。沙耶ちゃんも頷いてますよ!」
そう言いながら『むっふーん!』と胸を張る椿。
……本当に今よりも六・五歳低いかもしれない。
「まあ、俺からもいろいろ教えておいたほうがいいのは確かだからなぁ……でも気がついたときにはこうなってたぞ」
「ふむふむ……」
「ただ、基本的には何も考えなくても戦えたぞ?だって普通に考えれば、『神祖と戦えていたという結果がギャグみたいなもの』だからな」
「あ、そっか。結果がギャグなら補正が働くんだ」
「まああんまりそういう理論で成り立ってるもんじゃねえけどな。だって、ギャグっていうのは物理学じゃなくて『文化』だぞ」
「それもそうですね。確かに難しく考えても解決しないのかもしれません」
「まあでも……椿なら戦えるんじゃないか?」
「そうですかね?私、お母さんにも勝てないですけど」
「安心しろ。母親に勝てないのはギャグ補正の構造上そうなってるからな」
「そうなんですか!?」
「ああ。俺も母さんには勝てないからな」
「あ、オレもだ。確かになんか勝てないんだよなぁ」
言い換えれば、秀星も母親である沙羅には絶対に勝てないということだ。
「ただそれと同時に、母親の存在が重要になるって意見もあるな」
「そうなんですか?」
「昔、ニ十人くらいギャグ補正を持ってる奴らが集まったチームがあったんだよ」
なんだその地獄みたいな状況。
というか、ギャグ補正の取得条件を考えると天才集団である。
偏差値八十オーバーが二十人集まってるとか、世界を支配できそうだ。魔法があるからなおさらできそう。
「その中の一人がもう七十歳超えてたんだが、その母親が寿命を全うしていなくなったんだよ。そうしたら、ギャグ補正が消えたんだよ」
「むう?なにか関係があるんですかね?」
「まあ、最終的に一番受け入れてくれるのは母親だからじゃないか?父親はあまり関係なさそうだったし」
「……ちょっと質問いい?」
「なんだ?風香」
「高志さんってそのチームの一員だったんですか?」
「その通りだぜ」
グッドサインを出してきた高志。
なんだか四割くらい本気で顔面に鉄拳をぶち込みたくなったが、風香はこらえた。
「どのあたりの発言力を持ってたんですか?」
「俺はサブリーダーだったぞ」
「まだ上がいるんだ……」
「ちなみにさっき例に上げた七十のジジイがその時のリーダーだった」
一体どんな人なのだろう。
「……ひょっとして、今も生きてるんですか?」
「ああ。なんか大豆作ってるって言ってたな」
「……」
風香は内心でモヤモヤしてきた。
すでに出現している崩壊神祖と破城神祖の未来での状況に、なんだか大豆農家が関わっているような雰囲気が漂っているからだ。
「あの、一応……もうギャグ補正はもってないんですよね」
「ああ、目に見える範囲ではな」
「どういうことです?」
「まあ要するに……存在そのものがギャグなら関係ないってことさ」
なるほど……と納得できると思ったら大間違いだが、一理ある。
百害がついてきそうな気がして警戒ブザーが頭の中で鳴り響いている気がするが。
「まあとりあえず、会ってみるか!やさしい爺ちゃんだから話すと楽しいぞ」
「おお!行きましょう!」
「うー!うー!」
「ん?沙耶も行きたいのか。オレも行ってみるか!」
「……」
なんだか乗り気な様子である。バールを取り出しているし、行く気満々だ。
……ちなみに、ツッコミ役は風香だけである。




