第七百五十五話
「さて、爺さんに会うためにバールを使うわけだが、正直爺さんはギャグ補正を取得する人物の中でも、なんだか補正が強そうな感じがしなくもないような気がする人間だ」
「そこまで言うなら逆に断言してあげてください!」
キャンピングカーを降りて、来夏と高志と椿がバールを持っている。
風香は沙耶を抱えて待機。
そして注意事項を言い始める高志だが、正直注意する気があるのかどうかがわからなくなってくるレベルである。
「まあ詳しい説明は置いておくとして、こっちも本気で行かなければならないってことだ」
「なるほど!よくわかりました!」
(ほんまかいな……)
内心でツッコみ始めている風香。
「これから三人同時にバールを振り下ろして、一気に空間をぶち割る。これによって、ギャグプロテクトを張り巡らせている爺さんの大豆畑に土足で乗り込むんだ!」
(迷惑すぎる。というかギャグプロテクトって何?)
ごもっとも。
だが、そこの説明はない。説明しても大して意味はない。
だって言ってる本人がテキトーだから!
「というわけで、やるぞ!」
「「おー!」」
というわけで、何もない空間に対してきちんと整列してバールを構える三人。
そのうちの一人が自分の義理の父親になり、一人が親族になり、一人が娘であると思うとなんだか頭痛が痛くなってくるが、こればかりは未来で椿と結婚する者が自分の遺伝子で浄化するしかないだろう。今すぐどうにかできる問題ではない。
「いいか?俺にもあんまりよくわからんけど、このあたりを狙うんだぞ」
手で『このあたりな』と空間の一点で手をフラフラさせている高志。
見ていて腹立つのだが、一言多いのはどうにかならないのだろうか。
「よしいくぞ!せーのっ!」
「せーのっ!」
三人同時にバールを振り下ろす。
そして、高志がこのあたりなといったあたりの空間がバキッ!とひび割れた。
「よっしゃああ!割れたぞ!あとはこれをこじ開けていくんだ。ふんぬううううううう!」
「おりゃああああああ!」
「むうううううううう!」
三人がなんだか頑張っているが、ヒビが小さすぎてパントマイムをしているようにも見えるので滑稽である。
「うー!うー!」
沙耶が興奮しているが、風香がだきしめているので腕をパタパタ振るだけで終わっている。
かなり手遅れと言えば手遅れなのだが、沙耶にはまっとうに人間らしく生きてほしいと思う故である……じゃああの三人は何なのかという話になるが、風香はそれに対してコメントする気は毛頭ない。
「よし!ヒビが大きくなってきたぞ!乗り込めええええ!」
人が余裕をもって通れる程度の大きさになったので、高志が叫んだ。
……普段はなんだか普通にやってくるように見えるが、今回はとても必死なので、やはりいつもと違うのだろうか。
ヒビの中に飛び込んでいく三人を続いて、風香も沙耶を抱えてヒビの中を通っていった。
そしてその先には……。
「おお、いらっしゃい」
身長二百三十センチ。体重は百五十キロを超えていそうな筋肉の鎧を身にまとう爺さんが、頑丈そうな作りのリライクニングチェアに座ってゆったりしていた。
「……」
風香は『ああ、これは最初からフルスロットルか……』と残酷な表情になったが、止まってくれることはあり得ないので頑張るしかない。
未来の夫から胃薬を貰っているので問題はない。
「爺さん。久しぶりだな」
「おお、竹尾。元気そうじゃな」
「それあんたの孫の名前な。俺は高志だよ」
「……そうじゃったな。最近はボケが始まっていかんのう……」
リライクニングチェアから降りて、かなり近代的な家具が多数置かれているリビングに移動する。
すごく体が大きいのに、床が悲鳴を上げる様子がない。
やはりそこはギャグ補正なのだろうか。
「す、すごく大きい人ですね!」
椿が感激している。
まあ確かに、ここまで縦にも横にもでかい人間はそういないだろう。
「ワシは権藤重蔵じゃ。嬢ちゃんたちは初対面かの?」
「ああ、オレは諸星来夏!よろしくな!こっちは娘の沙耶だぜ」
「うー!うー!」
沙耶も元気な様子だ。
「あ、私は八代風香といいます」
「その娘の朝森椿です!よろしくお願いします!」
「ふむ……椿ちゃんは未来から来たんか?」
「おおっ!そのとおりです!なんでわかったんですか?」
「勘じゃ」
なおさらわかってたまるか。
「爺さんすげえだろ」
「そうですね。私、こんなにムキムキな人。始めてみました!」
二人もいてたまるか。
「それで、何しに来たんじゃ?」
「ギャグ補正に関していろいろ知っておいたほうがいい事情ができたんだよ」
「ん?それは神祖のことかの?」
「え、なんで知ってんだ?」
「殴り飛ばしたからの。昨日」
「殴り飛ばした!?」
「すごいです!」
全員が驚く。
一体どういう原理なのだろう。
「なんじゃったかの?確か『封印神祖』とか言っておったな。鎖を巻き付けて来たが、引きちぎってやったわい。そのまま顔面に右ストレートを叩き込んだら退散しておったぞ」
神祖を拳で捉えることができる以上、もしかしたら体術も相当優れているのかもしれない。
風香は何を言えばいいのかわからなくなってきたが。
「まあ確かに、あの手の存在は厄介じゃからなぁ」
「でも爺さんならワンパンか」
「そのとおりじゃ。ワシの筋肉は衰えておらんぞ」
「いや、昔はもっとデカかっただろ」
「!?」
風香は驚愕。
これでまだ全盛期ではない!?明らかに身長の設定がおかしいだろう。麦わら帽子をかぶった海賊少年の世界じゃあるまいし。
「まあ、とにかく、ちょっと待っていなさい。お茶とお菓子を用意するからの」
「どんなものがあるんですか?」
「ブラックコーヒーときなこ餅じゃ」
地獄のおやつか!
「あの、私が用意します」
風香がそういった。
「いや、嬢ちゃんはお客さんじゃし……」
「いいです」
「いやでも……」
「いいです」
「いや……」
「いいです」
「……わかった。嬢ちゃんに任せよう」
なんとかキッチンに行く権利をもぎ取った風香。
(はぁ、前途多難……)
はじめからわかっていたことを改めて認識する風香であった。
「そもそも、きなこ餅とブラックコーヒーの組み合わせって大丈夫なんですか?」
「ふむ、まあ……あのよくわからん感じがええんじゃよ」
何もわかってなかった。




