第七百五十二話
「プップッパー!プップッパー!」
……この子は何をしているんだろう。という視線をミーシェから向けられながら、椿は謎の儀式をやっていた。
プップッの時は胸の前で手をグーにして力を入れるようのグッグッとやって、パー!のときに両手を突き上げ、何かを解放しているような気がするが、ミーシェの目で見る限り何かが出ているわけではないので意味はない。
「……椿ちゃん。一体何をしているの?」
十分くらい椿の謎儀式を見ていたが、見ている方が飽きた。
椿は儀式をやめると、ミーシェの方を見る。
「む!なんだかこういうことを衝動的にやりたくなるようなときってありませんか?」
「ありません」
即答であった。
ミーシェは外見こそ十六歳くらいだが、実年齢は二万桁や三万桁では表せないレベルである。
子供ではないのだ。
……まあ実年齢的にという話であって、精神年齢の方は知らないが。
「そうですか?私が中学校の入学式の時に、生徒代表挨拶でやりましたよ?」
「……」
衝動的にということなので完全にアドリブだと思われるが、その時の空気はどんな感じだったのだろうか。
あと、入学式というからには秀星と風香が出席しないはずがないのでいたと思われるが、何を思ったのだろうか。
……いろいろ謎が残るものの、一つ答えを言ってしまえば、『何が起こっても何事もなかったかのように式を進行すること』と予め教師陣に伝わっているのでガンスルーして式は続いた。小学校の入学式と卒業式で何かあったのかもしれない。
「なるほど。わかった」
「おおっ!」
「椿ちゃんは馬鹿」
「なんですとおおおおお!」
何を今更。
「いい?椿ちゃん。入学式は新入生にとって記念すべき日で、厳粛に進めなければならない。わかる?」
「え?でも私がやったら同級生はみんなやってましたよ?」
「……」
なんだその地獄絵図は。と言いたそうな表情になったミーシェ。
神といえど、実質的に人である以上、周りの空気を正確に読み取ることはできる。周りを理解しなければ周りを超えることはできないのだ。
ただ……これはこれで意味がわからん。小学校一年生ならまだギリギリわかるのだが、中学校の入学式でそんな頭の悪いことが何故できるのやら……。
「椿ちゃんってすごいね」
「よく言われます」
むっふーん!と胸を張る椿。
ミーシェは半ば自分の心が諦めて来ているような気がするが、ここでそれを追求しても何も解決しない。
……そもそも何を達成すれば解決になるのかわからないが、神祖の名誉にかけてどうにかしなければ(謎)。
「ミーシェさんはなにか衝動的にやってしまうことってありますか?」
「……ペットボトルを千切りにする」
「?……それって楽しいんですか?」
椿に言われたくはない。
「これがやってみると意外と難しい。剣でやるから」
「あ、たしかに中身スカスカですからね。ペットボトルだけを斬るっていうのはたしかに難しいですね」
「そうなる」
「ということは結構ペットボトルの飲み物を買うんですか?」
「いや、一個を再利用する」
「?」
どうやって?と首を傾げる椿。
「わかりやすく言えば、戻し切り」
「繊維を全く潰さずに切ることで、合わせたときにもとに戻るあれですか?」
「そう。それ」
「……ペットボトルでできるんですか?」
「私はできる。秀星も神器を使えばできる」
「おおっ!なるほどです!」
神の力の無駄遣いだ。
「椿も頑張れば出来るようになる」
「わかりました!今度やってみます!」
元気な様子の椿。
……たまに神が原因で変なことが伝わっていたりするのだが、原因はこんなところにあったりするのだろうか。
文化というものは謎が多いものである。




