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第六百九十八話

 椿は沖野宮高校が存在する九重市(ここのえし)を散策している。


 ただ、未来では秀星の家に住んでいると思われるが、初めて訪れる場所に来たかのように目をキラキラさせている。

 ……初めて訪れる街だからといって現代人が目をキラキラさせることはほぼないと思われるが、椿なのでそのあたりはガンスルーしよう。


「おー……初めて見る建物がいっぱいありますね」


 キョロキョロしながら見渡す椿。

 そんな椿を見て、連れてきている一体のマスコット・セフィアが首を傾げる。


「あ、未来では大きな建物があるんですよ。お父さんがおっきな会社を作ったので、ええと……『企業城下町』でしたっけ?そんな感じになっているんですよ」


 その言葉に、マスコット・セフィア、そしてその音を記録するセフィアの最高端末は納得する。

 正直なところ、セフィアの端末の数は圧倒的なので、会社を作ろうと思った場合に人材という点では何も困らないため、会社を作ろうと思えばいくらでも作れるのだ。

 ……極論を言えば、『全人類が働かなくてもありとあらゆるサービスを受けられる世界』を作れるのだが、この段階では追求しても仕方のないことなのでスルー。


 そんな秀星が会社を作り、企業として一つの街に本社を置けば、それだけで街に影響が出るだろう。

 発展することが確実とは言わないが、学校周辺というエリアであっても、高層ビルが多数並ぶくらいのことは不思議ではない。


「小さな公園とかもいっぱいありますね。時々あんな感じの遊具で遊ぶこともあります」


 それを聞いて、マスコット・セフィアは遊具を見る。

 ……明らかに、遊具が小学校低学年ようなのだが、突っ込んだほうがいいのだろうか。

 相手が椿といえどちょっと迷う。


「よくマスコットのセフィアさんとシーソーで遊んでました!」


 想像してあまりにもシュールすぎる絵面だと思ったセフィア。

 というか、質量の差がどれほどあると思っているのだろうか。

 マスコット・セフィアは結構小さいので、重さは五百グラムはあっても一キロはない。

 もちろん、魔法を使えばシーソーを傾けることは造作もないのだが、やはりシュールさが抜けないのでどうしようもない。


「でも、未来ではこのあたりはダンジョンから取れたものを扱う市場になってるので、どこかの段階でなくなってるんですよね……」


 椿が言う『このあたり』がどの程度の規模なのかわからないが、市場になっているようだ。


「むむっ?あ、裏路地があるんですね!」


 あまりそういうところに入ることがないのだろうか。

 サクサク歩いていく椿。


 マスコット・セフィアは『ちょっとは警戒ってものをしてくれ』と思う。

 椿に何かがあったら秀星と風香がどうなってしまうのかわからない。


「むう……ちょっとかび臭いですね」


 誰も入らないからね。

 などと呑気にセフィア考えていると、椿が刀を抜いた。


(エ゛ッ!?)


 セフィアが驚いている間に、刀に風が纏う。


「神風刃・洗浄竜巻(せんじょうたつまき)!」


 竜巻というほどの威力はないが(当たり前だ)、風が巻き起こり、裏路地を次々と洗い流していく。

 竜巻が裏路地の奥の方に消えていくと、完全にきれいになっていた。


 なんか奥の方で、遠くから椿を見張っていたマスコット・セフィアが五体ほど宙を舞っているけど。


(なんで洗い流されてんねん)


 椿の後ろにいるマスコット・セフィアはそう思う。

 実際、きれいなものに対しては何も影響がないように思える。

 一部、地面に残ったままの部品もあるのだ。

 要するにマスコット・セフィアは汚れているということだろう。

 ただ、マスコット・セフィアは秀星が開発した『ハイパーシルク四型』と呼ばれる、品種改良を三回行った特別性の素材で作られているので、基本的に汚れがつかないはず。

 となると、汚れているのは心ということになるのだが……。


(これ以上の追求はやめよう。なんかふっとばされたマスコットが悟りを開いたように見えるけど。気にしない気にしない)


 一点だけ不思議なことがあるとすれば、裏路地の汚れを落とすために使ったのに、なんで煩悩まで吹き飛ぶのやら。

 ……まあ、マスコット・セフィアに脳みそはないけどね。


「これでキレイになりました!行きますよセフィアさん!」

(……もうお腹いっぱいです)


 元気一杯の椿の探検。

 それについていきながら、『余計なDNAをすべてそのまま引き継いでるなこの子』と嘆くセフィアであった。

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