第六百九十九話
「椿。町の探検はどうだった?」
「とても楽しかったです!」
「へえ、例えば?」
「むー……いろいろです!」
椿ちゃんは何も考えてなかった。
普段から『なんとなくです!』で生きている椿らしい返答ではある。
ちなみに、無料で入れて楽しいと明確に言えるスポットは現段階でも九重市に数多く存在するので、スマホで少し検索してみればわかることだ。
そのため、『九重市にいって何が楽しかった?』と聞かれて『いろいろ』と答えるものは意外と珍しい部類である。
「椿ちゃんってこう……なんていうか……小動物みたいでかわいいね」
風香が苦笑しながら椿の頭を撫でる。
「えへへ。よく言われますよ!」
ほめているのかほめていないのか微妙なラインだが、椿は褒められていると認識したようだ。
というより、褒められていないと認識する機能が椿にあるのかどうかはわからない。
「そういえば、明日から何かイベントがあるみたいですね!」
「典型的なバトルロイヤルみたいだけどな」
天窓学園で秀星がいろいろ導入したので、沖野宮高校の生徒たちが興味を持ち始めてソワソワしているのだ。
というわけで、生徒たちの間で何かイベントがあればいいのに、と考えているものが多いのだ。
最も、『そのイベントを利用して、ポイントチケットを大量に集めれば……』と考えているものも多いようだが。
「未来の沖野宮高校の中学校でも結構やってますよ」
「へえ、どんな感じだったんだ?」
「むー……私が優勝していました!」
でしょうね。
「やっぱり、ポイントチケットは重要なの?」
「はい!とても重要です!セフィアさんのサービスが使えるのはヤバいです!」
「色々買えるし、契約書とか作れるもんね」
「そうですね。私はオルゴールをよく買っていました」
「オルゴール?」
「ダンジョンの中ですし、『成績優秀者を倒すと大幅加点』というルールがあるので、皆寄ってくるんですが、それまでは一人ですからね。よくオルゴールを鳴らしてます!そしてそれに合わせて歌ってますよ」
歌う声の音量でかそうだな。と思う秀星と風香。
実は椿は一見わかりにくいが、自分に外傷が発生するタイプの現象に対して、危機感知能力はやたら高い。
言い換えれば罠が一切通じないのだ。
加えて、椿は『みんなに愛されて育った』ゆえに、『みんな大好き!』を地で行くおバカさんなので、基本的に人に対して警戒心がない。
無論、セフィアがいるので詐欺にはかからないのだが、それでも、警戒心が人に対しては低いのは事実だ。
そのため、『バトルロイヤルは隠れるもの』という考えが存在しない。
椿は普段から元気一杯であり、しゃべるときはいつも声が大きい。
少なからず感情を揺さぶる音楽であれば、感受性の高い椿は大声で歌うだろう。
そうなれば、椿が大声で歌うのは目に見えている。
「椿と組みたいって人はいないのか?」
「未来のお父さんから高校生になるまで駄目って言われました。こっちの時間ではいいみたいですけど」
「……?」
椿と組む際に制限を設けても、あまり意味がない気がする。
そこにどんな意味があるのかはわからないが、高校生になるまで駄目ということは、その時期になると何かが起こるということなのかもしれない。
そして、未来の秀星はそれについて多くの情報を持っており、そして何らかの答えを出しているのだ。
でなければ、秀星は『禁止』という言葉を使うとは思えない。
社会というものが、抜け道をうまく取り入れて作られていることを、秀星はよく知っている。
組むのは駄目と言われたのなら、どのように『間接的に関わるのか』を考えればいい。
今の秀星がその思考に到達するのだから、意味がないと考えているのは未来でも同じと考えていいだろう。
「秀星君。どういうことなのかな」
「わからん。まあ企んでることがいろいろあるとは思うが……」
未来から来る新たな判断材料。
ただ、本当に秀星が大きく関わっているのかどうかはわからない。
さすがの秀星も、自分が二十年後も主人公をやっているとは思っていない。




