第六百九十七話
結局、椿は秀星に遊ばれて終わった。当たり前だ。
椿の弟の星乃が言っていたことだが、今の秀星は、未来の秀星から見ても『全盛期』らしい。
そんな状態の秀星を相手に、椿が勝てるわけがないのだ。
未来の秀星仕込みでかなり強いことは認めるが、あくまでもそれは人間の範疇である。
「ねえ、秀星君」
「どうした?風香」
椿はしっかりした子なので、意外と適当に遊ばせておいても問題はない。
頼ろうと思えばしっかり頼ることができるし、一応、優秀な魔戦士として稼ぐことも可能なので、あの年で結構『自立』した精神を持っている。
結構アホっぽいが、誰に似たのだろうか。あえて言えば疑問点はそこだけである。
そのため、椿は『探検に行ってきます!』といって放課後には消えていった。
セフィアが見張っているので問題はないだろう。
「椿ちゃん。『ギャグ補正』を使ってたよね」
「そうだな」
「ライズさんが言ってたけど、ギャグ補正って、『世界のありとあらゆる常識を認識した上でネタに走る必要があるため、偏差値八十以上』って記載されてたって聞いたよ」
「ああ。まあ、俺もそんなもんだと思ってるけどな」
「椿ちゃんってそんなに賢いのかな」
風香としてはそこが気になるようだ。
さすがに椿が偏差値八十と言われても納得できないのである。
「俺もそのあたりはよくわからんが……そもそも俺自身、産まれたときからセフィアが家庭教師だった場合の学力がどうなるかがわからない」
「あ、そっか。家で勉強を教えるメンバーが最強すぎるね」
より真理を追求しようと思考実験を繰り返し、そして深いところまで理解しようとする秀星。
そしてその秀星の理論を整理し、抽出してまとめ上げるセフィア。
正直この時点で一体どうなるのかがさっぱりわからないのだ。
加えて、秀星のエリクサーブラッドは秀星自身のDNAに影響を与えるため、おそらく素質的な部分で言えば高い数値を出すと思われるが、そもそも教える立場の人間が異常すぎる。
朝森家には受け継がなければならない伝統などないし、家訓も存在しない。
何かに縛られるということはほぼないのだ。言い換えればやりたい放題である。
「あと、椿はギャグ補正が『使える』だけで、『持っている』わけではない」
「え、そうなの?」
「ああ。俺が鑑定したんだが……持っているとも持っていないとも言える微妙な状態だった。可能性としては、誰かのギャグ補正の影響によって椿が使えるってところか」
「秀星君の影響じゃないの?お父さんなんだし」
「俺が無関係とは言わないが、俺が椿の父親だからっていうのは違うだろうな。姉さんも美奈も持ってないし」
「それもそうか。姉と妹が持ってないなら、そっちは関係ないよね」
「ただ、来夏の娘である沙耶は絶対に持ってるからな」
「だよね」
時折『うー!』と主張しながら自由に動き回る沙耶を思い浮かべて納得する風香。
「まあ、なんていうか。来夏の娘だしって言われるとなんか納得する自分がいるし、無関係ではないんだろうな」
「うーん……ギャグ補正ってよくわからないスキルだね」
「だよな。正直、そのスキルを持ってるやつが数人いるだけで神祖を止められるって時点でいろいろおかしい」
ごちゃごちゃ言っている秀星だが……。
「まあ、秀星君も人に言えないと思うけどね」
「そういう困ること言わないで……俺にどうしろって言うんだ……」
秀星にだってわからないことはある。
「あと、来夏がゴリラになる前は淑女だったって話だし……ん?どうした?風香」
「いや、かなり字面がエグいなって思っただけだよ」
「確かに」
ゴリラになる前は淑女だった。
……ちょっと現実逃避したあとでゆっくりお茶を飲んで落ち着きたくなってくる。
「おもいっきりおならしたらああなったんだよな。そのときに腹の中に抱えてたガスには、ギャグ補正を止める力があるかもしれない」
「それって……敵が来夏を解剖しに来るってこと?」
「可能性としてありえなくはないが……来夏を解剖して腸を調べてください。なんて、依頼される方もいやだと思うぞ。イロイロナイミで」
「確かにイロイロナイミで嫌だね」
秀星が敵だったとしても嫌である。
「来夏の淑女姿かぁ……一体どんな感じなんだろうな」
秀星は呟いた。
もしここにセフィアがいれば『秀星様でも後ろ姿だけでは判断不可能な感じですね』と答えていただろう。
セフィアでもわからないことは多いが、一つだけ確信できることは一つある。
来夏は淑女からゴリラになる過程でいろいろと修行をしているはずなのだ。
……字面がエグい。
おそらくその修行シーンは……地上波は無理そうである。




