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第六百六十七話

 バトルロイヤルの後に何をするのか。

 聡子から説明されることになっているので、休憩時間が終わると全員が戻ってくる。


「みなさんにこれからしてもらうのは、『山登り』です」


 現在、午後四時。

 全員から『アホなんじゃねえの?』という空気が流れた。


「近くにそこそこの高さの山があるのですが、そこの頂上を目指してもらいます。今日から明日にかけて、皆さんにはその山登りの準備をしていただきたい。ということです」


 どうやら今から登るわけではないということがわかってホッとする一同。


「ちなみに、今回は協力プレイです。全ての生徒に対してノルマが存在するので、それを達成して山頂についてください。しっかり達成されたのかどうかがわかる魔法具が存在するので、誤魔化すことはできませんよ」


 そしてその趣旨もなんとなく理解した。

 だが、この時点で、秀星に視線を向けるものは一定数いる。


 それを感じ取ったのだろうか。聡子が秀星の方を見ていった。


「秀星さんは転移禁止と速度制限が設けられますので。その他もろもろ禁止事項があるので、ちゃんと確認してくださいね」

「……まあ、そうしないと俺の場合はやる意味ないからな……」

「かなりガチガチの禁止事項になるので、しっかり守ってくださいね」


 秀星は『ちょっとこいつら俺に遠慮なくなってきてるな』と思ったが、顔にも口にも出さなかった。

 指摘したところで意味がないことはもちろんのことだが、だんだん『秀星に関してはどんな禁止事項を設けても意味なさそう』と思ったからだろう。


 先ほどポイントチケットを導入した秀星だが、あの時点でボス生徒である彼にはそれ相応の制限が設けられていたのだ。部屋から出てはいけないことを含めていろいろ。


「今日の時間を使って皆さんには準備をしてもらって、明日にはその山に登ってもらいます」

「一つ質問」

「なんでしょう」


 天窓学園の生徒が手を挙げた。


「あの、作った空間の山じゃなくて、本物の山を使って訓練をするんですか?」

「その通りです。もちろん、特殊な空間に作った山を使うことのメリットが大きいことは分かっていますよ。何より管理がしやすいですからね。しかし、ダンジョンに関しても言えるのですが、これらの空間に作ったものは、全部『都合がよすぎる』んです」


 聡子の意見に納得する秀星。


「秀星さん」

「ん?」

「秀星さんはあの特殊空間に、現実と『全く同じ』山を作ることは可能ですか?」


 秀星は一瞬考えて……いや、考えるふりをして、言葉を発する。


「今の聡子の『議論』の土俵に上がるとすれば、それは無理と言っていい」

「察してもらえてありがとうございます」

「まあ言い換えれば、『体感型ゲーム』でやる山登りと『現実』でやる山登りは大きく違うってことだな。俺も、今からその山を見せてもらえば、全く同じ山を作ることができるよ。ただ、『全く同じことが起こる山』を作ることは不可能だ」

「そういうことです。皆さんにはこれから、『現実』の山に登ってもらいます。これによって感じられることはたくさんあるはずなので、ノルマをしっかりこなして頑張ってくださいね」


 聡子たちの言い分を聞いて納得する秀星たち。


 物分かりが悪い生徒もいるだろう。

 だが、納得している空気の中でその意見を通すほど、自分の中に正論があるわけではないようだった。


 ★


「んー……ラターグがこのあたりだって言ってたような……」


 一方そのころ、その山だが……。


 腐敗神祖が、その地に降り立っていた。

 現実は小説より奇なりとはよく言ったものである。

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