第六百六十八話
再び風香と喋る秀星。
「秀星君。いろいろ制限されるって言ってたけど、特にパンフレットとかもらってないよね」
「紙媒体では貰ってないな。聡子からUSBメモリを渡されたけど」
「そんなに多いの!?」
「数にしてみれば四桁くらいあった。まあ、魔法って本当に細かく分類できるから、やろうと思えばそれくらい禁止させることもできるっちゃできるんだけど、まさかここまで本気でやってくるとは思ってなかった。もちろん、『緊急事態』が発生した場合は俺の力はフル開放でいいし、緊急事態の判断そのものは俺が独断で考えていいみたいだ」
「……要するに、秀星君の倫理観はある程度信頼されてるってこと?」
「多分。というか、なんか俺の周りのやつってギャグ補正持ってる人多いけど、倫理観とかそういった部分が信用されてないわけじゃないからな」
秀星はいろいろ制限があると聞いたとき、『してほしくないこと』ではなく『してほしいこと』が書かれていると思っていた。
神器使いにとって、他の人間が考えられる程度の『ルール』など意味がないのだ。
『揚げ足取り』をするのではなく、『本当に根本からひっくり返す』ことが多いからである。
そんな人間に対して『禁止事項』など決めたとしてもあまり意味はない。
「あと似たようなものが宗一郎と基樹にも渡されると思うが……内容を見る限り、いろいろ裏がわかるんだよなぁ」
「そうなの?」
「ガチガチに固めてる割に、さっき言った『緊急事態』の部分も含めていろいろ『例外』とか『特例』とか、そういった部分がいろいろある。ただ、こういった催しものでそういった特例を認めるってことは、そうしなければ解決できないことが発生する確率があるってことだろ?」
「あ。確かに」
そして、その『特例』の条件が酷く限定的な場合だ。
その状況の発生場所は全て山の中であることを考慮すれば見えてくるものもある。
「ていうか、内容を見る限り、なんかとっても一貫してるんだよな……」
「どういうこと?」
「結論から言うと、解析能力がある神器を持った個人がこれを書いた可能性が高いってことだ。まあ別に、悪い部分は何一つないからいいけどな」
秀星は『どんだけ気合入ってんだ……』という顔をした。
「……しかし、ここにきて山登りか……」
「色々準備した方がいいっていうのは分かるし、山登りに関する情報ってスマホでいくらでも見れるけど、『それらを実際にどう使うのか』っていうのは経験だからね」
もらった資料に全ての情報が載っていたとしても、それらすべてをしっかりと『イメージする』というのは難しい。
そのため経験が必要なのだ。
秀星は一応、異世界で山登りをしっかり経験しているので、その時の経験をもとに話すことはできるが、まだアトムたちの目的が見えてこないので口を出すつもりはない。
「まあでも、今日だけ使えるポイント券みたいなものをもらったし、これを使って購買で揃えてこいってことなんだろうな」
「このシステム便利だね」
「確かに。ただ、複数人でまとまってチケットを出し合わないと無駄遣いが多い設定になってたな」
「そうなの?」
「個人用アイテムと集団用アイテムの二種類が売られていた。集団用のアイテムは確かに値段が高いが、使用最大人数で割り勘した場合はかなり得な設定って感じだな」
「要するにチームを組めってこと?」
「もとより、モンスターが出る山登りなんて一人でやるもんじゃないしな」
異世界ではよく一人で登ってたけど。という内心は胸のうちに隠しておくことにする秀星。
「チームプレイかぁ……剣の精鋭だと、ダンジョンの中では順番に戦うもんね」
「役割分担をしっかりするって普通だからな。別に連携して集まった人数以上の力を出すんじゃなくて、役割分担をして個人を補い合うのがチームだ。人間っていうのは思ってるより器用な生き物だが、賢くはないものだぞ」
そこがわかっていないと、追放ルートまっしぐらなのだ。
チームメンバーとして目の前にいる人間が、自分の何を補っているのか。
そこがわからないといずれ崩壊する。
不必要だと思うことは人間として間違っているわけではない。
だが、追い出すということは、余裕を切り捨てることと同じだ。
秀星も勘違いして後悔した記憶がある。
「チームを作って挑むことの大切さを知ることが重要だって体験してほしいってことなのかな」
「わからん。まあ、俺は俺なりに、チームの存在意義っていうか、根っこの部分はなんとなく認識してるけどな」
「それって……」
「一人の人間の限界を、その個人だけで決める必要がないって事だ。調べればいい。聞けばいい。相談すればいい。あくまでも『挑戦するチーム』であるなら、その感覚は身につけておいて損はない」
秀星何かを思い出すようにそういった。
まあそれに関しては、神器をいくつか持っていたが、『セフィア』というものをわかっていなかった昔の話だ。ここで話すようなことではない。
「アトムたちが何を考えてるのか知らないけど、まあ、多分適当にやればいいんじゃないか?アトムたちに狙いはあるだろうけど、それをいちいち、俺達が考えて動かなければならない理由もないからな」
「それもそうだね」
難しく考えるフリをすることはいくらでも出来る。
きっと答えに近いようなものが出る確率は必ずしも低くはない。
だが、それはきっと不要な労力だ。
どうせ答えが出ても、『で?』とか『それがどうした』には敵わない。
それなら、適当にやったほうが楽しいに決まっている。




