第六百六十六話
休憩時間が思ったより長い。
というわけで、天窓学園の敷地内を歩いていた。
最新式の魔法学校とはいうものの、結局は『計測器が周囲よりも多い学校』というだけの話であり、研究所のような雰囲気が出ている部分も少なくはない。
もちろん、普通に『学校』なので、それらしい建物もいろいろある。
ただ、新築の建物ばかりなので、歴史を感じる部分はない。
とはいえ、それを悪いとは思えないくらい、秀星から見てもそろっているとは思ったので、あえて文句を言おうとは思わないが。
「あ、秀星君」
生徒たちが多くいるエリアに近づいたとき、風香がいた。
手にはカフェオレ缶を握っており、まだ栓もあけられていないものだ。
「秀星君は休憩中に何をするつもりなの?」
「特に何も考えてなかったからフラフラしてるだけだ。で、ほとんど回り終わった」
「速いね」
「まあ、広くはあるが複雑ではないからな。風香は?」
「私ものんびりしてた感じかな。次に何をするのかわからないけど、バトルロイヤルは終わったからそこまで緊張感があるプログラムはないと思うし」
「だろうな」
言ってしまえば安全性はあるが規模のでかいサバゲーのようなものだ。
特有の緊張感があるのは間違いない。
「あと、よくアレを使えたもんだ」
「え、アレ?」
「『魔法次元理論』っていえば風香にはわかるだろ」
「あー。あの釘とか矢だよね。なんかすごく面白そうな理論だったから、使ってみることにしたんだ」
魔法次元理論。
言ってしまえば、『魔力』というものが現実に存在するのではなく、全く同じ座標、しかし全く異なる空間に存在するという理論だ。
魔力というものに質量がなければ魔力に対して影響を出すことはない。だが、質量がある場合、一体魔力がどこにあるのか。という疑問から生まれたもの。
常人の十億倍の魔力量を誇る秀星でも、その体重は六十五キロ。
これでは説明ができないのだ。
そのため、並列するが異なる次元に存在し、必要に応じてお互い干渉する。と考えることにしたものがいたということになる。
もちろん秀星が考えた理論ではない。
「釘や矢に、『魔力に干渉しない物質』でコーティングしておいたんだな。雷魔法を『現実で発生する雷として扱う』ように弄って釘に対して物理的な雷で干渉できるようにして、それを飛ばしたわけだ。斬撃で魔力の塊をぶつけても、当然すり抜けるに決まってる」
「そういうこと!やっぱり一発で分かっちゃうんだね」
「操作が結構面倒だったと思うんだが、よくやったもんだな」
「意外性がある方がいいのは当然だからね。ただ……秀星君はこれの使い方をいろいろ知ってそうだね」
「ああ。百年以上前のグリモアに行ったときに、その作戦を立てて町を侵略した記録を発見したことがある」
「そんなに前にいたんだ。どんな方法だったの?」
「うーん……」
秀星は『どうやって表現したものかな』と思った後、考えをまとめて言うことにした。
「『魔力に干渉しない』ってことは、言い換えればその物質と魔法がぶつかっても素通りするってことだ。で、これを利用して、干渉しない物質で石材をコーティングして、それで作った城壁を作らせたってところだ」
「……まさか」
「そう。その石材で作られた壁は、すべての魔法を素通りさせる。完全にフリーパスだ。圧倒的に良心的な価格でこれを大量に売りまくった結果、城壁がすべてこれで作られた国もあったくらいだぞ」
「……どうなったの?」
「もちろん滅んだ」
魔法に対してフリーパスということは、言い換えればエンチャントを掛けることもできない。
出入り口を適当にぶっ壊して壁の外から魔法弾幕で襲撃すれば、それだけで一階部分を襲撃できる。
さらに言えば、正確な図面さえ手に入れることができれば、玉座の場所や国王の寝室のベッドの位置も必然的にわかるので、絨毯や調度品に邪魔されない位置を陣取って遠距離魔法で狙えば、暗殺も楽である。
「それだけ強力なんだ。ちなみに、魔力を固めて鎧を作る技術があるんだが、『魔法次元理論』を利用して作った剣とか刀でこの鎧を斬る場合も素通りして肉を裂ける。ただ、魔力を体内に流し込んで強化する場合、肉体そのものの密度が強化するから、剣や刀は通りにくいんだ。グリモアの武術に『鎧』か『増幅』なら、『増幅』を優先して鍛えろって言われるんだが、その理由がここから来てる事を知るやつはあまりいないだろうな」
「……思ったよりすごい技術なんだね」
「使い方に気をつけろよ」
「うん」
未来の夫婦の会話ってこれでいいのだろうか。
という質問がこの場で発生したとしよう。
セフィアは『んなわけねえだろ』というに決まっている。
距離が近くなった気がしなくもない秀星と風香。
ただし、二人ともまだ『魔戦士』なのである。




