第六百二十八話
神祖、という言葉を聞いた秀星は一度黙った。
とはいえ、話を先に進めないとどうにもならない。
一応、部屋から出て、そして応える。
「ああ、知ってる。会ったこともある」
秀星は素直にそういった。
電話の向こうで基樹が苦笑したようだ。
「やっぱり知ってるのか」
「ああ。概念の一番最初の到達者だ。全てが人間から神に至ったって把握してるぞ」
あらゆる名詞に対して、神は存在すると言っていい。
そして、その神の中でも最初にその称号を手に入れた上で、とある条件を満たした存在だ。
その条件は、秀星にはわからないし、おそらく神祖本人にもわからないと秀星は考えているが、それは今はおいておこう。
「で、神祖がどうしたって?」
「かつて、この世界を荒らし回ったやつの封印が解けそうって話だ」
「原因は?」
「まあ、間接的には神聖国なんだが……秀星。なんで膨大な魔力が通る脈なんてものが存在するか知ってるか?」
「いろいろパターンはあるが……あ」
いろいろなパターンの中で、秀星はどれに該当するのかがわかったようだ。
「惑星魔法か」
「ああ、秀星。このグリモアにある魔力の脈、全部見えるか?」
「ちょっと待て」
秀星は目を閉じた。
そして、グリモアに張り巡らされた脈を全て感知する。
「……封印魔法だな」
「そんなに速くわかるのか」
「ああ、で、基樹、いろいろ調べてるだろ。なら、脈の状況がどうなってるのか知ってるよな」
「もちろん」
基樹が即答してきた。
秀星は内心で溜息を吐いた。
言ってしまえば、偶然が悪い感じにかっちりハマったと言うところだろう。
順に説明しよう。
魔法というものは、魔力を仲介するシステムが構築された魔法をつかうことで、離れた位置にいる魔法陣を統合し、一つの魔法として生み出すことができる。
魔力の脈というものは、流れ続けることで魔法陣を描いている。
これにより、『惑星規模に張り巡らされた脈により描かれる巨大な魔法陣』が完成する。
これが惑星魔法である。
基本的に脈の中で同じところをぐるぐる回っているわけだが、魔力は他の脈に移動することはないし、脈の大きさに合わせて魔力の量も異なるようにできている。
『根幹の脈』と『微調整の脈』が存在し、当然、微調整の脈は魔力量は他と比べて少なめ。
ただし、『根幹の脈だけでは封印しきれないから、付与や制御を行う微調整が必要』なので、微調整だからといってなめてはいけない。
「細かいところの魔力が吸われ続けてるのか」
「ああ、神聖国の真下には、微調整を行う脈が流れてる。それが、神聖国の魔力組み上げ装置によって、調整が発揮されないレベルまで魔力が抜かれてる」
「あの組み上げ装置。やたら稼働時間が長かったのはそういうことか」
一体いつから使われているんだ。と突っ込みたくなるほど、装置の可動時間は長かった。
微調整のための小さな脈とはいえ、それが機能しなくなくレベルで吸い続けたら繁栄だってするだろう。
「まあ、神聖国って、昔と場所が違うって話もあるけど……それは今はおいておくか。で、秀星の魔力で、微調整の魔力を補えるか?」
要するに『脈まで行って補充できるか?』ということである。
基樹も魔力量は多いほうだが、全然足りないのだ。
そのため、秀星ならどうか、ということなのだろう。
「あー……多分、量は大丈夫なんだけど、質がそのまま使うとダメだ」
「どういうことだ?」
「結論から先に言おう」
秀星は基樹からの疑問をとりあえずぶった斬る。
そして、自分が出した結論から言うことにした。
「魔力の質を組み替えるのクソみたいに時間が掛かるから、神祖が出たら抑えててくれない?」
「……」
電話の向こうで基樹がくっそ嫌そうな顔をしているのがわかった。
「なあ秀星」
「どうした?」
「椿と星乃に、未来ではどうなっているのか聞いてくれないか?」
「……まあ、こればっかりはちょっと聞いておくか」
未来ではどのような結論を出したのだろうか。
ただ一つ考えがよぎるのは、『高志と来夏を好きにさせておけばよかった』という言葉は、神聖国をどうにかするのではなく、この神祖をどうにかするときに、未来の秀星が思ったことなのではないか。ということだった。
ギャグでどうにかなるなら苦労はしないが、可能性はありそうである。




