第六百二十七話
「フフフ、国王と教皇の賠償金でガッポリ儲けましたし、この程度で止めておきましょうか」
「悪い女だなぁ」
とてもいい笑顔のヴィーリアに対して、自分のことを棚に上げる来夏。
煎餅をバリバリと食べている来夏に言われた程度でヴィーリアは気にしない。
「賠償金ってそんなに取れるんですか?」
同じく煎餅をバリバリと食べている椿。
秀星は頷く。
「ああ。国を乗っとるだとか、革命だっていうのなら処刑って道もあるけど、そうでないのならふんだくった上で返還だ」
日本の武士の場合、『捕虜になるくらいなら腹を切る』と言い出すものだが、中世のヨーロッパなどではそのようなことはない。
騎士たちが捕虜になることもあるが、国に戻るための賠償金が騎士たちの価値になる。とも言われているほどだ。
そうして帰ってきてまた仕える。ということもある。
「わかりました」
「それにしても、戦争がこんな簡単に終わるだなんてね……」
「まあ、怪我人が一人もいないんだから問題ないだろ」
戦争をして、敵国のトップとナンバーツーを捕獲したのに、怪我人が出ることなく終わった。
いや、実はゼロではなかったのだが、秀星が完全回復魔法を使ったのでノーカンである。
普通に考えて、戦争をしてこの結果はありえないだろう。
ただ、それが実現してしまうのが神器という力である。
グリモアは神器の数がとても少ないため、秀星のように『神器を十個使える』などというチートに遭遇するとどうしようもないのだ。
……そもそも、神器は『神器ダンジョン』でしか手に入らず、神器の条件によってはクリアした本人であっても使用不可という鬼畜仕様のため、アイテムマスターというOESを持つ秀星は紛れもなく反則なのだが、それをここで突っ込んでも解決しないので放置する。
「そういえば秀星君。魔力の生成装置って、いったいどういう構造になってたの?」
風香が秀星に聞いている。
実際気になったのだろう。
地球ではその装置の研究が進められているほどで、まだ達成されていない。
魔力を保存する装置の開発はされていないようだが、その代わり、魔力を生成することができるというのであれば、その技術の価値は圧倒的だ。
「あー……それな。多分地球じゃできない」
「え?」
秀星の答えに驚いたのは、風香だけではない。
その場にいた来夏、高志、椿、星乃、ヴィーリアも同様である。
「大雑把に説明すると、地下に存在する魔力が通ってる脈みたいなものがあって、それをくみ上げてただけなんだよ」
「くみ上げていただけ?」
「ああ。まれに、そういった魔力だけが流れてる空間っていうのが存在するんだ。それをくみ上げて使ってただけだったよ」
「ふーん……でも、魔力を生み出す装置があるから、その分のリソースがほかに分配されなくて、才能がある人が生まれないんだよね。施設に独占されていてもリソースが分配されなくなるの?」
『人』の間で分配されるリソースと、『施設』の間で分配されるリソースは別だ。という考えである。
もちろんそれはそうなのだが……。
「そうなるときもある。で、地球じゃできない理由だけど、そもそも地球にはそういった脈が薄いものしかないんだよ」
「え、ないの?」
「ああ」
秀星は迷うことなくうなずく。
「これは、昔から神器を持ったものが地球で台頭してきたことで、大地じゃなくて人にリソースが割り当てられるようになったんだ。だから、地球では大地に魔力は宿らない」
あえて秀星は、『大地には』といったが、『施設』とは言わない。
日本には、『神器を所有している施設』が存在するからだ。
当然、その施設は膨大な魔力を抱えている。
「まあそう大きい話じゃない。神聖国が持っていた施設を壊したことで、リソースの再分配が発生するから、多分十年くらいすればちゃんとしたデータになるだろ」
「ふーん……」
全員があまりわかっていないように感じるが、秀星としても構造を説明するのは少々骨が折れる。
「とりあえず、もう問題はないんですね!」
「ああ。そうだ」
椿に対してうなずく秀星だが、その表情は一瞬だけ曇った。
椿と星乃はわかっていないようだが、他全員は気が付いた。
ただし、ここで追及するのはやめておくことにしたようだ。
「……ん?」
秀星のスマホから着信音が鳴った。
見ると、相手は基樹だった。
魔族領に行っていたはずだが、何かあったのだろうか。
「どうした?基樹」
「秀星。神聖国はどうなった?」
「とりあえず、魔力のくみ上げ装置と雷属性砲台は壊したぞ」
「なるほどな……」
「何かあったのか?」
「まあ、何かが起こるであろう痕跡は見つけたってところだ」
基樹の声は真剣だ。
本当に何か大きなものを見つけたらしい。
「秀星。『神祖』って知ってるか?」
「……」
基樹の口からでたその言葉に対して、秀星は一度、沈黙を選んだ。




