第五百九十二話
どうやら待つことができないらしい。
誰がという話だが、もちろんこのユイカミという国の貴族たちだ。
「秀星さん。どうやら向こうは準備がばっちりのようです」
ヴィーリアからそういわれた秀星。
……まだ異世界に来て二日目だというのに、それほどユイカミが持っている技術が欲しいという心が透けて見える。
「どんなふうに?」
「録画用の魔法具を多数用意し、新聞社などもしっかりと揃えているようですね。とにかく情報の発信速度を重視しているのか、自分たちとあまり規模の変わらないうえに同盟も組んでいないような人たちをたくさん集めているそうです」
「ほうほう。自信に満ちているのがよくわかりますなぁ」
「しかも脅してきましたよ」
「ん?」
「もしも秀星さんが負けたら、という部分ですよ。強欲の化身かと思うほど要求を積み上げてきています。全て即座に頷きました」
「それでいいのさ。調子に乗ってる連中から血の気を引っこ抜いてやるぜ」
とてもいい笑顔の秀星。
「で、登場シーンとかも演出加えた方がいいかな」
「もちろんです。やり方はお任せしますよ」
「フッフッフ。本物の理不尽ってやつを教えてやるぜ。ちょっと父さんと来夏と一緒に演出考えてくる」
「わかりました。それでは、二時間後に騎士団長との決闘が始まりますから、九十分後に会いましょう」
「おう!」
で、いろいろすっ飛ばして二時間後。
大々的に国民に知らしめたい。という魂胆がよく見えるイベント設計になっていた。
ヴィーリアにとっても、貴族たちにとっても。
ユイカミにはコロシアムが存在する。
娯楽の少ない異世界らしく、立派に作られているものだが、基本的に剣闘士が戦ったり、モンスターを地下で飼っていたりとかなり本格的らしい。
一応国が保有している体裁をとっているため、その利用料金もしっかり国の収入になるようだ。
ヴィーリアが現在は演説中である。
ユイカミという国が探していた秀星を発見したため、盛大にそれを発表しているようだ。
秀星にとって迷惑になるのでは?という感情はヴィーリアにはないらしい。
掛け金を上げたのは秀星のほうであり、そもそも秀星に本当の意味で迷惑をかけられる人間は限られているのだ。
建国して三年。
秀星を発見したことにより、この国は更なる発展を遂げるだろう。
だが、秀星を信用しない者もいるだろう。ならば、この国で最強と言われる騎士団長と戦い、その力を示す。
……みたいなことを長々と話しているわけだ。
そしてそのころの秀星だが、セフィアに『ヴィーリアの演説が終わったら起こして』と頼んで爆睡していた。
秀星にとっては、ヴィーリアの建前などどうでもいいのだ。
ヴィーリアにとっても、所詮建前なのでどうでもいいのだ。
そのため、演説が終わるまでは舞台裏でお昼寝である。
「秀星様。演説が終わりましたよ」
「zzz……ん?もう終わったの?」
「はい。というより、観客にとってもヴィーリア様の演説は興味ないので」
「素晴らしい。というわけで行ってきますか」
秀星もしっかり再起動したので、とりあえず決闘開始である。
★
「それでは、戦う二人の簡単な説明から始めましょう。まずは、このユイカミが誇る騎士団長、ワイゼル・ハーヴェスター!」
そういうと、舞台裏から青い光沢を放つ金髪という若干意味不明な髪質をした二十歳くらいのイケメンが入ってきた。
騎士団長の名に恥じない甲冑だが、その美しい顔を見せるために冑はない。
腰には長剣を吊っており、業物であることがわかる。
「元はSランク冒険者であり、現在ではこのユイカミを守る騎士団の長。この国では伝説とされる人物を測るならば、この国で最強の男であるワイゼルしかおりません」
すごく今更なことを言おう。
ヴィーリア。正直ワイゼルの興味がないのか不明だが、若干棒読みである。
「そして、出てきてもらいましょう。ユイカミの神髄にして原点。朝森秀星様!」
ヴィーリアがそう紹介したが、一瞬、シーン……と静寂が広がった。
全員の視線が出場口に向けられたが、そこからは誰も出てこない。
ざわついてきた観客席。
そしてニヤニヤし始めた貴賓席。
「おやおや、ヴィーリア様。どうやら彼は逃げてしまったようですな」
貴賓席のそばでは、ヴィーリアが拡声用の魔法具で話しているため、その声を拾って、音が拡散する。
その声を聴いた観客たちは落胆した。
が……。
「いえいえ、そのようなことはありませんよ。秀星様はこの国の王族にとって偉大なお方ですから、あのような出入り口では狭すぎる。というだけの話です」
「どういうことですかな?」
「フフフ。全員、上をご覧ください」
ヴィーリアにそう言われて、全員が上を見ると……。
そこでは、コロシアムめがけて隕石が圧倒的なスピードで落下してきていた。
一同驚愕。
普通に目視できるレベルでそこにあった隕石から逃げるすべなどない。
しかも、その大きさは圧倒的で、直径十メートルはある。
こんなコロシアムに直撃すれば、簡単に破壊されてしまう。
……という予想とは裏腹に、隕石はコロシアムのステージ、それも、ワイゼルと相対するような位置に落下する。
圧倒的な爆風を生み出して落下した隕石は、数秒後、内部からマグマがあふれてくる。
「!?」
そして、隕石そのものが内部のマグマに焼き尽くされるように、ドロドロになっていった。
「い、一体なんだ?」
誰かがそう言った瞬間、隕石はマグマによって完全にドロドロになり、そして『噴火』する。
圧倒的なほどの圧力と存在感。
目前で発生した噴火で空は曇りはじめ、空気もどんよりし始めた。
そして、そんな噴火した地点から、光が漏れ始める。
閃光となって爆発し、マグマも、噴火した煙も、すべて吹き飛ばした。
「ま、単なる演出だ。オードブルでお腹一杯になっても仕方ねえし、こんなもんで十分だろ」
晴れた場所には、キラキラとした魔力が降り注ぎ、そこで、いい笑顔を浮かべた秀星が立っていた。
「な……なんだ、いまのは……」
「で、アンタが騎士団長だな。まあ安心しろよ。さっきのは全部、単なる『幻惑魔法』だからな」
「さっきのが……幻惑?」
「その通り。大体、幻惑魔法はだますためにみんな使ってると思うけど、演出特化に調節すると結構派手だろ?周りの反応を見ると楽しいぜ」
地味な印象がある幻惑魔法だが、それを派手にやれば、地面は割れて、天は裂けて、海は荒れる。
実際にはそのようなことがない。
だが、『災害』というのは魔法に関係なく実在するものだ。
だからこそ、幻惑魔法で演出を行うときは、より『災害』に近づけることでその迫力が増す。
何事も全力にやったほうが楽しい。
「さて、そんじゃ戦おうか。どこからでもかかって来いよ」
「舐めるなよ」
ワイゼルが剣を抜き放つ。
青い刀身が輝くきれいな長剣だ。
構えは無駄のないもので、才能があり、努力してきたのはわかる。
わかるのだが……。
「……構えないのか?」
一向に武器を構える様子がない秀星。
「お前相手にそんなものいらないよ」
「なら、好きなタイミングで攻めさせてもらうぞ」
「ご自由に」
秀星がそう言うと、ワイゼルが上段に構えて剣を振り下ろす。
そのまま飛ぶ斬撃となって秀星のところまで飛んでくる。
「脆い」
秀星は飛んでくる斬撃に手刀を叩き込んで破壊する。
「なるほど、ならば……」
いくらやっても無駄だと一撃で判断したのか、ワイゼルは即座に突撃してくる。
「ふーん……」
秀星は、ワイゼルの主義、主張に興味はない。
ただ、その速度にはある程度の評価はする。
それは、秀星の正面に達した速度ではなく、正面にはなってきた幻惑に注意を向けさせ、横に回り込んでくる速度に対してである。
裏拳をワイゼルに叩き込んだ。
だが、ワイゼルは攻撃を中断して剣で裏拳を防御した。
そのまま吹っ飛んでいくが、空中で体勢を立て直して着地、即座に剣を構えた。
「……器用だなお前」
「まさか、見破られるとは思っていなかった」
「うまかったけど付け焼き刃だな。成長速度を考えると特訓は二か月ってところか?」
「そこまでわかるとはな」
ワイゼルは獰猛な笑みを浮かべた。
正直、おとなしい優男だと思っていたが、熱い男のようである。
「ま、そろそろちゃんと剣を構えてやるか」
秀星はプレシャスを引っ張り出して構えた。
神器であることが分かったのかどうかはともかく、ワイゼルの表情が変わる。
「行くぞ」
「遊んでやるよ」
次の瞬間、二人とも超速スピードで動き始めた。
もちろん、目で追うのは遠くからならなんとなくわかるだろう。
正直、体の位置が大きく変わるということはない。
だが、剣の速度が尋常ではない。
「ほっほー!思ったより頑張るじゃないか」
「……」
ワイゼルは何も言わないが、眉間に青筋が立っている。
安い煽りだ。
ただ、ワイゼルとしてはまじめに戦わないとどうにもならないのにそういうことをされると地味に腹が立つ。
「チッ……」
いったん距離をとったワイゼル。
すると、彼が持っている剣が光りだした。
青い刀身に紋章が浮かび上がる。
そして、それを見た秀星は、この戦いになって初めて、驚いたような顔をした。
「……なあ、その剣、どこで手に入れた?」
「とある遺跡ダンジョンの奥深くだ」
「なるほど」
秀星はうなずいた。
「その剣を持っているお前が騎士団長か。騎士団は貴族に運用権限があるだけで、俺のファンは多そうだな」
秀星はそうつぶやくと、プレシャスを構えなおした。
そして、剣が光り輝く。
それを見たワイゼルは、剣を上段に構えた。
「すぅぅ……『グラウンド・ゼロ』!」
ワイゼルは上段に構えた剣に魔力を集中させると、それを引き絞るように構えて突きを放つ。
飛ぶ斬撃となって、秀星のほうに向かって一直線に飛ぶ。
「ほー……なるほどね」
秀星はその技を使えることに対して興味深そうにうなずいた後、プレシャスを振った。
すると、ワイゼルが放った突きは真反対に跳ね返り、ワイゼルのほうに向かって飛んだ。
「な……は、跳ね返して……」
ワイゼルは『跳ね返せる技術』ではなく、『跳ね返すという選択』に対して驚いたような顔になった後、技の衝撃が直撃した。
衝撃に耐えられずに飛んで行って、壁に激突。
煙が晴れると、完全に気絶していた。
「……面白いやつがいるもんだな」
秀星は満足そうにうなずいた。
どうやら、ワイゼルが使っている剣。そして使った技に思い入れがあるようだ。
それが何なのかは、すぐに語ることになるだろうが、まだ語らないことにしたようである。




