第五百九十一話
「秀星君。城の中ですごくない噂があるんだけど」
「ふーん……ってクソつまらんな。なんだ『すごくない噂』って……」
秀星たちが城に到着した次の日の朝。
料理、風呂、寝間着、そしてゲストルームの全てが、『地球の日本人でも大丈夫な文明レベル』になっていたことに驚きながらも過ごした剣の精鋭一行である。
風香に言われて『どういうこと?』となった秀星。
ロビーでしゃべっているが、ふと思い出したように風香が話し始めたのだ。
「この国の騎士団長と秀星君が戦うって話だよ」
「騎士団長?」
正直……情報を全然集めていないのだ。
アルテマセンスの影響で聴力が強化されているので全く入ってこないわけではないのだが、真面目に聞かない場合はかなり機能を落とせる。
「あ、ここにいたんですね」
アルトが走ってきた。
「なあアルト。なんか騎士団長と俺が戦うって話があるみたいなんだが……」
「あ、その話をしようと思っていました」
「なるほど、で、その騎士団長ってどんな奴なんだ?」
「元々、他国から入ってきた貴族お抱えの冒険者です。最高ランクのSランクで、ドラゴンを一刀両断したことがあるって言ってました」
「普通だろ」
「そうですね。僕もできますし……」
話を掘り下げる前から株が下がる騎士団長……。
相手が悪すぎて不憫である。
「このユイカミという国は帝国と王国の境目にありますが、確か、その人は帝国から来ていたと思います。まだ若い人で……秀星さんよりも三つほど年上という感じでしょうか」
「二十歳くらいか」
「それくらいの人ですね」
「騎士団長ってもっと上のイメージがあるけど、この国はそうじゃないんだね」
「まあ、あまり意味はありませんからね」
「どういうこと?」
「王族の親衛隊に配属されない限り、この国では社会的な権力は強くない構造になっているからです」
「……ある意味、権力が一極集中しているわけか」
「その通りです」
権力の一極集中のメリットとデメリットを考慮しているのは何となく女王を見ればわかったが、アルトの場合はどうなのかまだ計り切れないというのが秀星の感想である。
実際にシルバーズ・ライトに乗って異世界に行くほどなので、現場の人間として優秀なのは分かるが、あまり政治慣れしているようには思えない。
「ふーむ……で、どうにかして王族……サーレイ家を陥れようと頑張ってるわけか」
「あの船の建造にはかなりの予算を使っていますからね。増税までやりましたから。強硬気味に」
「なるほど、それなら俺はちゃんと証明しないとな」
秀星は黒い笑みを浮かべた。
「ハハハ……それはそれとして、いろんなところから貴族が送られてきてるって話だけど、この国ってそういう人たちが必要なくらい人手不足なの?」
「そうですね。まず、この国は建国されてからまだ三年しかたっていません。ですが、革新的な技術を持った集団である冒険者のチームが作り上げた国として、その技術がもたらす利益に多くの人間が集まってきて……そして、抱えることができてしまった国なのです。その結果、予算に大きな見直しが必要です。ただ、この国の予算の多くは、秀星さんが過去に開発したものを研究し、解明することに多く使われています。結果として、技術の進歩が部分的になっています」
秀星は頷いた。
一つ補足すれば、『革新的な技術を持った集団である冒険者のチーム』というのは、おそらく、という必要もなくヴィーリアをリーダーとするチームのことだろう。
そして建国された結果、ユイカミの女王がヴィーリアとなったわけだ。
「なるほどな……その穴を埋めるために、ノウハウを持ってるやつを引き入れるしかなかったってことか」
「そ、そんなにすごいことになったの?」
「なったんだろうな。で、国を運営するとなれば、安全保障……食料、医療、防災、防衛、治安維持……ほかにもいっぱいあるけどとりあえずこれらかな?それらの予算って膨れ上がるもんな」
「はい。まあ、予算配分的に仕方のない部分もありますが、基本的に、貴族が持っているノウハウを使わないと回っていません。それが現状ですね」
部分的な発達というものは、仮にそれが成功しても認められるかどうかは分からない。
「なんていうか……複雑だから全部やらないといけないけど、部分的にしか解明できていないから周りから人を入れてるんだね」
「理想としては貴族を全員追い出したいですね。というより、そもそも研究を優先したいんですけど、建国以外に外部権力からの圧力を回避する方法がなかったからこうなって、結果的に人が多くなって予定が狂いましたからね。さっさと追い出したいっていうのが僕らの考えです」
「なるほど……で、うまくいけば必要な情報を俺から引っこ抜きたいわけか」
「そうなります」
なんの悪気もなく、まっすぐ秀星の方を見て頷く部分は評価する秀星。
「まあ、俺を調べた結果どうなってるのかっていうのは気になるし、まあ協力は盛大にしてやるさ」
「秀星君。本音は?」
「多分調子に乗ってドエライことになるからその迷惑料で協力するって感じだな」
秀星と風香とアルトは苦笑した。
秀星は『弱い者いじめ賛成派』である。
もちろん、殴る、蹴る、という趣向ではない。
具体的には、『弱い者いじめをしている強者(笑)に屈辱を与えること』が好きなのだ。
で、歯止めが利かなくなることがあるのだ。
暗殺者で遊んでいたのも同様である。
ただ……さすがにそういう内心まで暴露するほど、秀星は無神経ではない。




