第五百九十話
秀星たちが乗ってきた船は数多くの関所を通っている。
でかくて空を飛ぶものだったので相当に目立つのだが、そもそも出発するときにも一度飛んで行っているわけで、それを見た国民が混乱するわけではない。
ただ、『船が帰ってきた』という情報は国中に流れる。
それに反応したのは、もちろん貴族たちだ。
ヴィーリアが言う通り他国と裏でつながっていたりするわけだが、彼らは『どうせ失敗するのだから、それを材料に責めて失脚させればいい』と考えていた。
あまりにもヴィーリアとアルトを目の敵にしているようだが、これにも一応理由はある。
まず、この国の貴族だが、もともとは他国の上流階級だったものが多い。
他国の貴族が別の国の貴族になって大丈夫なのかという話だが、大丈夫なシステムを作ってしまったから大丈夫なのだ。それだけである。
他国としても、ユイカミが持つ突出した技術は欲しいので、自国からスパイを入れることができるのなら、ということで人が入ってきている。
……裏の裏の話までしても仕方がないので、とりあえず、裏で表面的に起こっていることを説明しよう。
「さて、諸君に集まってもらったのは、無論、シルバーズ・ライトが帰還したことに対して議論するためだ」
地下で薄暗い円卓に座っているのは、五人の中年男性。
「フン!あの小娘が探していたやつが見つかったとでも?その名を語ることで取り入ろうとする詐欺師ではないのか?」
「そうに決まっている。そもそも、このグリモアでも探しているときに、その名をかたる詐欺師は多くあらわれた。今回もそうに決まっている」
決めつけている様子の二人。
「資料を読め。すでに、あの小娘は、その人物を発見したものとして話を進めているぞ」
「何?」
決めつけていた様子の二人が資料を読み始める。
……配られた資料を見ることもなく会議に出席するとは神経が太い。
「ふむ、確かにそうなっているようだが……関係ないだろう」
「ええ、そうですね。我々の試算では、騎士団長よりも弱いという試算が出ています」
「ああ。あの理解不能な威力でドラゴンを一刀両断したとかいう男だな」
「はい。我々の領地から引っ張ってきた元Sランクの冒険者です。力の証明だとか言って戦わせて、事故を装って始末すればいい。いや、暗殺者を押し付けてもいいか」
「そうですね。暗殺ギルドに話をつけておきましょう」
「あの小娘どもを何度襲っても返り討ちになる雑魚どもだが、まあ、詐欺師を殺す程度のことはできるだろう。どのみち、そのやってきた小僧を殺せば、あの小娘の権威は失落する。あの船の建造のために増税までしたのだからな」
「フフフ。笑いが止まりませんな」
というわけで、楽観的な様子。
もしここに剣の精鋭の……いや、地球人の誰かがいたら、おそらくこう言っているだろう。
『もうしらん。勝手にやってろ』
★
そして秀星だが。
「父さん」
「なんだ?」
「暗殺者が来てくれたんだ!」
「うれしそうだなお前」
「だって地球だと全然来てくれないんだもん。まあ、稀に来るんだけどセフィアが全部片づけちゃうんだよね」
「いいことじゃないか」
「それだとつまらないんだよ」
結局ジェンガで遊ぶ秀星と高志。
今時、親子でジェンガで遊ぶような奴がいるのかどうか不明だが、本当にやっている人がいたら失礼なのでこれ以上の追及はしない。
「しっかし、暗殺者ねぇ。こんなに早く出てくるもんなのか?」
「さあ?まあ貴族だし、いろいろな人材を抱えてるだろ。そう考えれば暗殺者が来ることそのものは別に何の疑問はない。来た奴は下っ端だったしな」
「へえ」
「なので遊んでました」
「何やったんだ?」
「あいつら通信用の魔道具持ってたんだよ」
「あ、そういうのあるんだな」
「ヴィーリアに確認したら、他国では開発自体はできても一般的な普及には至っていないが、ユイカミではある程度量を作れるらしい」
「なるほどな」
「で、その魔道具で通信するみたいだったから……こっちから電話かけました」
「いつもの手段か」
「まあそんな感じだな」
通信用の魔道具を持っていたので、地球にいたときに着た暗殺者のように『こっちから電話をかけてあげる作戦』だ。
「セフィアにその時の驚いた様子の写真を、ちゃんとフラッシュを焚いて撮ってもらったんだ」
「気が付かれていること前提か」
「ああ。実際に写真見たら面白かったよ。これだ」
秀星が取り出した写真には、この国の一般人としては普通の格好をしている男が、限界まで無表情になっているような顔が映っていた。
「アッハッハ!こりゃひでえ!」
「いやぁ。もうね。実力全然足りてないのに挑んでくるもんだから、『もうこれは遊ぶしかないじゃない!』って感じでな。実際に遊んだらクッソおもろいんだよこれが」
「他には来たのか?」
「ああ、窓から入ってきたこともあったな。俺が寝てるふりをしてた時だった」
「どうなったんだ?」
「窓の近くの床に作っていた落とし穴に落ちていった」
「ハッハッハ!動画ある?」
「ああ、これ」
秀星が取り出したカメラには、暗殺者が部屋の中をチラチラと伺って、一瞬頷いて、窓から入ってきて、そのまま落ちていく映像が映っていた。
「傑作!」
「だろ!もう楽しいのなんのって」
「他には?」
「ああ。幻惑魔法を使ってベッドの上に俺の体に見えるように置いたんだよ」
「ほうほう」
「で、暗殺者が入ってきて……『悪く思うなよ』っていうちょっと痛いセリフを吐いた後、ナイフで首の後ろ当たりを刺そうとしたんだ」
「ほうほう」
「で、俺はその瞬間、そいつのすぐ横で思いっきりシンバルを盛大にならしてやった!」
「ハッハッハ!!うおっ!ジェンガが崩れた!」
「父さんの負けな」
「だな。で、そのシンバルを鳴らされた奴は?」
「その時の顔」
写真には、満面の笑みでシンバルを鳴らす秀星と、それに驚いて飛び上がって驚愕の表情を浮かべている男が映っていた。
当然だが写真を撮ったのはセフィアである。
「ブフッ!」
「な、これは笑った」
「こんなことばかりやってたのか。俺の方にも来ないかなぁ……」
暗殺者が来ることを望む親子。
正直、正気の沙汰ではないが、そもそも正気ではないのでセーフである。
「異世界って面白いんだな。調子に乗ったらしっかりと暗殺者が来てくれる。退屈しないで済みそうだから天国だぜ」
「お前はこういう世界で五年間いたもんな」
「ああ。次は何が来るんだろうなぁ」
今から楽しみにしている秀星と高志。
屑である。




