第五百九十三話
ワイゼルが秀星に敗北したことは広まった。
ただよく考えてみれば、『ワイゼルに勝てる実力だからと言って、別に秀星が百年以上前に存在していたユイカミである』という証拠など皆無である。
そもそも人間の寿命は、中世であれば二十代から三十代あたりである。
四十代を超えたら老人の仲間入り。
魔法の技術が多少なりとも発展しているのでそこまで極端な数字ではないが……。
城の中に図書館があったので本を探しまくって結局見つからなかったのでセフィアに聞いてみたところ、『平均寿命は五十代後半ですね』とのこと。
前記した例と比べれば長いので、健康に対する研究というものが進んだのだろうか。
そもそも秀星自身、『遺伝的ではなく外的要因として寿命を定める項目をすべて述べよ』と言われて答えることはできないので突っ込んでも答えは出ない。
という状態なので『百年以上前の人間が、どうしてこんな若造なんだ?』と思われても仕方がないだろう。
ヴィーリアのそのあたりの部分を追及したところ……。
『エルフなどをはじめとする『若いころの姿を長年保てる長寿種族』の存在があるので、実はごり押しで納得させることはできます』
だそうだ。
さすが異世界。と言っておこう。
追加で言えば、『こんなこともあろうかと、『優れた魔法技術を持っているものは、完全ではなくとも、不老を達成している』という情報を昔から流していました』というヴィーリアの説明により、外見が十七歳のクソガキでも秀星だと納得してもらえるようだ。
ただ。幻惑魔法を盛大に使いすぎたので、『今見えている姿は本当の姿ではないのでは?』という意見もあるそうだが、極少数らしい。
ほとんどの人は視野が狭いのでそこまで考えが至らないようだ。
ナチュラルに国民をディスっている気がするのは気のせいではあるまい。
「さて、結果的に、秀星さんの存在をうまく信じ込ませることができました」
「国民の意識ってそう簡単に操作できるものなのか?」
「メディアと御用学者を抱えてますからね」
「……」
それくらいのことができなければ政治などできない。ということなのだろうか。
現実は影の方が大きいものである。
「しかし、ワイゼルがあの剣を持っているとはな……」
「彼の剣に見覚えが?」
「ああ……ワイゼルがあの剣を手放すとなれば、この国の宝物庫に置かれていても不思議じゃないものだよ」
「ほう……なるほど」
要するに『過去に秀星がその剣と大きくかかわっていた』ということだ。
「知っていれば理由をつけて没収していたところですが、今は秀星さん本人がいますからね。それはやめておきましょうか」
「……」
「何か?」
「いや、ヴィーリアが特殊なのか今の時代はそうなのか知らないが、百年前は似たような話をするとき、『没収』じゃなくて『回収』って言葉を使う奴ばかりだったからな」
「なるほど、私が特殊なだけですね」
「あっそ……」
世の中は変わらない。
「さて、根本的な部分に秀星さんがかかわれるようになったところで、早速研究に参加していただけると……」
「ん?ああ、いいよ。技術の千や二千、別に教えたって問題はないし」
「本当に様々なことを知っているのですね……」
「まあな。ただ、俺にも一応限界はあるぞ」
「そうなのですか?」
「ああ。世の中の人間が、世の中にあふれているものの中で1パーセントも知らない中で、俺は2パーセントくらいを知ってるってだけだからな」
「面白い言葉ですね」
「共感してくれて助かる。それじゃあ、現場に行く必要もたぶんないから資料持ってくるように手配してくれよ」
「わかりました。それでは私は整理に行ってきます」
ヴィーリアがロビーから歩いて去っていった。
「……ん?ワイゼル。もう起きたのか」
秀星が振り向くと、ドアの傍でワイゼルが立っていた。
黒スーツ姿である。
ただ、いろいろなバッジが左胸あたりについているので、普段出歩くときはこの格好なのだろう。
「ええ、加減されましたからね。俺が放った威力がそのまま返ってきていたら、今頃内臓がつぶれて棺桶に入っていましたよ」
「だろうね。で、用件は?」
「サインをお願いします!」
ガバッという音が聞こえてきそうな勢いで頭を下げて、色紙とサインペンを出すワイゼル。
秀星は二秒くらい停止した後、とりあえず受け取ってサインをする。
ちなみに日本語で大丈夫である。
「これでいいか?」
「はい!ありがとうございます!」
ぶっちゃけ適当である。
だって書いたことないもん。
「わざわざサインを貰いに来たのか?」
「はい。秀星さんが残した軌跡を追いかけて、俺は強くなりましたから」
「へぇ……」
秀星は『ファンっていうのはとりあえず失望させなければ大丈夫』としか考えていないので、個人単位でどう思われているのかは気にしないタイプだ。
もちろん、自分がやったことに対して何かしら感動している人間がいることに対して不快感などない。
ただ、特別な感情はない。
ワイゼルが本質的にどうなのかは秀星もわからないが、いずれにせよ、その感情はヴィーリアやアルトたちには遠く及ばないものだ。
原動力の『依存度』の話なので別にいいけど。
「それはそれとして……秀星さんって若いですね」
「ああ、外見弄ってるからな。設定年齢十七だから」
「なるほど、秀星さんにとって、年齢というのは関係ないものなのですね」
「年齢も性別も種族も生死も関係ないな」
「……」
ワイゼル君が停止した。
「そこまで理不尽だとは思ってなかった?」
「はい……その、もうちょっと人間だと思いたかったです」
「正直でよろしい」
ファンタジー世界に生きる人から人間扱いされていない秀星だが、自覚はしているので問題はない。
「まあその話は置いといて……あの剣、よく手に入れたな」
「はい。正直絶望的でしたけど、あの剣でなければやり遂げられないことがあったので、必死の思いで食らいつきました。そこから努力し続けた結果が、この国の騎士団長ですからね……」
「あの剣でしかできないことねぇ……」
ワイゼルが引き出せる機能を頭に思い浮かべて、その事情を察した秀星。
「なるほど、その結果として『騎士団長』か」
「……それ以上はちょっと勘弁です」
「そうしておこう。で、騎士団っていうからには、国民を守ってるわけか」
「はい。この国は技術はあっても、資源や流通の上では周辺国家にとって重要な部分が少ないので、攻めるよりも守ることが重要になります」
「任務。大体スパイ捜索だろ」
「はい」
即答されちゃった。
「ほんっとうに多いんですよね。一人いると思ったら三十人くらい普通にいます」
「……これからもっと多くなりそうだな」
「俺もそう思います。ただ、どうしたらいいのか……秀星さんは何か案はありますか?」
「……スパイ活動ができる者って、大体忠誠心だけは一級品だよな」
「そうですね。そもそも他の組織に流れるような者を任命するわけがなく、情報が漏れないように自害することも求められますから。忠誠心はすさまじいですよ」
「ならそれを利用すればいいだろ」
「……?」
「まあ、要するに、『主人の利益のために合理的だと判断したら、主人の情報をペラペラしゃべる』ってことだよ」
「……え?」
ワイゼルは剣は優れているが他のことはまだ浅いらしい。
「まあ、コツとか洗脳的な分野がちょっと必要だし、下手すれば策士が自爆するからやらないほうがいいけどな。まあそういう考え方もあるっていうだけの話だ」
「……頭に置いておきます」
「そうか」
「政治的な難しいことは、俺にはまだわかりません。俺は、他国からの侵略で、国民が犠牲にならないために戦います」
「……」
秀星はそれをきいて、『まあ、そういう考え方が普通だよな』と思った。
「これは俺が考えたものじゃないんだが……戦争しなくても侵略は可能って話もあるぞ」
「え?」
「六段階だ。
第一段階『工作員を送り込み、政府上層部の掌握と洗脳』
第二段階『宣伝。メディアの掌握。大衆の扇動。無意識の誘導』
第三段階『教育の掌握。国家意識の破壊』
第四段階『抵抗意識の破壊。平和や人類愛をプロパガンダとして利用』
第五段階『教育やメディアを利用して、自分で考える力を奪う』
最終段階『国民が無抵抗で腑抜けになった時、大量移住で侵略完了』
……正直、時間制限がないのならできそうだろ」
「そうですね……半分以上理解できませんでしたが」
秀星は苦笑する。
「まあ、そのあたりは女王陛下が何とかするだろ。ただ、騎士団長っていう身分なら、積み重ねておくべきノウハウは莫大だから、精進するように」
「はい!」
いい返事をするワイゼル。
秀星は思う。
(うーん……こりゃ食われるな)




