第五百六話
「……魔力が漏れなくなったか」
アステルは鑑定を使って、隕石を見る。
先ほどまで魔力が出ていたはずだが、それが出てこなくなっている。
「内部に魔力は十分残っている。これ以上魔力を出せないということはないはずだ。諦めたのか、もう十分なのか……」
沙羅から電話があり、『巨大モンスターが出て来る壺はみんなが投げ飛ばして宇宙までいった』と聞いている。
それを聞いたアステルは『やっぱりこいつらって宇宙を粗大ごみ置き場だとしか思ってないな』と確信したわけだが、方法と意思はどうあれ、解決していることに変わりはないのでその点に関しては突っ込んだりしない。
というか、突っ込んだところで『じんそくなたいおうがひつようだったんだ!』と棒読みで言われたとしてもアステルに反論はできないのだ。
アステルは膂力をそのレベルまで強化できないのである。
「いろいろ考える部分はあるが……椿が未来からこちらに来た意味が、まだ達成されていないな。もしも今回のこの隕石にも関係があるとすれば、諦めたのではなく、もう十分だと判断したと結論付けているという前提で考えた方が無難だな」
特定の空間の範囲内で、神器が多数存在したり、高志や来夏のような存在がいたりすると、パワーインフレが止まらない。
インフレが加速する以上、バランスが崩壊する。
バランスが崩壊した結果、何が起こるのかと言うと、『ありとあらゆる概念が使い捨てになる』のだ。
神器だとか理不尽だとかいろいろあるため、多少の新しい発見や概念は、それらにおいつけない。
最新式の巨大ロボットや戦車を作ったところで、秀星が暴れるだけでスクラップになる。要するに、新技術よりも既に強い戦闘力を秀星をはじめとする一部のもの達が有している。
「……さて、これ以上考えても何も発展しないか。特殊な魔力が隠れているわけでもなさそうだ。もしも何かの答えがあるのなら、それはまた、空から降ってくるだろう」
アステルは隕石に背を向けた。
すでに、この隕石の役割は終わった。
そして、先ほどまでモンスターを大量に出現させていた壺は、それらを起動するためにはこの隕石から出て来る魔力が必要になる。
この隕石の役割が終わったとなると、もう巨大モンスターが出て来ることはない。
「どんな答えがあるのやら……まあ、それらの答えが、インフレしすぎている今に通用するのかどうかは分からんがな」
アステルは大体のことは一目で分かる。
秀星も同様だろう。英司も同じだろう。
そう言ったもの達は、『どうでもいいことに対して、どうでもいいと判決を出すのが異常に速い』のだ。
かかわっていても得がないのだから当然である。
「まあ、こちらを驚かせたいというのなら、強さではなく、発想を見せてくれ。せっかく宇宙から来たんだ。その点は期待しよう」
そう言うと、憤りを感じているかのような感情をまき散らす『隕石の中』を意図的に無視して、アステルは歩きだした。




