第千十八話
「清磨様。グレイが乱獲しているあのボスモンスターですが、ボスモンスター特攻装備無しで討伐が確認されました」
時島グループ本社ビルの最上階で清磨はコーヒーを吹き出した。
「マジで!?俺もできなかったんだけど!キャラクター名は?」
「『エクセルスター』というキャラクターのようですね」
「……表計算の星?」
なんだその名前は。
「いえ、そもそも『Excel』というのは『秀でた』や『優れた』といった意味を持つ形容詞です。清磨様は『エクセレント』という英単語を耳にしたことがあると思いますが、それの仲間です」
「あ、なるほど!どんなプレイングをしてるやつなんだ?」
「相当な廃課金キャラですね。ただ、最前線レベルのステータスを得るために金を使っただけで、時間のほとんどをこのゲームにつぎ込む『廃人勢』といったレベルでとどまる程度に課金を抑えています」
要約すれば、『強キャラ』を作るために課金しただけで、『バグみたいに強いキャラ』を作ろうとしたわけではない。ということだ。
「そんなキャラクターであのボスを倒したの!?」
「はい。動画投稿サイトにも討伐する様子が掲載されており、詳しい討伐方法が概要欄に記載されていますよ」
「へ~」
「なので今は他のプレイヤーも乱獲しています」
「ダメじゃん!報酬を高く設定してるって言ってなかった!?」
強いボスには高い報酬が必要である。じゃないと戦う意味がないから。いくらオリジナルのアイテムがもらえるとしても、それが勲章一個だけだったら文句を言う人は絶対にいる。
まあ、それらのボスを倒した勲章をいくつも揃えているプレイヤーは実力者として認められるだろうが、話題に上がったゲームに勲章や称号のシステムは存在しない。
「そうですね。ここからは調節を行う必要があるでしょう。ただ、今回はかなりイレギュラーなことなので、対処療法で十分問題ないかと」
「ほっ。よかった」
「……まだ気が付きませんか?」
「え?」
「このエクセルスターという名前です」
「ん?エクセルっていうのが『秀でた』って意味があるって話か……ん?『秀でた星』?」
「今更ですか」
「ごめんね!」
素直に謝る清磨。
「で、秀星先輩ってことでいいんだよな」
「ええ、確認したら本人でした」
「確認したんかい!……ということは、秀星先輩のやり方をうまく取り入れていけば、俺たちはグレイに勝てるかもしれないってことだな!」
「概ね、そんなところでしょうね」
「どんな戦略だったんだ?」
「クリティカルや回避など、『確率』がかかわるステータスに相当なブーストを掛けていました」
「運ゲーじゃん!」
秀星にしては珍しい。大体勝ち確を見つけるのに。
「朝森秀星は二万回くらいやって成功させていましたよ」
「えっ……さっき『乱獲されてる』って言ってたよな。どういうこと?」
「単純に挑んでいるものが多いということ。推定討伐数を大きく上回る量のボスが討伐されているため乱獲と表現しただけです」
「あ、なるほどね……」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。とはよく言ったものだ。
「ただし、推定討伐数を大きく上回っている最大の原因はグレイが今も特効アイテムの全身フル装備で乱獲しているからですが」
「アイツかよ!てか、アイツの運もおかしいよな。なんで百回引いたら百回素材アイテムが出てくるんだよ」
「ちなみにその動画も投稿されていました」
「あいつ動画投稿者もやってんの!?」
ゲーマーなだけじゃないのさ!
「ちなみにドラゴンっぽい見た目のバーチャルアバターを使っています」
「まんまじゃん」
どうでもいいが、ここまで突っ込みどころ満載の情報を真顔で淡々と言える敦美の神経もどうかしている。
「ふむぅ……セフィコットから何かしらの装備を購入できそうならそれを考えていたが、今のところ出てこないんだったな」
「はい。少なくとも第一形態をクリアしなければ、アイテムを購入できません」
「それって、第一形態をクリアしたからショートカット用の特効アイテムじゃね?多分第二形態はそのアイテムで倒せないと思うんだが」
「その通りです」
「……めんどくさいシステムだな」
秀星が優しいわけないじゃないか。
「うーん、運ゲーに持ち込むとしても何かしらの隙を見つける必要があるぞ。ボス部屋の奥の扉めがけてミサイルを乱射するか?」
「多分キレられて殲滅されるので準備したものが全て残骸になりますよ」
「だよな……」
自分の趣味のための道具がいくつも置かれているプライベート空間だ。
そりゃ守るだろう。
「よし、2パターンに分けよう。グレイの隙を突くアイデアと、俺たち自身が強くなるアイデアの2パターンだ。人数は多いんだし、これらを突き詰めていけば何とかなる部分はあると思いたい!」
「断言ゼロですね」
「当り前だろ!」
勝利を確信できる要素があるのならここまで苦労しません。
「2パターンの指揮は任せるぞ」
「清磨様はどうするのですか?」
「ボス部屋に言ってグレイにちょっかいかけてくる。ここまで戦っていて思うが……あいつって結構おしゃべりだからな。ソロで挑んで何回か戦っていたら隙が見えるかもしれない」
「それはありえますね」
まあ、基本はボス部屋から出られない暇竜だ。リアルのコミュニケーションは乏しいだろうし、そりゃ色々話したいことはあるだろう。
「さて、なんか方針が見えてきた。問題は……本当に隙が見つかるのかってところなんだよなぁ」
圧倒的な格上である。
そのため、『突くのが現実的な隙』を見つける必要があるのだ。
……難易度高くね?




