第千十六話
『なんじゃそりゃ』
グレイは驚いた。
まあ、150人の生徒が同時に襲撃してくるという、なんだかすごく理知的という言葉から距離を取ったような作戦を立ててきた連中だ。面白いと思うが、進歩のしようがない。
などと思っていたら……。
次の挑戦では、人数はそのままで、地属性魔法や錬金術を駆使して高速で拠点や足場を建造し、そこから襲撃を仕掛けてきているのである。
『一気に迎撃用の砦のようなモノを建造するとは……練度はまだ甘いが、それを小童のスキルで補っておるのか。質が限界まで高まって、頑丈になっておる』
実際のゲームでされたら嫌な話だが、グレイは単なるAIとは違い、人間のような論理的思考能力を有している。
そのため、戦闘力が単に高いだけではなく、弱点を効果的に見分けることもできるのだ。というか、それをしてくるからこそものすごく面倒なのがこういうモンスターというものである。
『それっ!』
グレイが砦に向かって火球をぶち込む。
至近距離からの火球攻撃のため砦は衝撃に見舞われたが、それでも、まだまだしっかりと城壁としての形を保っている。
誰かが退室した気配もない。
『ボス部屋に砦を作るとは……しかも、何かよからぬものをその裏側で作っておるな?面白い!』
ブレス攻撃をレーザー型にして放出する。
「させるか!」
清磨が宝剣を振るってレーザーを霧散させる。
当然、これで砦にあたることはない。
『フフフ、面白い。その宝剣、砦から大型魔道具による援護を受けているな?前は小童ごと焼き尽くしたはずだが、しっかり耐えているな』
「よく覚えてんな。しかもよく見てるし……」
『我は簡単には攻略できんぞ!』
グレイが右手を掲げると、魔法陣が十個出現。
それぞれから地属性の弾丸が放たれる。
「撃て!」
敦美が合図を出した。
すると、砦からいくつもの銃口が顔をのぞかせて、弾丸をぶち込んでいく。
『地属性の弾丸に鉛の弾丸をぶち込んできたか。なかなかの射撃精度だ!』
グレイは喜びながら氷のブレスを放った。
だが、砦の内側で構築したらしい風属性の複合魔法が飛んできて、ブレスを相殺する。
『ほう、面白い。壊し甲斐のある砦だ!』
「やれるもんならやってみろや!」
『フフフ。我はこのチケットダンジョンのラスボス。ここから出られない故、生の砦と相対することはないからな!』
「生じゃない砦を見たことがあるかのような言い方だな」
『細かいことは気にするな!』
再びブレスを放出するグレイ。
そのブレスの範囲と圧力は、これまでよりも一段階上のものだった。
「うおっ、やばいっ!」
清磨は宝剣に魔力を流し込んで光らせると。そのまま一閃。
爆撃音のような音と共に、グレイのブレスは……相殺しきれていない。
そのまま砦に直撃して、大爆発を起こす。
「うおわあああっ!なんだあの威力は!」
『小童も出せるだろう?ただ、我の場合はチャージ時間は不要だがな!』
砦がガラガラと瓦礫の山になるのを尻目に、清磨は突撃する。
そのまま、魔力を何の属性にも変換せずに放出して宝剣にまとわせると、斬撃ではなく圧力を重視した攻撃を叩き込んだ。
『ぐっ……距離を取らせるにしても強引なっ』
「ぐおおっ、手がめっちゃ痛い。どんだけ硬い鱗なんだ全く!」
ゲームのようにはいかないものでかなり物を切る場合には反動がある。
秀星が作ったラスボスの鱗が柔いわけがないのだ。
「しかし、いろいろ弱点を探ってるのに、なーんか見つかる気がしねえな」
「隙があるとかないとかそれ以前に、こちらのスペックが足りていませんね」
「ひのきのぼうを持って裏ボスに挑んでる気分だな……」
宝剣を構えなおして愚痴る清磨。
『フフフ、どうする?もう手がないというのなら撤退するまで待ってやるがな』
「あれ。それってありなの?」
『我にもいくつかルールはある。最初から本気を出すなとかいろいろだ。簡単に言えば、我が我の意思で早期に決着をつけることはできん。だが、貴様らが撤退するというのなら、それはそれで構わない。我の裁量の範囲内だ』
……とはいうものの、スマホを手放せない『ネット依存』などの病気があるように、ネット環境に触れた現代ドラゴンがどのような思考回路になるのかは明白である。
奥にあるパソコンの前に早くいきたいのだ。
「……さっきから奥の部屋をチラチラ見てるけど、何かあるのか?」
『え?いや、そんなことはないぞ?』
「セフィコットから『最近のグレイはネットゲームにはまっている』という情報があります」
『我のプライバシーはどこに行ったあああああ!』
そんなものはない。
「しかも、ネットで元手がゼロでも始められるサービスを作って資本金を作り、それを基にマネーゲームで稼いで、その稼ぎを全て課金に突っ込んでいるとか」
「お前、俺より賢くないか!?」
動機はともかく、そこに至るまでの過程はとても優秀な流れだ。
まあ、最近は特に魔法省が金を使いまくっていていろいろな企業が息を吹き返しているので、マネーゲームは思ったより稼げるのかもしれない。
『フハハハッ!我はこのダンジョンのラスボスだからな!……あ~悲しい』
ドン引きである。
とりあえず情報が優先ということで撤退する流れになっているので他の生徒も撤退準備を進めているが、進めながらグレイのことを白けた目で見ていた。
まあ別に、才能と時間の使い方はそれぞれなので、グレイがマネーゲームとネットゲームで楽しんでいても別に文句はないのだが……。
『別にいいだろ!我はここから出られないんだぞ!それでネット環境を与えられたらハマるわ!』
「与えられたんじゃなくて自作じゃね?」
『……』
「あと、歯止めが利かなくなるのはわかるよ?ゲームって楽しいもんな。だけど、それなら俺の会社が作ったオンラインゲームで遊んでくれない?」
『ん?どこの会社だ?』
「時島グループ」
『わかった。早速遊んでみよう』
廃課金勢をゲットした清磨である。
ちなみに。ネット依存症は『依存症という病気』である。
病気ということは要するに、根性論を引っ張り出して本人の意思で直すことは困難を極めるものである。
なお、それを直そうという相談機関は無数にあるのだ。
ここで問題なのは、グレイってそれらの相談機関を利用できるのだろうか。
……まあ、本人が楽しいのならいいか。誰も困ってないし。




