第千九話
沖野宮高校に購買部が誕生した。
品揃えはトップクラスで、質も量も圧倒的に高水準。
サービスも充実しており、しかも対応しているのは全員が時島グループ社員の美少女たちだ。
営業スマイルだがいつでも笑顔で対応してくれる。
……男なんて馬鹿だもん。仕方ないさ。
そんなフレーズが頭に思い浮かぶような感じになっている。
とはいえ、そもそも時島グループの社員たち自身、この沖野宮高校で何か有意義なものを手にしようと思えば、それはセフィコットを利用したシステムを利用するしか方法がないということも事実なのである。
彼女たち自身が魔戦士としても実力者であり、会長である清磨は、魔戦士たちが素材を獲得すればするほど、それを強化して利益を叩き出せるようになっているので日本円は潤沢だ。
それをスキルで問答無用で行える以上、人件費はほぼ掛からない。あえて言えば、時島清磨という男を経由する必要が常にあるため、その分の輸送がネックになっているというところだろう。
まあ、効率を求める上でネックとなる部分がない組織など存在しない。時島グループに関する事情は置いておくとしても、社員たちはこの学校を卒業して得られるものなどほぼないのだ。
魔法省が正式に認めた魔戦士学校の卒業資格と、在学中に利用できるセフィコットを利用するために学校に来ている。
……秀星が書いた参考書を利用した授業によって、一応、彼女たち自身の実力が向上していることに変わりはないが、時島グループ全体から見れば、そこまで重要視する部分ではない。
結果的に、時島グループの社員たちとしては、沖野宮高校の在籍中はポイントチケットをかき集めることが優先となり、そのために生徒たちに愛想よくすることなど容易いのだ。プロだからね。
「皆誰に対してもニコニコしながら対応するし、人気になるわな。女の顔は二つあるっていうし」
「二つでは足りませんよ」
沖野宮高校生徒会室。
そこでは、ゲスト席に清磨と敦美が座っていた。
相対するように、国枝が座っている。
その隣に、フォルノスはいない。生徒会長……。
「ま、早速交渉できてよかったよ。てか、そっちは会計を連れてこなくていいのか?」
清磨は国枝に聞いた。
そう、生徒会長であるフォルノスは戦力外通告を出すとしても、生徒会会計である牧人まで来ていないというのがどういうことなのだろうか。
清磨は別に、会計そのものが交渉戦力になると考えているわけではない。
「実際の日本円の動きに関しては担当しているが、ポイントチケットは秀星先輩の匙加減で全て決まるものだ。会計の仕事には当てはまらない」
「なるほどね」
秀星が保証する限り、ポイントチケットの安定性は確保される。
しかし、秀星が保証するということそのものが絶対ではない。
国枝はそういう建前でポイントチケットを扱う権限を持っている。
……まあ、牧人としても責任重大過ぎて逃げたというのが実際の話なのだが。時々扱っていたのだが、めんどくさくなってやめたのである。
「さて、交渉を始めましょう。生徒会として、まとまった数の商品をご購入していただけるという話でしたね」
「しかも全額、ポイントチケット払いだからな。どんな話になるか楽しみだぜ」
丁寧に入る敦美と、元気な様子の清磨。
そんな二人に対して、国枝は一枚の紙を出した。
表が記されているものである。
購入リストといったところだろう。
「お、リストにまとめてきたのか……作るの速くないか?」
「俺が作るのが速いのかどうかはともかく、そちらの社員さんの会議の質も相当高いと判断できた」
「え、そうなの?俺、売店作れって指示だけ出して後丸投げだったから会議の内容全然知らねえんだわ」
「……うちのポンコツと同じようなことを言っているな」
内心で溜息を吐く国枝。
……それに対して、敦美が同情の目線を送ってくる。
そこで、国枝と敦美は察した。
『コイツは苦労人だ』と。
それはともかく、国枝が作ったリストを手に取る清磨。
「……ふーむ。合計の支払額は400万ポイントか……かなりの大金を最初から盛り込んできたなぁ」
一般的な生徒……と言っても、沖野宮高校は魔戦士学校として最高峰なので一般的と言ってもそれ相応の実力はあるが、休日はダンジョンに入らない学生であっても、大体月収は8万ポイントといったところだろう。
沖野宮高校の生徒たちは、午後は毎日ダンジョンに籠っている。
その際、実力判定上はチケットダンジョンであっても通常ダンジョンであっても構わないのだが、大体5回に2回といった割合で生徒たちはチケットダンジョンに潜っている。
一か月の内、大体平日は21日くらい……わかりやすくするために20日くらいとするが、この計算なら一か月に8回潜っている。
ダンジョンではそれ相応のモンスターが用意されているので、一般的な実力で半日潜れば10000ポイントくらいになるということだ。
まあ小難しい計算はともかくとして、この『休日にダンジョンに行かない人で、月収8万ポイントくらい』という数字が信用できるということだけ覚えておけば問題ない。
「……騙されてはいけませんよ。清磨様」
「え?」
400万ポイントというのは一般生徒50か月分くらいだろう。
そこだけ言えばまあまだ高いといえるが……そもそも時島グループの派閥は150人である。
400万ポイントを150人で割ると、大体2万5千よりちょっと多いくらいだ。
一般的な生徒が半日潜れば10000ポイントであるということを考えると、『最高値移行』によって魔戦士としての質を最高レベルまで高められたもの達がダンジョンを蹂躙すれば、それ以上の稼ぎを叩き出すことは間違いない。
実力もスタミナも一般生徒よりも圧倒的に高くなることは目に見えている。
しかも、ある一定以上の階層を超えると競争相手が少なくなる上に、拠点の建造すら可能。
明らかに吹っ掛けられている。
自分たちの戦力情報を数値データとして全く把握していない証拠である。
正直、時島グループという『企業』を相手にする場合、400万ポイントでは桁が足りない。
もちろん、グループ外部の生徒から商品として400万ポイント分買ってもらう機会などほぼないので、交渉自体はありがたいのだが……。
「……ちょっと桁が多くなるとすぐに現実と比較できなくなるタイプか」
「ええ、もう、本当に……」
ハーレムすら作り上げ、そしてそれを維持している清磨のことだ。
おそらく、自分にとっても周囲にとっても、気持ちのいい金の使い方をしているはずである。
ただ……側近として思うところがないわけではない。ということだ。
「それで、どうする?」
「……この量なら、半日でそろえることができるでしょう。まあ今回は顔合わせのようなものですし、最初はこの量で十分かと」
それに、かなり用途別に幅広く購入している。
おそらく、生徒会としていろいろ性能を確かめておきたいのだろう。
いろいろなイベントを行う際、時島グループの商品の影響が強くなる可能性は十分にある。
その影響がどれほどのものになるのかなど、さすがに宗一郎や英里だって予測していなかったので、国枝が計算する必要があるのだ。
まあ、それらのイベントで何かややこしいことになってきたら、フォルノスあたりに神らしくデウス・エクス・マキナでも演じてもらうことになるだろうが、いずれにせよ。まだ一回目だ。
大口の取引だが、国枝だってこのような商談を何度も何度も行えるわけではない。
交渉というよりは、今後の交渉そのもののサンプルのための顔合わせという意味で、国枝も敦美も考えやすい。
(意見が合いそうな後輩が入ってきたものだ)
(まさか。沖野宮高校そのものが、ここまでナンバー2が苦労する空気に染まっているとは……)
トップ連中が雑過ぎんだろいい加減にしろ!
……と大体十割くらい本気で思うのだが、今はこの内容で納得しておくことにした。
どちらも、トップの戦闘IQが高くとも他がポンコツなので苦労が絶えない。




