第千八話
「父さん。めっちゃすごい購買部ができてるんだけど……」
「……ん?」
風呂上がりの星乃。
寝間着を着つつ、リビングのソファでルービックキューブを弄っている秀星に話しかけた。
星乃自身、ずっとネットサーフィンをしていたのだが、気になる物が出てきたらしい。
「……時島グループが運営する売店かぁ……支払いがポイントチケットって書いてるけど」
「基本の品の中には日本円で買えるものもあるんだろ?」
「あるけど……ポイントチケットを払う方がやや得って感じの値段設定になってると思う」
「ほう」
「なんだか行動力があるな。清磨先輩」
「まあ、良いんじゃね?」
行動力があって、計画を立てることができて、そしてそれを実行に移せる実力がある。
計画性の高さを除けばどこぞの世界一位とほぼ変わらない。
秀星が反対する理由もないだろう。
「いろんなことを考える人がいるんだな……」
「別に悪いことを考えてる程度ならいいだろ。清磨の立場を考えれば、おそらくポイントチケットを明確に『金』だと思ってそうだし、金という風にしておけば汎用性が高いことも事実。汎用性が高い以上、総合的に悪いことを考えられる奴が売店を作ったとしても、俺は文句を言うつもりはないよ」
「はぁ……」
「俺だってこのシステムを導入した後、そこそこアトム辺りににらまれたからな。ただ、それでも致命的にはならなかった。なんでだと思う?」
「……システムが破綻する可能性が限りなく低かったから?」
「まあそんなもんだ」
世界一位の男が持つ神器によって運営されるシステムだ。悪いことを考えていても軽い気持ちで邪魔することはできないし、そもそもそのような悪だくみが事前に察知されることがほとんどである。
「まっ、多分稼ぎたいんだろうけど……いいだろ別に」
「そんなものかな」
「別に悪いことやイレギュラーが嫌いってわけじゃないからな」
進化を望みつつもイレギュラーを認めないような本末転倒な考え方を秀星は持っていない。
イレギュラーが嫌だという思想があることは知っているし理解も示すが、示すだけである。それが秀星の行動に影響することはない。
清磨が好き勝手やる分には秀星にとって普通のことだ。
「で、実際の品物はどういう感じなんだ?」
「質は高いと俺は思う。清磨先輩のスキルの影響もあると思うけど……」
「だろうな」
そもそも、時島グループという組織そのものが、清磨の『最高値移行』によって質が高められているということを売りにしている組織だ。
もちろん、人材の方にスキルを使っていることで、別にスキルを使わなくとも、商品のクオリティは高いだろう。
しかし、その上で清磨がスキルを使うことで、揺るがない価値を与えている。
……問題があるとすれば、これからの『購買部の敷居』がごっつ高くなるということだろうか。
沖野宮高校ではたびたびそういう現象が起こる。
天窓学園と比べて、秀星を有していることで魔法省は沖野宮高校を実験校と捉えている節がある。
そのため、一芸に秀でた頭のおかしい人もいろいろ入ってくるのだ。
それだけならいいが、やたら行動力がある人間もよく入ってくる。清磨もそういう人種だろう。
これにより、天才的なクオリティで『開拓』が行われるため、土台があまりにもしっかりしているのだ。
その結果、敷居が凄く高くなるのである。
……まあ、しかたないさ。王道を進みたいのなら天窓学園に行ってくださいとしかいいようがない。
「俺、全然掲示板とかチャットとか見ないんだけど、どういう状態になってるんだ?」
「明日から開店すると書かれてるけど……おそらく、大口の取引先は『生徒会』になるだろうって予想がある」
「そんな企業同士の商いみたいなことを初っ端からやるつもりか?」
「国枝先輩がすでに予算を組み始めてるって」
「フォルノスの意見は?」
「そもそも購買部ができそうだってこと自体知らないんじゃないかな」
ナンテコッタ。
「部活動って生徒会が管理してないのか?」
「副会長が受理すれば問題ない設定になってる」
「……」
実力だけがやたら高いお飾り会長である。
「で、星乃は何か欲しいものはあるのか?」
「うーん……この中では特に……というか、一部の生徒が転売に走り出しそうな気がするラインナップに見える」
「清磨の目的を考えればいいんじゃね?」
「だよね」
購買部から買った商品は、基本的にセフィコットと交渉しても、日本円なら適正価格になるだけで、ポイントチケットの入手は困難だろう。
それなら、学校でしか売られてないものを見つけて買って、それを転売した方が生徒たちにとっても儲かる。
ただ、清磨が購買部を作った目的はポイントチケットを手に入れることであり、要はポイントチケットを使って買ってくれることが優先されるのだ。それ以外の項目は度外視しているだろう。
「行動力と計画性がある馬鹿は好きだよ。星乃もそうだろ?」
「確かに」
星乃は『家族にそういう人がいないからね』と続けようとしたが、口を『か』の形にした時点で止めておいた。
秀星も、星乃が『か』と言いたそうな口の形になったので何を言いたくなったのかは察したが、あえて追及しないことにした。
……真実であっても失礼なことは言わない方がいいのである。それは家族でも変わらない。例外は椿くらいだ。




