第千六話
「うーん。なんだか『上限』が決められてるようなにおいがあってイライラするなぁ」
清磨はチケットダンジョンに潜っていた。
魔石を獲得するために普通のダンジョンに入る必要はあるのだが、別にそれは重要なことではあっても緊急のことではない。
というわけで、清磨はチケットダンジョンに潜っている。
いずれにせよ、モンスターを倒すことには変わりないので、実力者である清磨からすれば楽なことだ。
弱いモンスターを倒せば低いランクの換金アイテムが出てきて、モンスターの実力に応じてその換金アイテムの価値は比例している。
想定していたよりもシンプルな構造であり、あまり奇をてらった行動が成果につながるような感じではない。
「確かに実力があればその分強力なモンスターを倒しやすいから、その分、他の生徒よりも入手しやすいんだろうけど……こりゃだるいな」
清磨はスマホを取り出す。
そこから、時島グループで作ったポイントチケット管理アプリを立ち上げた。
「……思ったほど溜まってねえな」
換金アイテム程度、見ればだいたいチケットがどれくらい手に入るのかはわかる。
そのため、定期的に社員たちには手に入れたチケットの量を更新するように言っているのだが、思ったよりもたまらない。
「……すでに大量に溜め込んでいるところがいるのかね?」
いくつか候補は考えられる。
別に成績表を盗み見ることができたわけではないが、それでも調査すれば誰が強いのかはわかるものだ。
「上位陣はほぼチケットダンジョンに入ってねえな……やっぱこのレベルになると必要なくなるのかね?」
あるいは、すでに必要な金額は達成しているから入らないだけなのか。
可能性はいくらでもあるし、どれも有り得そうだ。
「そいつらからひっこ抜けねえかな……ん?」
清磨は近くに人の雰囲気を感じた。
チケットダンジョンのいくつかの階層に分かれているが、その中でもかなり深いところである。
当然、難易度は高い。
三年生でも下の方の実力なら挑まないような階層だ。
「一体誰が……お、あいつは……」
有名人だ。朝森星乃。
世界一位の男である秀星の息子であり、未来から来たという。
「……別にお互いに隠れるような性格じゃないんだし、この階層なら急に話しかけてきても邪魔にはならないよ」
星乃が清磨の方を向いて話しかけてきた。
「まっ、そうだよな」
清磨は剣を鞘に突っ込むと、星乃に近づいていく。
「お前が朝森星乃ねぇ……秀星先輩よりでけえな」
「よく言われる」
秀星よりも高志がちょっと背が高く、その高志よりも星乃のほうがちょっと背が高いのだ。
ちなみに清磨よりも星乃は身長が高い。
なお、目に見えてわかるほど筋肉量に違いはない。
しかし、未来で考えられたトレーニングをほぼ生まれたときからやっているであろう星乃の身体能力はそれ相応に高いだろうが。
「チケット。お前なら意外とホイホイもらえると思ってたが、そういうもんじゃないんだな」
「父さんは公私混合するタイプだけど、まあ、内容によるから」
「なるほどねぇ……」
清磨は興味深そうに星乃を見る。
「一つ質問なんだが、世界一位の男から生まれた長男っていうのは、一体どういう感じなんだ?」
「?」
「二世とか言われたりするんじゃねえかなって思って」
「ああ。そういう話か」
朝森家というくくりで見ても、星乃は重要な立ち位置だ。
秀星には姉が一応いるのだが、それでも長男は星乃である。
また、高志も長男だったので、朝森家の系列という意味で見ると、いろいろな意味で星乃は『朝森家の次世代を背負う』という立ち位置に感じられるだろう。
それらに関する重圧があったのかどうか。ということだ。
「まあ、俺がこうして過去にきているから、『生まれる前からどんな子になるのかわかる』っていう部分もあるけど、基本的にそういう重圧はないな」
「へぇ……」
今の清磨からみて、確かに星乃は強者である。
だが、実際に秀星相手に剣を交えた経験を考慮すると、こう言っては何だが『次元が違う』と言う評価になる。
しかし、議論の軸をそこに持っていかないのであれば正直、どうでもいい話になる。
「世界一位の男を父親に持っても、あんまり苦労しないもんだな」
「ちなみに未来での俺の評価は『元気いっぱいな姉に振り回される苦労人な弟』だ」
「朝森椿……か」
一応制約はあるものの、その範囲の中では意外と椿の情報がネットに乗っかることも多いので、清磨も当然知っている。
確かに、活力という意味で上限がなさそうな雰囲気だった。
あのような人間、清磨は他に誰も知らない。
「言い換えれば、世間の興味の対象がほとんど星乃よりも椿に向かってるだけじゃね?」
「その通りだ」
「あれ、納得してんの?」
「ああ。慣れた」
清磨はなんとなく、星乃がめんどくさがり屋に見えてきたのだが……まあ、気のせいではあるまい。
いずれにせよ、疲れていることに変わりはなさそうだ。
「まあ、なんとなく状況はわかったぜ……そういや。未来の俺ってどんな感じなんだ?」
「未来の父さんから詳しい説明は止められているんだが……雑に言えば、今よりも周りにいる女性が増えてる」
「だろうな!」
清磨にも色々事情はあるだろう。
ただ、清磨は即座に理解して納得する。
「ククク。なんか。お前とは仲良くなれそうな気がしてきたぜ」
「正直、何に納得したのかわからないが……未来の父さんからも、清磨先輩とは仲良くするように言われてる」
「そうか。まあ、その仲良くの詳細はおいておくとして、一個質問があるんだよ」
「ん?」
「チケットの効率的な稼ぎ方。何か知らねえか?」
「ストレートだな……」
なんだか遠慮のなかったり、個性が強い人間ばかり身の回りにいる気がする。
なるほど。これはたしかに苦労人である。




