第千三話
ちょっとずつギアを上げて、実力を上げていく清磨。
純粋に速度や剣術における駆け引きに置いて、『何に注意するのか』を頭の中で設定することで『レベル』を調節しているのだろう。
秀星の方からまだ攻勢に出ていないが、それでもかなり……『おかしい』と思い始めている可能性はある。
「……ど。どうなってんだ?」
「お互いにまだ何もしてないに等しいぞ?まあそれでも、『勝てる気がするかどうか』は分かるだろうけどな」
剣を振りながらもニヤニヤする秀星。
同じメーカーが作った剣を構えつつ、清磨は首をかしげている。
ただ、そこに失意も失望も絶望もなく、好奇心があるのは秀星からも分かった。
「楽しいねぇ。遊び相手がいるって言うのは……世界一位のアンタに、遊び相手はいるのか?」
「基本スペックで言えば、公式じゃないが俺より上はいるぞ?」
「ん?……ああ、あの生徒会長か」
どうやら物差しも正確のようだ。
自分より強いものを単純にひとくくりにするのではなく、よく見ている。
「しゃあない。俺の『玩具』を見せてやる」
「かかってこい」
秀星が剣を構えるのと同時に、清磨は自分が持つ剣に、自分の魔力を流し込んだ。
魔力を見ることができる者であればだれもがわかるだろうが、魔力を流し込んだ瞬間、剣の質が急激に上昇したのだ。
あくまでも、スペックというか『器』というか、そういう意味で高くはなっていない。
だが、その上限の中で質が最高値まで高まっている。
「!」
秀星は驚いた。
清磨が使ったスキルの内容に対してではない。だが、驚いた。
「行くぜ。先輩!」
清磨が突撃してくる。
それに対して、秀星も付与魔法を使って対抗する。
そして、それぞれが剣を振り下ろした。
火花が散って、そのまま鍔迫り合いになる。
「……俺の剣の方が刃こぼれしてるな。このスキルを使って質で負けるなんて初めてだぜ」
「まず付与術で『限界値』を引き上げた方がいいぞ。そうした方が強くなるのは『お前の方が分かってる』だろうけどな」
「ハッ!もう俺のスキルが分かったのか。反則級に強いねぇ!」
嫌悪ではなく称賛で放たれる清磨の言葉。
清磨は距離を取ると、次は付与術を使って剣のスペックの限界値を上げた後、再度魔力を流し込んだ。
「……まだ加減してるな」
「あ、やっぱバレます?まあこれでも組織のトップなんで、外面とかいろいろあるのよ」
「そんなことが関係なくなるくらい強くなった方が楽だぞ?」
「なるほど、そりゃそうだ!」
最度剣を振るう清磨。
飛ぶ斬撃を放ってきたが、秀星はそれに対して剣を真横に薙ぎ払う。
それだけで、飛ぶ斬撃は霧散した。
「うおっ。マジかい!」
「楽しそうだなぁ……」
「そりゃそうだろ。どんどん行くぜ」
清磨が再度突撃してくる。
そのまま剣を連続で振って秀星に当てようとしてくるが、当然その程度で切れるような男ではない。
(というより……今の俺と清磨の戦いを理解してる新入生が多いんだよなぁ……)
秀星の感知能力と観察能力は常人を凌駕する。
たとえ見ていなくても、自分を見ているものがいれば、その人間がどれほど理解しているのかわかるほどだ。
そのため、時島グループに所属する生徒『+α』で、どうやらこの攻防を理解している女子生徒がかなりいる。
(まあ、その内、的矢あたりが不審に思うだろ)
『歯車相関図』という、目にした人間の『人脈が見れる』という、潜入捜査をしている者からすれば天敵のようなスキルを持っている的矢は、このような状況だと不審に思うだろう。そのうちスキルを使い始める可能性は高い。
「なんか余計なこと考えてないか?先輩」
「ん?……ああ、新入生のことを考えてたんだよ」
「目の前の敵に集中しないなんてマナーが悪いぜ?」
「済まんが、目の前の敵に集中しながらも色々なことを考えなくちゃいけない敵が多かったんだよ」
「そりゃしゃーねえな」
敵の言葉の真偽は関係ないのだろうか。
まあ、きっとどうでもいいのだろう。きっと、試しに聞いただけなのだ。
清磨は笑うと、地面に剣を刺した。
すると、剣に地面から魔力が吸い上げられて、膨大なエネルギーを放出し始める。
「さてと、とりあえず……俺が今のところ、世間に見せられる最強の技だ。これを止められるとなるとどうしようもないんで。とりあえずこれで決着つけさせてもらうぜ」
「まあ、お前がそれで納得するのならそれでいいさ」
秀星も剣を構える。
ちょうど充填も終わったようで、清磨は地面にさしていた剣を抜き放つ。
あまりにもギチギチに魔力が充填されており、今以上にため込むことはできないだろう。
「行くぜ先輩……『クエイクセイバー』!」
大きく振りかぶると、それに合わせて刀身が拡張される。
清磨はそれを、ためらいなく振り下ろした。
「……まあ、まだまだだな」
格の差は大きい。
秀星は清磨が振り下ろしたそれに対して、少し剣に魔力を流し込んでから切り上げる。
それだけで、清磨の拡張された刃は砕け散った。
「なっ……嘘だろ。おい」
「でかくすると脆いところが出てくる。世の中の鉄則だろ」
「……ハッ。心にもないことを言う先輩だぜ」
清磨は苦笑した。
「だろうな。ま、実力差が分かったのなら十分。精進しろよ新入生」
「ああ……また戦ってもいいか?」
「もちろん」
簡単に潰れない子は好きだよ。と言いたそうな表情の秀星。
それを見た清磨は、フフッとほほ笑むと、その場を後にした。
(素直な奴だ)
秀星はそう思いつつ。『でかくすると脆いところが出てくる』という指摘は、確かに心にもないことだと認めざるを得ない。
秀星が判断した清磨のスキル。
それは、『最高値移行』
物体の質を限界値まで高めるスキルだ。
そして……ノアスフィアにおけるダンジョンマスターであれば、標準装備のスキルでもある。
(ノアスフィアの連中の方は、スキルを自分にしかかけられなかった。おそらく、ダンジョンマスターとしての性能として受け取った力だから、使い方が限られているんだろう。だが、清磨の場合は自前だな。それによって、自分以外の物にもそのスキルを使うことができる)
清磨の時島グループは、質の高い人材を揃えて、質の高い素材を取り扱っている会社だ。
その『人材』と『素材』に対して、『最高値移行』を使えば、どうなるだろう。
(初めて見るタイプの人間だな)
一番面白い点は、その力を使って、ハーレムを作っているということだろう。
まあ、一般的なそれとは少しズレがあるのも分かっているが、詳細は分からない。
「面白いやつだ」
秀星はそういいつつ、剣を鞘に納めると、その場を後にした。




