第千二話
「……新入生の歓迎会ねぇ」
入学式の次の日である。
入学式があった日の午後は星乃が闘技場のようなところで暴れまわっていたが、とりあえず星乃の顔見せはほとぼりが冷めたといっていい。
動画がとられていたようで、クラスメイトのグループチャットなどで共有されたようだ。
さすがに沖野宮高校の公式の動画としては出せないものだが、椿を知る社会人の魔戦士の一部にもすでに知られているらしい。
……というか、春休みの時点で『姉がお世話になりました』と魔法省にもあいさつに行っているので、それ相応に存在は知れ渡っている。
そんなこともあった次の日なのだが、どうやら何かしらのイベントを行う予定らしい。
学校が用意したプリントにはそのようなことが書かれている。
「秀星」
「どうした?フォルノス……いやちょっと待て、このタイミングでお前に話しかけられるのってすごく変な予感がするんだが?」
「そういうことだ」
話しかけてきたフォルノス。それに対し秀星は察して、フォルノスは頷いた。
「一体何をやるんだ?」
「基本的には上級者の演武のようなものだ。それと……主席入学した生徒を交ぜてやるべきかどうかも考案されて、例年の行事にするかどうかはともかくとして、今回は主席入学者の同意もあって、新入生からも代表が選ばれて行われるらしい」
「ほう……」
要するに、基本的には二、三年生が戦いを見せる。
その後で、主席入学者からの挑戦ということで上級生が戦うということになるようだ。
「大体わかった。要するに、今回俺はそれで戦うってことになるんだな?」
「上級生同士の演武で出る必要はない。ただ……その主席入学者の時島清磨が、挑戦相手に秀星を指名している」
「ほう……なーんかアグレッシブだなぁ。まあ嫌いじゃないけど」
一年生の中にすごい成績で入学したものがいるという話がある。
実戦経験で学んでいる三年生が出す実力を軽く実技試験で見せてきたそうだ。
しかも、女子生徒の入学がかなり多いのだが、その中の140名も、かなり高い実力を軽々と見せていたらしい。
「……俺を相手にねぇ。フォルノスはどう思う?」
「私としては特に気にすることはない。ただ、今回入学した新入生240名の内、100は『それ相応に優秀』と言えるレベルの生徒だ。時島清磨がどこまで見せてくるつもりなのかはともかく、秀星は大人気ないことはするなよ」
「わかってるって」
時島清磨も、きっと自信家だろう。
ちょっと調べてみれば、時島グループという会社の会長を務めているようだ。
業務を確認してみると、どうやら質がとても高い素材の流通にかかわっているらしい。
質の高い専属の魔戦士を多数抱えていると言っているが、彼の『派閥』を考えれば、おそらく優秀な成績を叩き出した女子生徒たちだろう。
「……全く。現代でハーレム会社を作るなんてな」
「本妻確定型のようだがな」
「あっそう……時島清磨かぁ。とりあえず戦ってみますかね?」
★
「うわっ!爆炎が舞い上がったぞ!」
「ええ!?斬撃だけで雲が割れたよ!」
「なんだあの滝みたいな水!意味わかんねえ!」
……演武をする上級生の人選ミスが発覚したような、そんな雰囲気が歓迎会運営本部に流れつつあるが、とりあえず、学校で利用できる無料サービスの説明をいろいろ行った後、実際に上級生による演武が行われることになった。
ちなみに無料サービスに関してだが、前年度はほとんど行われていなかった。というより、学校現場におけるサービスの用意のノウハウがあるのは、より小規模に限定された人工島における教育機関だけである。
そのため、社会全体がそれに対応するというのは制御ができない。
沖野宮高校では発生する問題をセフィコットを使って解決していた部分がある。
そこで、セフィコットからの引継ぎなども行うことによって、なんとか形にしているのだ。一年や二年では足りないことというのはいろいろあるが、逆に、一年や二年で十分足りることだってある。それがサービスの拡充である。
魔戦士関係が浅くであっても関わっていた大学の学生を新卒で従業員として雇ったりして、人数を補充したりしている。
若くてかわいくて優しい女性がいるというだけで、悩みを相談できる環境というのは作られる場合もあるのだ。高校生なんてみんなバカなので。
さて、それらのサービスの説明が行われた後で、演武が行われることになった。
のだが、ちょっと『これどないすんねん……』という雰囲気になったのだ。運営本部が。
「はっはっは!こりゃすげえな。面白そうだぞ」
「そうですね。清磨様」
闘技場の観客席では、清磨と敦美が元気そうに観戦していた。
「あんなに強いのがゴロゴロいるなんてな。あいつらのデータはあるか?」
「はい。調査結果では、上級生の中でも『上位陣』といえる実力の持ち主たちです」
「へぇ……上位一割ってところか。それであの実力。やっぱりこの学校はすごいねぇ……」
楽しそうにしている清磨。
そんな彼だが……現在、敦美の膝に頭を乗せつつ観戦している。
胸も尻もいい形をしている敦美の体を存分に堪能しているようだ。
ちなみに、観客席の彼の傍には、彼の会社の『社員』であろう女子生徒が並んで座っており、容姿のレベルも全員が高いこともあって、秀星の言った通り、ハーレムといった雰囲気がある。
「さてと、そろそろ俺も準備した方がいいかね?」
「そうですね」
「敦美。朝森秀星のデータは集めてるよな。俺と戦えばどうなると思う?」
「……」
側近といえる敦美に対して聞く清磨。
それに対する敦美の答えは、苦笑である。
ただし、少し清磨が視線を横に向けるだけで敦美の大きな胸が視界に入ってくるほどなので、清磨から敦美の表情は見えない。
しかし、長い付き合いのようで、清磨は特に何も言わずに起き上がった。
「さてと、そろそろ準備するか」
★
秀星と清磨の戦いの時間が近くなってきた。
なお、この対戦カードに対して興味が薄いものは思ったよりも多くはない。それ相応に注目されている対戦カードだ。
そうなっている理由としては、それぞれに対する事前情報が特徴的なのである。
これは新入生にとっても上級生にとっても同じことだ。
まず清磨に関していえば、新入生と上級生の多くがものすごく多い女子の新入生に対して疑問を抱くのは当然であろう。
その上で既に、『多額の利益を叩き出す高品質の素材を取り扱う会社』が存在し、その会長が時島清磨であり、現在は沖野宮高校に通っているということが魔法省管轄のメディアを通じてすでに知れ渡っている。
その多くの美少女たちの存在と、その中心にいる時島清磨に関係があるとなれば、当然気になる。
しかも、時島清磨自身が魔戦士としても相当な実力者となれば話題になるのは尚更だろう。
秀星に至っては、魔法省が公式に発表する『世界一位の魔戦士』である。
当然、海外でのサイトでは秀星が一位。みたいな情報は記載されていないものの、同時に日本以外の国々では『自国の一位の魔戦士は世界でも一位』とは絶対に言わないのだ。
それ以上の言葉は不要。
この対戦カードが気にならないわけがない。
「……さてと、初めましてだな。秀星先輩?」
「ああ。そうだな。しかしまぁ……自信に満ちた表情してるな」
「当然だ。自分に自信がないのに、こんな場に来るわけねえだろ!」
「だな」
自信に満ちていて、声がでかくて、そして実力があることは確かなのだろう。
(……人生楽しいだろうな)
そんなことを考えた時、ブザーが鳴り響いた。
「かかってこいよ」
「なら、まずは準備運動からするとしますか!」
楽しそうな様子で剣を構えて突撃してくる。
自信があるにふさわしい速度であり、実際にその突撃は速い。
秀星はフォルノスから受け取っていた沖野宮高校の近辺で売っている剣で受け止めた。
斬撃音が鳴り響くが、突撃してきた清磨の勢いすら完全に止める。
「へえ、思ってたより軽く止めるんだな」
「世界一位舐めんなよ」
「なら、ギアを上げてこうか!」
楽しそうに剣を振るう清磨。
自分に自信があって、その力を試したいがゆえに、強者に対して遠慮も容赦もなく向かっていく。
……こういう、何の恨みもなく、ただ挑むという姿勢。秀星は嫌いではない。




