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「どう言う事だ?」
狭間は不思議そうに弘毅に訊いた。
「……。」
弘毅はなんて答えて良いのか、わからなかった。
「その人、記憶喪失みたいだよ!……」
そんな弘毅に助け舟を足したかのように奈津は
狭間にそういった。
「……そ、そうか…」
狭間は哀れむ目で弘毅のことを見詰めた。
そこに狭間の妻・加奈子がトレーに医療器具を
色々乗せて、狭間達が診察室の中に入ってきた。
加奈子は診察室のベットに横たわる弘毅を見るなり、
「駿一……」
と叫ぶと持っていたトレーを床に落とした。
駿一は狭間達の一人息子だった。
だが、一年前に無慮の事故で駿一は死んでいたのだった。
一人息子の駿一をとても愛していた加奈子は
今でも息子が帰ってくるのではないかと思っていたのだった。
だから、目の前の弘毅を見たとき、加奈子は
息子の駿一が帰ってきたと思ったのだった。
「お前。何処で何をしているんだ?……」
狭間は弘毅を見詰め、その場に立ち尽くしている
妻の加奈子をそう叱った。
ハッと我に返った加奈子は
「ご、ごめんなさい……」
床に散らばった医療器具を拾った。
弘毅は前も同じような光景を見た記憶が
あった。
その時、弘毅の頭が再び、疼いた。
それと同時に弘毅の脳裏に家族と戯れる
映像が甦った。
それはまるで巻き戻されたビデオテープのように……
弘毅の異変に気付いた狭間は
「大丈夫かね?」
優しく、弘毅に声をかけた。
「駿一、大丈夫?……」
加奈子も心配そうに弘毅のことを覗き込んだ。
「お前。この人は駿一じゃないぞ……
それに駿一は……」
「そ、そうよね……」
加奈子はがっかりした顔をした。
そんな加奈子の悲しげな表情を見た瞬間、
弘毅はともて温かくて懐かしい気持ちがこみ上げて来て、
『か、母さん……』
と思わず、加奈子に言った。
「お帰り!駿一。」
加奈子は涙を零しながら、弘毅を抱きしめた。
「た、ただいま! 母さん」
弘毅は加奈子が言う駿一と自分が違うのは
わかっていた。
だが、弘毅は何だか、自分の居場所に
帰ってきた気がした。
それに加奈子の悲しげな表情を見た弘毅は
何だか、加奈子のことを哀しませたくなかったのだった。
狭間の診療所でゆっくりと休んだ弘毅は
すっかり良くなった。
でも、弘毅はまだ自分が誰なのか、思い出せなかった。
一人息子だった駿一と弘毅を重ね合わせている
加奈子はそんな弘毅ことを強く引き留めた。
別段、行く所もなかった弘毅はしばらく、狭間の
診療所にいることにした。
奈津も弘毅と一緒に狭間の診療所にいたかったが
次の日に仕事がある奈津は一人、東京に帰らないと
いけなかった。
「ねぇ。本当に一人で大丈夫?」
弘毅と別れるのが辛かった奈津は切なそうに
弘毅のことを見詰めた。




