19章 天国白書 (3) 愛
モニカは、白嶺の胸へ頬を寄せた。
湖から吹く風が、二人の髪を静かに揺らす。
遠くでは、鴨たちが何事もなかったように水面を漂い、小鳥のさえずりだけが穏やかな時間を刻んでいた。
「先生……」
モニカは小さく笑う。
「今日は、誰にも邪魔されませんね♪」
白嶺は何も言わない。
ただ、穏やかな表情のまま、そっとモニカの手を握り返した。
その温もりに安心したように、モニカは目を細める。
「今日は……私だけを見ていてください」
白嶺は静かに頷く。
二人はゆっくりと立ち上がる。
障子が静かに閉じられた。
縁側には、誰もいない。
湖を渡る風だけが、古い風鈴を優しく鳴らしていた。
◇
白嶺は、静かに右手を上げた。
目の前に広がっていた湖。
古民家。
そして、笑うモニカ。
その世界は、一枚の映像となって宙へ浮かび上がる。
白嶺は、その映像をそっと閉じた。
周囲には、管理中の映像が幾重にも並んでいる。
どれも、誰かが望んだ"天国"だった。
『ボワンッ』
一件の緊急速報が浮かび上がる。
「この国の闇を……」
「そして果たされなかった国民の想いを……」
「私は、この裁判で証明するため、戦い続ける!」
神代朔の声。
白嶺は、それを見ることなく映像を閉じる。
白嶺は右手を滑らせる。
三十ほどの映像が、静かに浮かびあがる。
白嶺は映像を左側へ整列させる。
その一つへ視線を向ける。
ピピッ。
『監察案件 受付』
「開いてください」
映像が展開される。
『中枢化希望者 一名』
『家族間同意率 一〇〇%』
『監察承認 待機』
白嶺は静かに内容を確認した。
『承認』
映像が閉じる。
間を置くことなく、次の通知が浮かぶ。
『相談窓口 応答待機 三件』
新たな映像が静かに開く。
そして、少しだけ微笑んだ。
「順番に繋いでください」
――終




