表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国白書  作者: 凛1129
PR
50/62

16章 ヤエルの天幕 (1) 赤門の木馬

挿絵(By みてみん)


【ビストロ・ル・コパン】

 

「栗山さん、こっちです」

 店の奥にある窓際の席で、佐藤院長が立ち上がり手を振っている。

白嶺とモニカは、佐藤院長のいる席に向かった。

「お待たせ致しました」

 白嶺は軽く会釈をした。

  モニカも続いて一礼し、二人は椅子に腰を下ろした。


「その後、体調はどうだい?」

 と、佐藤は本当に心配そうに聞いた。

「ええ、とくに問題はありません」

「そうですか、無理に記憶を呼び戻すと人体に影響する患者さんもいますからね」

「院長は、もう何か注文されましたか」

「そうだ、忘れていた、お店に悪いな」

 三人は少し笑い、注文をした。

 


 

「栗山さんから連絡があったときは驚いたよ」

 白嶺は、エビアンを飲み佐藤を見つめる。

「研究費、増やしませんか……なんて」

「ええ、今日は患者ではなく、取引の話です」

「若いのに、しっかりしてるんだね」

 佐藤はキッシュを口に運び

「これ、美味いね」

 と、顔が綻んだ。


「要件は二つあります」

「二つ?」

「一つ目は、院長の研究を表に出すことです」

 佐藤はフォークを止めた。


「記憶の再接続と、中枢化後の人格連続性。院長が行った処置は、単なる臨床記録ではありません」

「……あれを、発表しろと?」


「はい。ただし、症例の固有名は出さない。あくまで、記憶サーキットと中枢化の関係性についての研究発表です」

「それで研究費を募る、と」

「ええ。旧東大の一室を使えば、話題性も信用も作れます」


 白嶺はそこで、ようやくエビアンを一口飲んだ。


「二つ目は、講演準備です」

「準備?」

「はい。三点だけお願いします」

「文明局職員が待機できる控室」

「運営用セキュリティ型BANREIとの接続権限」

「万が一のための予備パス一枚」

 

「そう、連絡があった時にも聞いたけど……本当に、それだけでいいのかい? もしくは、悪いことに使うの?」

 

「いえ、保険です」

 佐藤は一口ペリエを口に含み、飲み込んだ。

「保険?」

 

「ビジネスだから、ノーリスクではないと僕は思っているのだけど、そこはごまかさないでくれ」

「内容によっては、協力できないと言わざるを得ない」

 佐藤少し戸惑いながら言った。

 

「——母親探しです」

「それは……?」

「言葉以上の意味はありません」

 佐藤は眉間に皺を寄せ考えた。

 

「営業、続けてもよろしいですか」

 白嶺は微笑みながら佐藤へ確認し

「続けてください」

 と、佐藤の顔も少し和らいだ。

 

「研究だけでは、人は金を出しません」

「ですが、その研究が天国センターの未来と接続されるなら話が変わる」


「院長の研究発表の後に、文明局救済課天国センター統括補佐、ライラ・モニカ・サントスが、天国センター運営の現状と今後について話します」

 

 モニカは軽く会釈をし、佐藤は驚き聞いた。

「それは……行政の人間が関わってくれるのは、ありがたいが、そんな勝手なことできるのか」

「既に稟議は通してあります」

「稟議って……」

「プレゼンも用意してあります。少なくとも必要予算の七割くらいは集められると考えています」

 白嶺は淡々と話を進める。

「院長は、それだけ確——」


「ちょっと待ってくれ!」

「局へ稟議を通すのであれば、当然局は君が動いたことは把握しているじゃないか」

 佐藤は話を遮り、聞いた。

 

「そうですね」

「なら、なぜ個室やセキュリティを?」

 

 佐藤はモニカに視線を向けるが、モニカは目を閉じ、首を横に振った。

 

「君も知らない?」

 

「私の予想では直接うちの次局長があなたを訪ねる」

「その時に、遠慮なく研究費を要求してください」

「残りの三割は、そこで概ね揃うはずです」

 白嶺は目を閉じ答えた。


 佐藤は腕を組み天井を見上げた。

 数十秒。そしてようやく口を開いた。


「それは、君のためになることなのかな?」

 

 白嶺はモニカに視線を向けると、モニカはニコリと笑い、佐藤に片手を向け「どうぞ」と無言で合図をした。


「ありがとうございます」

 白嶺は、深々とお辞儀をした。



——————————


「先生……ちょっと待ってください」

モニカは早歩きで白嶺に言った。

「あと四キロほどです」

「カプセルカーで行けば早いじゃないですか」

「公共の乗り物はできるだけ避けたい」

「でも……」

「急ぎましょう」


 白嶺は、スタスタ歩いて行ってしまう。

 歩幅の小さいモニカはついて行くのがやっとだ。


「先生、教えて下さい」

「なにをですか」

「佐藤院長の時もそうです」

「……」

「合わせます、合わせますけど、もう少しなにをしたいのか教えてもらわないと……」

 白嶺は足を止める。

 モニカが急に止まった白嶺の背中に鼻先をぶつけてしまう。

 

「っー……」

「——急に止まるなー」

 白嶺は振り向かず、モニカに話す。

「見て、感じて、フィーリングで合わせてください」

「そんなこと言われても……メイリンさんの時のようなミスが……」

「問題ありません。事前に決めると人は想定外の出来事が起きたとき、フリーズします」

「……」

モニカはうつ向いた。

 

「恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へつながる——」

 

 宇宙の時間が止まったような沈黙が流れる。

 

「あのぉ先生……?なんですかそれ」

「言ってみただけです、忘れてください」

「はぁ?」

 モニカはキョトンとしている。

「急ぎましょう」

「ちょっ、待ってください」


—————————— 

【ファミリーレストラン HONA3】


「おう、栗山。こっちだ」


 今度はヴィクターが、この店にはまるで似つかわしくない大声で手を振っていた。


「ヴィクターさん、こんにちは」


 二人は握手を交わし、そのままヴィクターが白嶺を軽く抱き寄せる。


「ここは葉巻を吸えねぇみてーだな」


「ええ。でも、ヴィクターさんに注意できる人はいないと思います。店のBANREIが警報を鳴らすくらいでしょう」


 白嶺が言うと、ヴィクターは豪快に笑った。


「ちげぇね」


 そう言って、どかっと椅子に腰を下ろす。


「ご要望の人間、連れてきたぜ」


「あはっ♪ おはまーす♪」


「ええ……」

モニカは思わず声を漏らした。

白いフリルを何枚も重ねた衣装は、下着と見間違えるほど布地が少ない。 雪色のツインテールに、黒いチョーカー。 顔には悪魔を思わせる奇抜なメイク。

どう見ても、文明局の仕事場で会う相手ではなかった。


「ヴィクターさん、ご紹介します。こちらは文明局天国センター統括補佐、ライラ・モニカ・サントスです」


 モニカは軽く頭を下げ、白嶺も続いて会釈をする。


「へー♪ じゃあ、サンちゃんとクリちゃんだ」


「!?」


 モニカの目が丸くなる。


「別の呼び方でお願いします」


「あはっ♪」


 ヴィクターは額に手を当て、大きく首を振った。


「ここに着いてから、ずっとこのザマだ」


「ザマって! ひどーい! このハマキングめ!」


「紹介する。ノワールだ」


 ヴィクターが呆れたように言うと、女性は勢いよく立ち上がった。


「そう! あたしは天才擬装アーティスト、ノワールちゃんじゃっ!!」


 モニカは開いた口が塞がらない。


「本名はエリサ・クルス。南の島の血が入ってる」


 ヴィクターは肩をすくめながら付け加えた。


 そんな三人のやり取りを、白嶺だけは穏やかに微笑みながら眺めていた。

身長130cmの小さな巨人!天才擬態師ノワールの脳内爆音警報 天国白書 外伝 | 凛1129

今回登場したノワールのスピンオフです。


https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28583031


フルカラーライトノベルで作成しています。

笑って、ニヤけて、ときどきドキッ。

世界最強の擬態師が、恋だけは大失敗!?

コミカルでちょっぴりエッチな、130センチの小さな巨人・ノアールの恋物語。全10話

扉絵 10枚

挿絵 19枚

一人称で作成しているので、サクサク読めると思います。

是非ご覧下さい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ