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天国白書  作者: 凛1129
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39/48

12章 鳳凰は羽根を遺す (2) 少女の遺響

挿絵(By みてみん)

数日後。

「なんですか……これは」

 モニカは映像を見て驚いている。

「少女でしょうね」

 白嶺は他の映像を処理しながら答えた。

「なぜ、見てないのに分かるんですか」

 モニカは勘ぐった質問をつつみ隠さず聞いた。

「なぜ……でしょうね」

 白嶺はコーヒーを一口飲み、答えた。


 無邪気に友達と話をしている少女。

 下卑た欲望世界を作っていない映像。

 好きな男性と照れくさそうに話す場面。

 そして家族と共に食事をしている。


「先生これを……どう解釈すれば」

 モニカは無数のデータが羅列する映像を白嶺の前に飛ばす。

 白嶺はそれを横目で一瞬見る。

「脳の状態が若いですね」

 と、興味がなさそうに答える。

「若いってレベルじゃないですよ」

「そうですね」

 

 白嶺は別の映像を横に投げ、奥にあった映像を目の前に持ってくる。

「エオン」

 白嶺の端末から金色の光核が飛び出す。

『久しぶりね。身体の調子はどう』

「問題ないですよ」

 白嶺は作業をしながら答えた。

「新しい被験体NLV-9045に直でアクセスしてくれ」

『そんなことよりご飯、ちゃんと食べてるの?』

「食べてるよ」

「アクセスしてくれ」

『もう、ちゃんと話しないんだから、いつも』

 金色の光核が通信を始める。

「ちっ」

 白嶺は眉をひそめる。

 

 その様子をモニカは見て苦笑いしている。

「先生の唯一の弱点ですね」

「……」

 

 続いて青の光核がゆっくりと端末から浮かび上がった。

「呼んでない」

 白嶺は吐き捨てるように言った。

『そりゃあ無茶ってもんだ』

『連動しているのだから』

 蒼の光核であるアーカが言った。

「なら、戻ってろ」

『いやだね』

「ちっ」

 

白嶺は先ほどの映像をエオンへ飛ばした。

「零層へサーキットしてくれ」

『何を見るつもりだい』

「意識の核だ」

『バカな子だね。今日は40点だ』

 

 エオンはムチのようにしなる光の神経線を出し、被験体のデータに侵入する。

 

『エオン、無駄だ。既に何億層というプロテクトがかかっているはずだよ』

 アーカはゆっくりと白嶺の頭上をユラユラと浮いて言った。

「今、出来ることはそれしかない」

『通常の意識の核じゃないんだ』

『ちょっと考えれば分かるだろう』


「通常……?」 

「……なるほど、ね」

白嶺はアーカを睨みながらゆっくり頷く。

 

『あたしのホストが、これ程バカだと苦労するよ』


「あぁ……先生が馬鹿呼ばわりだ……」

 モニカは憐れんだ目で苦笑している。

 

『白嶺ちゃん、プロテクトが沢山かかっているわよ』

「……ちゃんは、やめ、てくれ」

 蒼の光核がデータと繋がる。

『お前が知りたいのはコレだろ』

「!?」

 白嶺がモニターを見る。

『恐怖ってのは、人間が生きていくために最も必要な記録だ』


 アーカがデータ映像を白嶺に飛ばす。

【扁桃体活動率九八・七%】

【海馬記憶固定を確認】

【情景を再構築……不可】


『さぁ馬鹿息子。どこを見る』

「……」

白嶺はデータを眺める。

「瞬間的に上がっている……記憶?」

『ふぅ……不正解』

 アーカはため息をつき言った。

「ちっ」

 

『記録だ。意識の核が見れないなら記録をみて想像するしかないだろう』

「……」

 

 白嶺はまた小さく頷く。

『お前にはロマンが足りないのだ』

「ロマン?」

『可哀想なこの子を見てわからないのかい』

「可哀想……なのは、想像つくが」

『どこで?』

「どこって」

 

 アーカはデータを切り替え、波線のグラフが突出して上がっている部分が2カ所あった。

「誘拐」

『違う』

「監禁」

『違う』


「……この人」

「恋をしてたんじゃないですか」

 モニカが間に入って言った。

「だから……」

「今の身体を見た時」

「絶望した」

「つまりこの女性は二度」

「一回目は脅迫」

「二回目は老いた自身の姿への……絶望」

 と、モニカは答えた。


『お〜御名答だ、お姉さん』

 アーカはくるりと回って、嬉しそうに点滅している。

 

「……どういうことです」

 白嶺は首を傾げている。


『だから、お前さんはロマンが足りないんだよ』

『ちょうどよい。先日、筆下ろししてもらったそこのお姉さんにお勉強も教えてもらいな』

 

「なにを!?」

 モニカは耳まで真っ赤に染めた。

「戻れ、アーカ」


『恥ずかしがることじゃないだろう』

『人間は好きな相手とそうやって距離を縮める生き物なんだから』

 

「ち、違いますっ!」

モニカは勢いよく否定した。

「先生は仕事で来ただけです!」

『ほぉ?』

アーカは青い光を一度だけ強く明滅させる。

 

『じゃあ、白嶺』

『お前さんはどうなんだい』

「……」


 白嶺は映像から目を離さない。

「私が拒否しなかっただけです」

モニカは額を押さえた。

「言い方ぁ……」

 

『あっはっはっ』

『それがお前の駄目なところだ』

「……」

『だからロマンが足りないんだよ』

 

『そうなの? 白嶺ちゃん、そこのお姉さんとなにかあったの?』

 白嶺は数秒考える。

「モニカさんの意思を尊重しました」

「先生!」

 モニカは顔を真っ赤にして机を軽く叩いた。


 エオンは楽しそうに光を揺らす。

『うふふ』

『二人とも、可愛いわね』


『いいか?白嶺。記憶なんて不確かなものを見るな』

『恐怖だけは嘘をつかない』

 そう言うとアーカは端末に戻っていった。

 

『白嶺ちゃん、今度はお仕事じゃない時も呼んでね』

 エオンも続いて戻った。

「……」

 白嶺の顔は疲れを隠せないほどゲンナリしていた。


 そこに一本の通信が入った。

「先生、次局長から入電です」

「はい、繋いで下さい」

「……繋ぎます」


「お疲れ栗山くん、早速だが進展があった」

 次局長が映像の中で嬉しそうにしている。

「どのような」

 白嶺は淡々と対応する。

「違法中枢化に関することで正式にお達しがあった」

「というと……」

「明日以降になるが、対策本部が出来る予定だ」

「……」

 白嶺は黙って聞いている。

「モニカくんも一緒に明日10:00に私の部屋に来てくれ」

「その頃までには正式なものが届いているはずだ」

「……わかりました。伺います」

映像が切れる。

「先生、良かったじゃないですか」

「これで、この子のような可哀想な人が救われるかもしれないですね」

「……そうかもしれませんねぇ」

 白嶺は俯き、口元を緩ませた。


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