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天国白書  作者: 凛1129
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38/44

12章 鳳凰は羽根を遺す (1) 頽廃の御子

挿絵(By みてみん)

「何が繋がったのですか」

次局長は、薄っすらと浮かぶあごひげを撫でた。

 

「一部の海外では中枢化の信頼性が低い」

「……」

「若い身体を得る代わりに」

「使い終えた身体で正式な中枢化を受ける」

「もし、この仮説が正しいなら」


「禁呪は」

白嶺は一瞬止まる。

「……一つの事業になっています」


次局長は小さく頷く。

「栗山さん」

白嶺は次局長の顔を見る。

「知っての通り、私はあくまでも公人です」

次局長は軽く拳を握り続ける。

「私個人で出来ることなど限られています」

「わかります」


「しかし私は事件から目を背けたことは、一度もない」

「栗山さんが予見する、最悪のシナリオはなんですか」


「児童が資源になることですね」

白嶺は即答した。

「……そう、ですね」

「受け入れを拒否できそうですか」

続けて白嶺は次局長に質問する。

「今のままであれば無理だろう」

「児童の脳が移植された証拠があれば別だが、手術の痕跡を見つけるのは非常に困難だ」


「そうなのですか」

「今時、手術跡なんて残ることはない、そして実際君の脳だけの年齢を考えたら、わかるのではないか」

「……と、いうと」

「君は移植され文明局で預かることになった」

「しかも、私なんかでは到底有することができない程、知識をもって生まれている」


「なるほど……」

白嶺は頷く。


「君の存在だって、説明がつかないんだ」

「古来から伝わる口寄せによって人格が存在していると言われたほうが、まだ納得できそうなほどだ」

次局長は更に続けて言った。

 

「もし、わかるとすれば……」

 次局長は窓に視線を向けた。

「術者だけだろう」

 

「術者……」

 白嶺は小さく息を吐いた。

「じゃあ聞いてみますか」

と、白嶺は呟く。 


 次局長は立ち上がる。

「連絡を取れるのか!?」

「いえ……」

 白嶺は視線を落とした。

「ですが」 

「私の、もう一人の母ですから」

 

「生存しているかもわからんぞ」

「そうですね……」

白嶺は天井を見上げる。


————————

 

「なぁにぃ!?栗山なゆたに会いたい!?」

 

 ヴィクターは映像の中で驚いている。

「ええ、必要になりましたので——」

 白嶺は必要な映像をあちらこちらと動かしながら、視線を映像のヴィクターに向ける。


「会えるわけないだろ。何故、わかってて聞く」

「まずは生存確認です」

 

「!?」

 ヴィクターの眉がわずかに動く。

 否定はしない。驚きだけが先に出た。

「十分です」

「何がだ」

「今の二秒で」 

「……てめぇ」

 ヴィクターの声色が低くなる。


「あくまでも取引です」

 白嶺は別の映像を見ながら言った。

 

「ほう。というと」

「あなたの親類に、経歴上、中枢化できない女性がいますね」

 

 数秒の沈黙が生まれる。

「……なぜ、それを」

ヴィクターの視線が白嶺から逸れる。

「日本でそれくらいの事案を調べるのは、難しいことではありません」

「……」


「いや、取引はしねぇ」

白嶺の手が止まる。

「正確に言えば出来ねぇ」

ヴィクターは吐き捨てるように言った。

「そもそも居場所を俺は知らねえ」

「生存は確認出来るのにですか」


「ああ、その生存も誰かが見たわけではない」

 ヴィクターは映像の中で葉巻に火をつける。

「興味深いですね……」

 白嶺はヴィクターの映像を初めて見て言った。


「ブラックマーケットでも頽廃の御子(たいはいのみこ)と呼ばれているからな」

 

「頽廃の御子……」

 白嶺は天井を見て呟く。

「ああ、完全なる不可視な存在だ」

 ヴィクターは映像の向こうで葉巻を消した。

「そろそろ時間ですね」

「ん?ああ、姉ちゃんの登場か……」

 ヴィクターは時計に視線を送る。


「ご親族の受付、お待ちしております」

「この程度の情報でか!?」

「充分でしたよ……娘さんによろしく」


「……そうか」

ヴィクターの目が少し潤む。

「特別中枢化認定対象者として、ご対応させていただきますよ」


白嶺はそう言うと、映像を落とした。


————————

 

「おはようございます」

 モニカは二つのコーヒーを手に持ち入ってきた。

 一つを白嶺の机に置いた。

「はい、おはようございます」

 白嶺は無数の映像を見ながら答えた。

 

「先生」

「はい」

「隠していること、ありますよね」

「あります」

「では、聞きません」

白嶺は少し驚いたようにモニカを見る。

「その代わり、私にも仕事をください」

「仕事ですか」

 

「先生が裏を見るなら、私は表を見ます」

「私は文明局の人間ですから」

「そうですか……」


 白嶺は天井を見上げる。

「それでは……まず……」

「まず……」

 モニカは喉を鳴らす。

「新規で被験体が二名入ってくるのですよ」

「はいっ」

「その中枢化の手続きをお願いします」

「……はい、それから」

 

モニカは白嶺を真剣な眼差しで見ている。

「ええ、それだけです」

「それだけ!?」

「はい……そうですね」

 

「んっっっ!いつもと変わらないじゃないですか!」

モニカは両手を腰に持っていき、目を見開いて言った。


「変わりませんよ。仕事ですから」

「そうじゃなくて、あるじゃないですか、こう色々、表と裏、陰と陽みたいな」

「次局長に怒られちゃいますよ?そんなこと言ってたら」

 白嶺はコーヒーを一口飲み言った。

 

「もういいですっ!」

 モニカはそう言うと、デスクに戻っていった。

 白嶺は二名の新規被験体のデータを目の前に持ってくる。


【中枢化名 山口 和也 109歳】

【婚姻期間 53年】

【配偶者 死亡】

【財産整理 完了】

【親族同意 取得済】

【中枢化判定 適正】

白嶺は一度だけ頷く。

指を鳴らすように映像を横へ流した。

 

【中枢化名 伊東 ファリーダ 146歳】

【婚姻期間 15日】

【配偶者 日本国籍】

【特別中枢化申請】

【親族 なし】

【全財産譲渡 完了】

【判定 審査中】

白嶺の指が止まる。

映像を拡大する。

婚姻届。

入国履歴。

資産移動。

口座。

白嶺は無言のまま順番に確認していく。

「……」

頬杖をつく。

「ここまであけすけ、とはね……」

口元だけが少し緩んだ。

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