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天国白書  作者: 凛1129
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36/43

11章 甘密の鎖 (2)楽園の客

挿絵(By みてみん)

「おはようございまーす」

自動ドアが開くとモニカは小さな声で、

入ってきては机の椅子に腰を掛ける。


「おはようございますモニ……ライラさん」

と、端末の映像に入力しながら白嶺は答えた。

映像を左に流し続けて言った。

「日曜日に南米から中枢化予定者が来ます」

「日曜日……ですか」

「はい」

「その話を今するんですか」

「今する話ですので」

「そうですか」

「モ……ライラさんの嫌いなチェロさんの依頼者です」

「別に好き嫌いでは……」

と、モニカは言いかける。

白嶺は映像をモニカのもとへ流す。

映像はモニカの前で止まる。

映像にはマフィアには見えないデータが映し出されている。


モニカは一瞬天井を見ては、一通り内容を見て“許可”のボタンに触れ、白嶺に映像を流し返した。

「モ……ライラさん、ありがとうございます」

白嶺はいつもの微笑みを返し言った。

「もう、モニカでいいです!」

肩を竦めてモニカは言った。


白嶺は次々と映像を立ち上げる。

30個ほど映像が立ち上がったところで

「アーカ」

と白嶺は呼ぶ。

端末が光り、青色の光核が飛び出す。

「遅い」

アーカは言った。

「今日はそれほど時間がないのですよ」

白嶺はデータ映像を選びながらアーカの前に飛ばした。

「これくらい自分でできるだろ」

と、アーカは言う。

「ちっ」

白嶺は舌打ちをする。

「青のBANREIとお話する時だけ先生怒りますね」

モニカはニヤけた顔で言った。

「いぇ……いや問題ありませんよ」

と、白嶺はアーカを睨みながら言った。

「バグや余計なコードが入っていないか、調べて下さい」

続けて、今度はゆっくり言葉を選ぶように白嶺は指示した。


「はいはい」

アーカはデータへ接続する。

「時間は……」

「45分ってところだね。答えは——“ある”だよ」

「そうか。始めてくれ」

青い光核は解析の文字を映像に出した。


「45分か……」

白嶺は椅子の背もたれに身体を預けた。

そして天井を見ながら片膝を抱えた。


沈黙を消したのはモニカだった。

「先生」

「はい」

白嶺は、一拍おいて答えた。

「先生は私を好きなんですか?」

モニカは立ち上がり白嶺に聞いた。

「はい」

モニカは目を開き言った。

「じゃあ恋人ですか?」

白嶺は、少し天井を見上げた。

「……わかりません」

少し間を置いて答えた。


「それは、私ではダメだと言うことですか」

 間髪入れずモニカは目に薄っすらと涙を浮かべて言う。


白嶺は黙って聞いている。

「先生はいつもそうです!」

「言葉だけ理解している!」

「好きなら恋人でしょう!?」


モニカは声を荒げて言った。


白嶺はモニカの机にゆっくりと歩いていく。

 

モニカは顔を覆って身体を少し震わせる。

モニカの横に白嶺は両膝を抱え床に座る。


「先生!?」

モニカは目を見開き言った。


白嶺はモニカの二の腕にそっと手を置き、微笑みながら言った。

「僕には“恋人”が、わかりません」

モニカは黙って目を覆って聞いている。

「でも言語っ……言葉として言えることがあるのであれば……」

白嶺は、少しずつ丁寧に続ける。

「人を好きになった自分……?」


モニカは顔を白嶺にゆっくり向ける。


 

「それで恋愛は成立しているのではないでしょうか」


 

白嶺はモニカを見て、優しくそう言った。


『ガキだねぇ』

青い光核のアーカは言った。

「ちっ」

白嶺は、横を向き、少し不満そうな顔をする。

「アーカ!黙って」

モニカがアーカに向かい言った。


「はいはい………」

アーカはデータの一つをモニカの前に持っていった。

そこには“検索中”の文字が大きく映し出されていた。


「人を好きになったらそれで恋愛は成立なのでしょうか」

モニカは白嶺を見てそう聞いた。

「はい」

「片思いだとしてもですか」

「はい」

続けて白嶺は言った。

 

「人を勝手に想う事にルールはありません」

「勝手にって」 

白嶺の言葉を聞きモニカは少し微笑んだ。

 

——————


日曜日、午後二時。

重い自動ドアが開く。

葉巻の煙が先に部屋へ流れ込んだ。

「ご注文頂いたピラルク、お持ちしました」

ヴィクターは眠る男を一瞥すると、葉巻を指で軽く叩いた。


「南米からのエンリケ・コスタさんですね」

「既に遷移状態(せんいじょうたい)とは準備が些かお早いようで」

白嶺はヴィクターの目を見て微笑んだ。


ストレッチャーの男は目を閉じたまま微動だにしない。

呼吸は規則的。

表情には苦痛も安堵もなかった。

まるで自分から夢を見ないことを選んだ人間のようだった。


「今回は俺も知らん」

ヴィクターは煙を吐き言った。

「——と言うと?」

「受け渡しがあった時点でこの状態だ」

「これ程“怪しい人です”と分かりやすいのも珍しいですね」

白嶺は微笑みながらそう言った。


ヴィクターは腕を組み

「 先方の指示は、今日中に中枢化を終えろ、モニタリングする時の最初は栗山1人で見る。これだけだ 」と言った。


二十二時四十六分。 中枢化が完了した。 モニターにはエンリケ・コスタの世界が静かに描き出されていく。

家族と思われる人、現代の街もそのままが、描かれていく。

老いた皺がゆっくり消えていく。

背筋が伸びる。

白髪が黒く染まる。

指先を見つめる。 一度握る。 もう一度開く。 ゆっくりと拳を作り、小さく笑った。


空へ紙幣を降らせる。

消す。

今度は腕時計。

高級車。

屋敷。

全て数秒で消した。

最後に、一人の女性だけを残した。


白嶺はじっとそれをモニタリングしている。


「ハクレイ……クリヤマ?」

「なっ!?」

白嶺の目が大きく開く。

「伝言がある……」

白嶺は黙って聞いている。

エンリケ・コスタとは目線は合っていない。


「今回、よいパイプが出来たと思っている」

「パイプ……?」

白嶺は思わず口にするが、中枢化者と交信する機能などついていないので、会話にはならない。


「これからも、私のような人間が増えるだろう……」

エリンケは続ける。

「私は白界化しない」

「!?」

白嶺の動きが止まる。

「もちろん、ハクレイ・クリヤマにも恩恵はあるそうだ」

エンリケは更に続ける。

「情報」

「わかる限り提供出来るはずだと」

「これからも良い関係でいたい」

「以上だ」

エンリケは美しい中東辺りの雰囲気がある女性を中枢化の力により呼び出し抱き寄せ言った。

 

「これで私は72人のフーリーが与えられる」

エンリケは女性の頬を優しく撫でた。

白嶺は無言で端末を操作した。

「アーカ」

『もう入ってる』

「エオン」

『私もです』

二つの光核が同時に内部へ侵入する。


数秒後。

『ダメ』

『記録領域ごと切り離されてる』

『私達でも開けられない』


白嶺は数秒だけ画面を見つめた。

「そうですか」

それ以上、端末には触れなかった。


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