表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/72

第9話:音のない包囲

第9話をお読みいただきありがとうございます!

ついに潜んでいたネズミ(バルトス子爵)の尻尾を掴んだアレンとルシアン。

今夜、深夜の旅館を舞台に、元・新選組副長の本領発揮となる「夜襲」が幕を開けます。魔法を刀で切り裂くアレンの圧倒的な実戦スキルをお楽しみください――!

執務室の窓を夜の帳が深く飲み込んでいた。

ルシアンの指先が、横領の疑いがある帳簿の筆跡をなぞる。


「……【魔導解析・真筆鑑定エコー・トレーシング】」


青白い光が文字から立ち上り、書いた者の魔力の波形を可視化する。

ルシアンの瞳は、湖面のように冷たく冴え渡っていた。


「……間違いありません。筆跡の奥に混じる魔力の残滓は、我らド・グランヴェル家に従属するバルトス子爵のものです」


バルトス家。魔鉱石の所持を公認され、領地の物流を支える一族だ。その当主が、恩義ある主家を裏切り、私欲のために横領を働いていたのである。


土方は静かに和泉守兼定の鯉口を切り、その刃の曇りを確かめた。


「……鼠の尻尾を掴んだな。場所はどこだ」


「旅館『月の雫』。子爵が自ら買い上げ、私物化している密会場です。今夜、そこで祝杯を挙げているとの情報が入っています」


土方は地図の一点を指でトン、と叩いた。


「夜襲をかける。一番襲撃しやすいのは、旅館のような逃げ場のない狭い空間だ。酒で油断している今なら、反応も遅れる。夜なら人目も少なく、万が一脱出されても夜闇に紛れるのは俺たちの領分だ」


かつて京都の路地裏や池田屋で修羅場を潜り抜けてきた男の言葉には、絶対的な説得力があった。

ルシアンはその提案を即座に採用し、信頼の置ける騎士団を極秘裏に招集した。


■ 嘲笑と静かなる鬼


『月の雫』を騎士団が音もなく包囲する中、隊列の後方に位置する土方へ、騎士たちの不躾な私語が届く。


「……なぜ平民のガキがここにいる?」

「ルシアン様の気まぐれか。実戦では足手まといになるだけだろうに」


前世、武州のバラガキと呼ばれた頃から聞き飽きた嘲削だ。

土方は一瞥もせず、ただ夜風に身を任せていた。


(……信頼ってのは、実力で捥ぎ取るものだ。口で説明するほど暇じゃねぇよ)


土方の心中に、揺らぎなど微塵もなかった。


旅館の正面。ルシアンが凛とした声を張り、夜の静寂を切り裂く。


「バルトス子爵!! 貴殿に魔石横領の疑いがある。……同行願いたい!」


中から慌てふためいたバルトス子爵と、その配下たちが現れた。

ルシアンの急襲は、彼らにとって完全に計算外の事態であった。


「な、何を仰るルシアン様! 証拠もないのに……ここは我が家の私有地、立ち入りは許されませんぞ!」


子爵は密かに配下に合図を送る。時間を稼ぎ、その隙に裏口から証拠を運び出す算段だ。


ルシアンは冷徹な面持ちで土方へ頷いた。


「アレン、読み上げろ」


土方は懐から一通の書状を取り出し、朗々と読み上げた。


「――ド・グランヴェル家当主、ガラルド様のご下命である。バルトス子爵による横領の嫌疑が濃厚となったため、ルシアン・ド・グランヴェルに全権を委ね、全容解明と捕縛を命ずる。……さらに、国王陛下よりも調査権任命の信託を拝受している」


「な……王国の任命だと!?」


子爵の配下たちに、凄まじい動揺が走る。

だが、引き返せぬ一人が逆上し、ルシアンに向かって剣を抜いた。


■ 粛正の旋風


その刹那、土方の体が音もなく動いた。


「……甘いな」


和泉守兼定が鞘から解き放たれる。

下から上へ、電光石火の逆袈裟に振り抜かれた一撃が、配下の胸を真っ二つに裂いた。

鮮血が夜の闇に鮮やかに散り、地面を汚す。


アレンを侮っていた騎士たちが、その神速の一閃に「なっ……!?」と息を呑んだ。


「横領の事実に加え、主家への反逆……。もはや問答は無用だな。騎士団、かかれ!」


ルシアンの号令と共に、凄絶な戦いの火蓋が切られた。


土方は先頭を切って敵陣へ飛び込んだ。

狭い屋内、乱戦。それこそが彼の最も得意とする戦場だ。

酒で注意散漫になった護衛たちの斬撃を、半歩の身のこなしでいなし、その隙に首、足、背中と、急所を的確に、容赦なく断ち切っていく。


「平民のガキだと……? 化け物か、あいつは……!」


騎士たちが戦慄する中、一人の敵がルシアンに魔法を放とうとする。だが、ルシアンが「【消散ディスペル】!」と一喝し、その魔力構築を無効化した。


その隙を、土方が見逃すはずもない。間合いを詰め、和泉守兼定を脳天から振り下ろす。


裏口から逃げ出そうとした者もいたが、土方の指示通り完璧に包囲していた騎士団が、闇の中から次々と仕留めていった。


そこへ、子爵側の魔法士が狂ったように特大の火魔法を放つ。


「死ねぇ! 平民が!」


目の前に膨れ上がる、視界を覆うほどの火球。だが、土方は速度を緩めず、真正面から向かっていった。


「……火遊びは終わりだ」


一閃。

放出された火球の「芯」を、兼定の刃が正確に叩き切る。魔力を失った炎が霧散し、魔法士が絶句する。その瞬間の間に、土方の刃はその喉笛を深く貫いていた。


「アレン、大丈夫か!」


「……問題ない。それより、主犯を逃がすな」


ルシアンもまた、見事な魔法で戦場を支配していた。

水魔法で高圧の弾丸を放ち、護衛数名を気絶させると、土魔法で鋭い岩の棘を突き出し、敵の退路を封じる。土方はその鮮やかな技術に、心の中で小さく感心した。


■ 禁忌の召喚


裏口から逃げようとしていたバルトス子爵を、風魔法で加速したルシアンが追い詰めた。


「……そこまでだ、子爵!」


「……お、おのれぇ……こうなれば、刺し違えてでも!」


追い詰められた子爵が懐から不気味な黒い魔石を取り出し、床に叩きつけた。


「現れろ、サンドワーム!」


地鳴りとともに床が激しく弾け飛び、巨大な環状の牙を持つ怪物が姿を現した。


「っ!? 狂ったか……Aランク以上の魔物の無許可召喚は、王国の厳罰対象だぞ!」


「知るか! 捕まればどのみち終わりだ! 殺せ、サンドワーム!」


巨大な牙がルシアンに襲いかかる。ルシアンは障壁を展開しようとしたが、土方がその首根っこを掴んで強引に横へ投げ飛ばした。


「なっ、なぜ邪魔を……!」


「見てろ。あいつの牙、毒が滴っていやがる。あの質量の突進に毒が混じっていれば、障壁ごと貫かれて死んでたぞ」


土方の指摘通り、地面に突き刺さった牙から紫の毒煙が上がっていた。

ルシアンは冷や汗を流し、アレンの戦慄すべき「実戦勘」に鳥肌を立てた。


「……ルシアン、腰を据えろ! 最大火力を溜めろ。あいつの注意は俺が引く!」


土方が和泉守兼定を低く構え、巨大な化け物の前に単身立ちはだかった。

サンドワームの猛攻を紙一重でかわし、その硬い皮膚の「隙間」を的確に斬り裂いていく。緑色の体液が噴き出し、怪物が苦悶の奇声を上げた。


「今だ、やれ!」


「……【極大旋風・焦熱波グランド・ノヴァ】!!」


ルシアンが練り上げた最大魔法が、サンドワームを完全に飲み込んだ。炎と風の渦が怪物を内側から焼き尽くし、やがて巨大な死骸がドサリと地に伏した。


■ 夜明けの戦果


自らの切り札が無残に倒されたのを見て、バルトス子爵はその場にへたり込んだ。


「……あ、あぁ……嘘だ、我が家の魔物が……」


土方は刀に付着した怪物の体液を無造作に振り払い、静かに刀を鞘に収めた。

パチン、と冷たく響いた鯉口の音が、凄絶な夜襲の終わりを告げた。


「……これで、一匹目だな」


夜明けの光が差し込む中、土方の瞳には、まだ冷徹な鬼の光が宿っていた。

バルトス子爵を相手に、完璧な夜襲を決めたアレンとルシアン!

最初はアレンを舐めていた騎士たちも、魔法を叩き切るその異次元の剣技に完全に言葉を失っていましたね。スカッとしていただけたら嬉しいです!


そしてラストの一言、「一匹目」。屋敷のネズミ狩りは、これで終わりではないのか……!?

次回の展開が気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)での応援をよろしくお願いします。皆さんの応援が、執筆の最大のエネルギーです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ