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第8話:鼠(ねずみ)を炙り出す算段

第8話をお読みいただきありがとうございます!

屋敷の帳簿から「魔石の横領」を見つけ出したアレン。まだ若いルシアンが身内の裏切りに動揺する中、アレンは元・新選組副長としての「組織を率いる者の覚悟」を冷徹に説きます。

いよいよ屋敷に潜むネズミを炙り出す、鬼の暗躍が始まります――!

執務室の窓から差し込む夕日が、土方の手元にある帳簿を赤く染めていた。

隣では、ルシアンが魔導書の記述を熱心にノートへ書き写している。


その静寂を、土方の低い声が切り裂いた。


「……ルシアン、少し手を止めろ。見ておかなければならんものがある」


「おや、驚きました。アレンが僕を仕事に誘うなんて。何か面白い記述でも見つかりましたか?」


ルシアンが軽い足取りで歩み寄る。土方は黙って、開いた帳簿の数値を指差した。


「ここだ。過去三ヶ月の魔石の支出報告と、倉庫の在庫証明が一致していない。……それも、一箇所や二箇所の書き損じなどという次元ではないぞ」


ルシアンは覗き込み、最初は不思議そうに首を傾げていた。

だが、土方の指摘に従って計算を追い始めると、次第にその顔から血の気が引いていった。


「……これは。報告よりも、三割も多く消費されたことになっていますね。でも、騎士団の演習記録にはそんな記載はありません。……まさか、父上に報告されている数字と、実際の在庫が違うというのですか?」


「ああ。誰かが帳簿を改ざんし、その差分を懐に入れている。……組織を内側から蝕む鼠が、この屋敷に居るということだ」


ルシアンは愕然とし、震える手で帳簿を閉じた。


「そんな……執務官たちは皆、父の代から仕えている信頼できる人たちです。僕に魔法を教えてくれた人だっている。信じられません……」


若さゆえの動揺。土方はそんな主の瞳を、逸らすことなく真っ向から見据えた。


「ルシアン。上に立つ人間が一番警戒すべきは、敵の刃ではない。身内の身勝手な欲だ。信じるのは勝手だが、数字というものは嘘を吐かん。……これを放置すれば、いずれお前の家は内側から腐り落ちることになるぞ」


厳しい土方の言葉が、静かな執務室に響き渡る。

ルシアンは一瞬、圧倒されたように目を見開いたが、やがてその口元に小さな笑みを浮かべ、クスッと声を漏らした。


「……ふふ、本当に君はいつも子供っぽくないですね、アレン。その年で、どうしてそんなに世知辛い真理を知っているのですか? 時々、僕よりもずっと長く、厳しい世界を見てきた人のように感じますよ」


ルシアンの向けた視線は、単なる驚きを超え、深い信頼と好奇心が混ざり合っていた。

対する土方は、視線を帳簿に戻したまま、低く、重みのある声で返した。


「……世の中の道理というものは、どこへ行ってもさほど変わらん。誠を尽くして命を張る奴がいれば、陰で舌を出して仲間を裏切る奴もいる。俺はその両方を、嫌というほど見てきただけだ」


土方はそこで一度言葉を切り、鋭い眼光をルシアンへ向けた。


「子供だの大人だのという枠に、俺を当てはめるな。今はただ、この腐敗を断つための刃として俺を使え。……お前がこの家のあるじとして立つつもりなら、な」


ルシアンは居住まいを正し、小さく、だが力強く頷いた。


「……わかりました。アレン、僕はどうすればいい? 父上に今すぐ報告すべきでしょうか」


「いや。改ざんを行った者が屋敷のどこに潜んでいるか分からん以上、伝える相手は極力制限すべきだ。不用意に動けば、感づいた鼠どもに証拠を隠滅される恐れがある。まずは奴らがどこで餌を食っているか、その尻尾を掴むのが先決だ」


土方は不敵に口元を歪めた。


「お前には、これまで通り『何も気づいていない主』を演じてもらう。餌場はわかっている。……近いうちに、魔石の追加搬入があるはずだ。そこを叩く」


土方の唇が、わずかに吊り上がった。

それは戦場での勝利を確信した時の、冷徹な軍師のかおであった。


■ 潜む影と、決意の瞳


翌日。土方は訓練場でセレナの指導をしながらも、視線は屋敷の裏手にある倉庫の動きを鋭く追っていた。

セレナは土方に教わった基本の構えを熱心に繰り返している。


「アレン……。あの、お兄様と何かあったのですか? 今日のお兄様、なんだか少し、顔が怖かったので……」


少女の直感は鋭い。土方はセレナの頭に軽く手を置いた。


「……案ずるな。其方の兄は少し、大人になるための階段を登っている最中だ。お前は自分の剣に集中しろ。迷いは刃を鈍らせるぞ」


「――はい!」


その日の夜。土方は自室で「和泉守兼定」の鯉口を切り、刃の曇りを確かめた。

前世においても、組織の綻びを直すのは常に「血の仕事」であった。規律を破った者に待つのは、いつだって容赦のない粛正のみ。


(……江戸だろうが異世界だろうが、人の欲に変わりはねぇな。……さて、どうするか)


土方は静かに立ち上がり、夜の闇に紛れて屋敷の回廊へと消えていった。

鼠を炙り出し、その首を刎ねるための――彼独自の「粛正」の時間が始まろうとしていた。

ルシアンとの間に、固い信頼のラインが結ばれた第8話でした!

上に立つ者としての覚悟を語るアレン、大人の色気と凄みが出ていて格好いいですね。

そして夜の闇に消えたアレン。新選組副長による「異世界初のネズミ狩り」が次回、ついに開幕します……!


続きが気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)で鬼の副長を応援していただけると大変励みになります!

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